この記事は、医療法人の登記について、株式会社との違いを主に、備忘録としてまとめたものです。
ご自由にご覧ください。
医療法人とは?その類型
医療法を根拠として、病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所又は介護保険老人施設の運営を目的として設立することのできる法人です。医療法39条
類型については、以下の厚生労働省の画像がわかりやすいです。
医療法の目的
第1条 この法律は、医療を受ける者による医療に関する適切な選択を支援するために必要な事項、医療の安全を確保するために必要な事項、病院、診療所及び助産所の開設及び管理に関し必要な事項並びにこれらの施設の整備並びに医療提供施設相互間の機能の分担及び業務の連携を推進するために必要な事項を定めること等により、医療を受ける者の利益の保護及び良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を図り、もつて国民の健康の保持に寄与することを目的とする。
医療法人社団と医療法人財団
社団と財団の違いは基本知識なので、省略します。
医療法人の99%が社団たる医療法人(医療法人社団)のようですので、財団の記載も省略します。
医療法人社団の類型
医療法人社団の中にも、区分があります。
1.持分あり(経過措置型)
① 出資額限度法人
社員の退社や解散時の払い戻しの上限を、出資額と同額にとどめる旨の定款規定を持つ法人のことです。
② 持分ありの医療法人社団
現在、新たに持分のある旨の定款規定は設けることができなくなりましたが、経過措置として、平成19年4月1日以前に設立した医療法人社団で、次の記載が定款中に存する場合は、経過措置型医療法人社団として、当面の間、存続が認められています。
・「本社団が解散した場合の残余財産は、払込済出資額に応じて分配する」
・「社員資格を喪失した者は、その出資額に応じて払戻しを請求することができる」
2.持分なし
① 特定医療法人
条件に該当して承認を受ければ、特定医療法人となり、法人税の軽減が受けられるという区分です。
(特定の医療法人の法人税率の特例)
第六十七条の二 財団たる医療法人又は社団たる医療法人で持分の定めがないもの(清算中のものを除く。)のうち、その事業が医療の普及及び向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与し、かつ、公的に運営されていることにつき政令で定める要件を満たすものとして、政令で定めるところにより国税庁長官の承認を受けたもの(医療法第四十二条の二第一項に規定する社会医療法人を除く。)の当該承認を受けた後に終了した各事業年度の所得については、法人税法第六十六条第一項、第二項及び第六項の規定にかかわらず、百分の十九の税率により、法人税を課する。
② 社会医療法人
認可を受けた場合は、医療法42条に定める業務のほか、軽減税率が適用でき、かつ一定の収益事業を行うことができるという区分です。
収益事業の種類(日本標準産業分類(平成25年10月30日総務省告示第405号)に定めるもののうち、次に掲げるもの)
①農業、林業 ②漁業 ③製造業 ④情報通信業 ⑤運輸業、郵便業 ⑥卸売業、小売業 ⑦不動産業、物品賃貸業(建物売買業、土地売買業を除く。) ⑧学術研究、専門・技術サービス業 ⑨宿泊業、飲食サービス業 ⑩生活関連サービス業、娯楽業 ⑪教育、学習支援業 ⑫医療、福祉(病院、診療所、介護老人保健施設又は介護医療院に係るもの及び医療法第42条各号に掲げるものを除く。) ⑬複合サービス事業 ⑭サービス業
さらに、上記2つは以下の2つに分かれます。
① 基金拠出型
法人の資金調達手段として、定款中に基金に関する条項のある法人で、最近の医療法人社団の多くはこの方式を採用しているようです。
② 非基金型
基金とは?
