相続法改正後の遺留分について

司法書士 廣澤真太郎
こんにちは。司法書士の廣澤です。

今更ながら、相続法改正後の遺留分制度について、備忘録としてあらためて知識を整理した記事です。

少しマニアックな知識なので、上級者向けの記事になります。

 

[toc]

 

無料!遺言の必要性診断チャート

 

遺留分制度の改正

 

遺留分制度の改正前と改正後の違い

 

民法(相続法) 改正前 改正後
法的性質 物権的効力
※遺贈した目的物の所有権を相続人に帰属させる
債権的効力
※受贈者に対する金銭請求権を有することになる
請求権 遺留分減殺請求権
※形成権なので、遺贈等を遺留分の限度で”無かった事”にできる。
遺留分侵害額請求権
※金銭債権なので、遺贈等を無かった事”にはできない。
侵害する贈与、遺贈の有効無効 有効 有効
権利を行使方法 裁判上、裁判外どちらでも可 裁判上、裁判外どちらでも可
不動産の遺留分侵害 ①登記未了の場合
遺留分を有する相続人は相続登記ができる。
②既に登記している場合
侵害の限度で移転登記請求権を有する。
侵害額の限度で金銭請求権を有するにとどまる。
不動産で清算したい場合は、金銭の支払いに代えて、不動産で代物弁済をするなどすることになる。
遺留分権利者 配偶者・直系尊属・直系卑属(代襲者含む) 配偶者・直系尊属・直系卑属(代襲者含む)
時効 相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年 相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年
※旧法の法解釈に変更はないため、旧法の「単に知った時ではなく、侵害があったことを知りかつ減殺できる事まで知ったとき」が基準となることは変わらない

 

支払う資力がない時はどうする?

旧法の時と同じように、遺言を作成する際に遺留分に気を付けなければならないという点は変わりません。

資力がない場合には、有益費償還請求をされた時と同じように、債務の全部又は一部の支払いについて、裁判所は相当の期限を許与することができることとされました。

新法1047条

 

 

改正法が適用されるタイミング

実務で気を付けたのは、改正法が適用されるタイミングについてですが、基準は【相続開始日】と【改正法施行日】の前後関係です。

✅ 相続開始日が原則的施行日より前(平成31年6月30日以前)の場合は「遺留分減殺請求権」

✅ 相続開始日が原則的施行日より後(平成31年7月1日以降)の場合は「遺留分侵害額請求権」

 

施行日前の贈与や遺贈だとしても、相続開始が施行日後であれば新法が適用されます。

 

 

遺留分侵害額の計算方法の復習

【遺留分の額】 - 遺留分権利者が受けた特別受益の価額 + 遺留分権利者が取得すべき遺産の価額 ) + 遺留分権利者の承継債務の額

 

A 遺留分の額

a【財産の価額】 × 1/2(直系尊属のみの場合1/3) × 遺留分権利者の法定相続分 

 

a 財産の価額

相続開始時の積極財産の額 + {α 第三者に対する生前贈与(原則1年以内) + 相続人に対する生前贈与(原則10年以内)} - 相続債務全額

新法:1043条

 

α 生前贈与についての整理

財産の価額算定時の贈与 第三者が受贈者 相続人が受贈者
贈与の時期 原則:相続開始前1年間でおこなったもの 原則:相続開始前10年間でおこなったもの
例外:当事者双方が遺留分権利者へ損害を与えることを知って贈与したときは、期間外のものも算入する。 同左
贈与の内容 限定なし 婚姻もしくは養子縁組又は生計の資本として受けた贈与に限る。
※特別受益としての贈与

 

 

参考:「相続法改正と司法書士実務」東京司法書士会民法改正対策委員会編

第九章 遺留分

(遺留分の帰属及びその割合)

第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。

一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一

二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一

2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。

 

(遺留分を算定するための財産の価額)

第千四十三条 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。

2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。

第千四十四条 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。

2 第九百四条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。

3 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

第千四十五条 負担付贈与がされた場合における第千四十三条第一項に規定する贈与した財産の価額は、その目的の価額から負担の価額を控除した額とする。

2 不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなす。

 

(遺留分侵害額の請求)

第千四十六条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

2 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。

一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額

二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額

三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額

 

(受遺者又は受贈者の負担額)

第千四十七条 受遺者又は受贈者は、次の各号の定めるところに従い、遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含む。以下この章において同じ。)又は贈与(遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限る。以下この章において同じ。)の目的の価額(受遺者又は受贈者が相続人である場合にあっては、当該価額から第千四十二条の規定による遺留分として当該相続人が受けるべき額を控除した額)を限度として、遺留分侵害額を負担する。

一 受遺者と受贈者とがあるときは、受遺者が先に負担する。

二 受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

三 受贈者が複数あるとき(前号に規定する場合を除く。)は、後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。

2 第九百四条、第千四十三条第二項及び第千四十五条の規定は、前項に規定する遺贈又は贈与の目的の価額について準用する。

3 前条第一項の請求を受けた受遺者又は受贈者は、遺留分権利者承継債務について弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは、消滅した債務の額の限度において、遺留分権利者に対する意思表示によって第一項の規定により負担する債務を消滅させることができる。この場合において、当該行為によって遺留分権利者に対して取得した求償権は、消滅した当該債務の額の限度において消滅する。

4 受遺者又は受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する。

5 裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第一項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。

 

(遺留分侵害額請求権の期間の制限)

第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

 

(遺留分の放棄)

第千四十九条 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。

2 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。

 

 

相続・遺言のご相談

相続に関連する業務内容一覧

  相続に関するの業務内容一覧 当事務所では、主に、次のような業務をメインとして行っています。 (例) ・相続による不動産の名義変更、戸籍収集 ・預金、有価証券の相続手続き ・遺産をお預かり ...