社団医療法人に拠出された金銭その他の財産であって、当該医療法人が拠出者に対して医療法施行規則第30条の37及び第30条の38並びに当該医療法人と当該拠出者との間の合意の定めるところに従い返還義務(金銭以外の財産については、拠出時の当該財産の価額に相当する金銭の返還義務)を負うものをいいます。引用:厚生労働省
この基金には、返還時に利息をつけることはできませんし、持分がない法人の場合は、法人に対して返還請求もできない(基金とは別に、法人で定めた基準で退職金をもらうなど)ということになります。
3.認定医療法人
持分ある法人が、持分のない法人へ移行する場合に、認定を受けることができるという制度ですが、数が少ないようですので記載省略します。
株式会社との明確な違い
ここからが本題です。
1.必置機関
理事、理事会、監事、社員総会が必置機関です。
理事会は、平成27年の改正医療法施行以降に、必置機関となりました。古い医療法人社団の場合は、定款規定に理事会の記載がないこともありますが、これはおそらく、平成27年から2年以内に定款変更が必要とされているところ、忘れているケースです。
この場合、どこにも記載がないですが、理事会は必ず設置されています。
2.理事長の資格要件&任期
原則、医師又は歯科医師の資格を有する理事のみが、理事長になることができます。医師又は歯科医師の免許のコピーは登記添付書類です。
ただし、都道府県知事の認可があれば、非医師も理事長となることができます。この場合は申請書に到達年月日を記載のうえ、その認可書が添付書類となります。
任期については、選任から2年以内の総会終結時に任期満了するわけではなく、2年以内(過ぎると権利義務役員)となります。
(例)定款附則で最初の任期が4月30日とされている場合、通常は、それからずっと任期満了日は4月30日で、5月1日が重任日になり、本来、横にはずれないということになりますね。
第四款 役員の選任及び解任
第四十六条の五 医療法人には、役員として、理事三人以上及び監事一人以上を置かなければならない。ただし、理事について、都道府県知事の認可を受けた場合は、一人又は二人の理事を置けば足りる。
2 社団たる医療法人の役員は、社員総会の決議によつて選任する。
3 財団たる医療法人の役員は、評議員会の決議によつて選任する。
4 医療法人と役員との関係は、委任に関する規定に従う。
5 第四十六条の四第二項の規定は、医療法人の役員について準用する。
6 医療法人は、その開設する全ての病院、診療所、介護老人保健施設又は介護医療院(指定管理者として管理する病院等を含む。)の管理者を理事に加えなければならない。ただし、医療法人が病院、診療所、介護老人保健施設又は介護医療院を二以上開設する場合において、都道府県知事の認可を受けたときは、管理者(指定管理者として管理する病院等の管理者を除く。)の一部を理事に加えないことができる。
7 前項本文の理事は、管理者の職を退いたときは、理事の職を失うものとする。
8 監事は、当該医療法人の理事又は職員を兼ねてはならない。
9 役員の任期は、二年を超えることはできない。ただし、再任を妨げない。
3.兼任の禁止 ※都道府県により違いあり
① 次の者は、理事と監事に就任できない
・医療法人と取引関係にある、営利法人等の役職員
② 次の者は、理事に就任できない
・監事
③ 次の者は、監事に就任できない
・理事、管理者、職員
・理事と三親等以内の親族
・医療法人と顧問関係にある弁護士、公認会計士及び税理士やこれらの従業員
・出資している社員
④ 次の者は、医療法人の役員や職員になることができない
・評議員
⑤ 社会医療法人の場合は、細かい禁止規定がある
・医療法42条の2に定める者
4.登記事項の違い
・事業目的ではなく、「目的及び業務・開設する病院、診療所及び介護老人保健施設・収益事業」。開設している病院の名前や所在地が登記事項ということです。
・資本金はなく、「資産の総額」が登記事項のため、増減資時に登記義務は発生しない。その代わり、毎事業年度終了後3か月以内に、資産の総額を毎回登記しなければならない義務があります。
・「理事」「監事」「理事会設置会社の定め」「公告の方法」などは登記事項ではありません。理事長を再選する際には、理事長になる理事を選任をした社員総会議事録と理事会議事録が添付書類になります。
5.設立には認可が必要
設立前に約半年かけて取得する、都道府県知事の設立認可書がなければ、医療法人を設立することができません。その代わり、公証人の認証は不要です。
ここはNPO法人と同様ですね。
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また、設立認可以外にも、診療所開設許可申請及びその届出、エックス線装置備付届出、保険医療機関指定申請などの準備も必要になります。
6.社員&社員総会
社員は1人1議決権で、定時社員総会は、年1回ではなく、2回開催されています。
その他、運営上の違い
定款変更の前後、登記したとき、解散や組織再編の前後、非医師を理事長に選出する場合など、その都度、認可取得や届出をする必要があります。かなり大変ですね。
(定款変更の例)
1.役員定数の変更、会計年度の変更 2.診療所(病院)の移転 3.診療所(病院)の増設 4.診療所(病院)の廃止、診療所(病院)の名称変更 5.介護老人保健施設の開設 6.訪問看護ステーションの開設 7.その他の付帯業務の開始
(登記事項の例)
1.法人設立 2.従たる事務所の新設 3.事務所の移転 4.解散・合併・分割 4.清算人の就任又は変更・清算の結了 5.登記事項の変更(目的及び業務の変更、名称、理事長の変更、存続期間又は解散の事由を定めたときは、その期間又は事由、資産総額の変更等)
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