続きを見る

 

知識ページ一覧

知識ページをご覧になりたい方はこちらから

債権の差押えによる債権回収について

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 例えば、お金を貸していて、相手が支払いを怠っている場合に、相手の預貯金を差押えたいというケース等の、債権執行について記事にしてみました。 債権執行について 債権執行の根拠法は、民事執行法です。 (債権執行の開始) 第百四十三条 金銭の支払又は船舶若しくは動産の引渡しを目的とする債権(動産執行の目的となる有価証券が発行されている債権を除く。以下この節において「債権」という。)に対する強制執行(第百六十七条の二第二項に規定する少額訴訟債権執行を除く。以下 ...

ReadMore

解体工事業の登録

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 業務で調べる機会がありましたので、解体工事業の登録について、記事にしてみました。 解体工事業の登録 一定金額に満たない家屋等の建築物その他の工作物の全部又は一部の解体工事又は解体工事を含む建設工事を請け負おうとする方で土木工事業、建築工事業又は解体工事業に係る建設業許可をもたない方は、 あらかじめ、工事を施工する区域を管轄する都道府県知事の登録を受ける必要があります。   神奈川県:建設業課横浜駐在事務所建設業審査担当   登録を ...

ReadMore

不動産購入時の調査について②

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事は、不動産売買の仲介を不動産会社に依頼しない場合に、買主が最低限、確認すべき事項をまとめたものです。   不動産について調査すべき事項 前回の記事の続きです。     13.接道義務(再建築不可) 接道義務(土地上に建物を建てる場合には、幅員4m以上の建築基準法上の道路に、敷地が2m以上接していなければならない)を満たしていない場合は、原則として、土地上に建物を再建築することができません。   前面道路 ...

ReadMore

不動産購入時の調査について①

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事では、不動産売買の仲介を不動産会社に依頼しない場合に、買主が最低限、確認すべき事項をまとめたものです。 仲介業者なしで売買は可能か? 不動産会社に仲介を依頼しなくても、取引自体は可能です。 すでに取引相手が決まっていて、融資も受けないといった場合、仲介手数料である売買価格の3%+6万円がもったいないため、不動産会社に依頼をしたくないといったケースもあるかと思います。   しかし、取引に不動産会社を挟まない場合、重要事項の説明を受ける ...

ReadMore

寄付について

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 「遺言で寄付を」という趣旨のチラシをよく見かけますので、寄付について調べてみました。     寄付(寄附)とは? 公のことや事業のため、金銭や品物を贈ること。 辞書から引用   寄付という言葉は、物品等を含みますが、区別する意味で、物品等を寄付する場合は、寄贈と表現することもあるようです。   寄付市場は拡大中 2010年の個人寄付総額は約4800億円ですが、2020年の個人寄付総額は、1兆2,162億円です。 ...

ReadMore

介護保険制度について

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 介護保険について調べる機会があったので、記事で情報をまとめてみました。   介護保険とは 介護保険制度は、高齢者の介護を、社会全体で支え合う仕組みです。 介護保険法 第一条 この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保 ...

ReadMore

会社設立後の許認可ごとの必要な事業目的

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 会社設立の際に、許認可を控えている場合は、事業目的に許認可に耐えうる文言を入れておく必要がありますが、 毎回確認するのは大変ですから、ある程度まとめて記事にしてみました。 (R5.7.15編集)   許認可が必要な事業例 業務内容 目的の記載例 運送業 一般貨物自動車運送事業 ※(許可)トラックなどの運送 特定貨物自動車運送事業 ※(許可)荷主が1社に特定されているトラックなどの運送 貨物軽自動車運送事業 ※(届出)軽トラック、125CC以 ...

ReadMore

残高証明書・取引履歴の取得

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。  聞かれることの多い、相続手続時における残高証明書と預金口座の取引履歴の取得について、記事にしてみたいと思います。 残高証明書・預金口座の取引履歴の取得 相続時に必要な場面 これらの資料は、相続税申告が必要なケースで、準備することになります。   残高証明書 特定の日付時点における、預金、有価証券、投資信託などの残高、保有口数などを、金融機関が証明してくれる書類です。   預金口座の取引履歴とは? 預貯金口座の過去の入出金の履歴が ...

ReadMore

死亡届と死亡記載事項証明書 

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事では、死亡届の取り扱いについてまとめています。   死亡届とは? 届出義務者は、死亡事実を知ってから7日以内(国外で死亡があったときは、その事実を知った日から三箇月以内)に、役所に届出をしなければなりません。 遺体を安置している葬儀社が、代わりに提出してくれることもあります。   第八十六条 死亡の届出は、届出義務者が、死亡の事実を知つた日から七日以内(国外で死亡があつたときは、その事実を知つた日から三箇月以内)に、これを ...

ReadMore

相続人が誰もいない場合

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事は、相続人が誰もいない場合の手続きについて記載したものです。 ご自由にご覧ください。 相続人が誰もいない場合に、財産はどうなる? わかりづらいですが、まず、相続財産は法人になります。財産それ自体が法人格を持つということです。 そして、その相続財産を管理及び清算するためには、利害関係人又は検察官からの請求により、家庭裁判所で相続財産の清算人を選任してもらう必要があります。 第六章 相続人の不存在 (相続財産法人の成立) 第九百五十一条 相続人の ...

ReadMore

 

HOME

 

 

この記事をかいた人

-相続・相続放棄, 記事一覧, 遺言書