疎遠な相続人との連絡手段について 

司法書士 廣澤真太郎
こんにちは。司法書士の廣澤です。

 

この記事では、連絡先のわからない相続人がいる場合や、疎遠な相続人とどのような方法で連絡を取り合い、

相続についての話し合いをすすめるのかという点について、わかりやすく解説します。

[toc]

 

疎遠な相続人の対応について

 

放っておくことはできるのか?

原則としてできません。

 

民法では法定相続分が定められているので、とくに相続人間で協議をしなくてもそれぞれの相続分で財産や債務を承継できるはずですが、手続きとなると話は別です。

 

不動産や車の名義変更だけなら代表者として手続きを進めることはできるにはできますが、動産、不動産の持ち合い状態というのは将来性を考えた時に好ましくないので、採用することはほとんどありません。

また、金融機関は預貯金、定期預金、有価証券の相続手続きにおいては、法定相続人の数名からの請求で預貯金の一部払い戻しというのは断られるのが普通なので、

 

原則として、遺産分割協議を相続人全員で行わなければならないという事になります

 

 

 

なぜ疎遠な相続人が家族の問題に突然現れるのか?

 

そもそもの問題として、なぜ疎遠な相続人が家族の問題に突然関与することになるのでしょうか。

 

 

例えば、再婚を何度もした父のもとで育ち、家族は父の事をあまり詳しく知らないという事情があったとすれば、

その子供たちは父が亡くなったときに突然あらわれた知らない兄弟と話し合いをしなければならない立場になるのです。

 

 

そのような場合に備えて公正証書遺言を残しておくというのが、最も子供たちに負担のない対策になりますが、残念ながらその重要性があまり知られていないため、

実際には遺言をキチンと残されている方は少数派です。

 

 

その他、たんに兄弟間の仲が良くなかったので疎遠になったというケースなどの様々なパターンはあるにせよ、疎遠で連絡先すらも知らない相続人と話し合いをしなければならない状況は、誰にでも発生する可能性があります。 

 

 

疎遠な相続人と連絡をとる方法

連絡先を全く知らないのであれば、「戸籍の附票」を取得することで現在の住所が判明しますので、そこに手紙を送付します。

 

 

住所変更さえもしてなかったら話はべつですが…

 

 

「戸籍の附票」はその相続人の本籍地の市区町村役場に戸籍と一緒に保管されています。相続人の本籍地は亡くなった方の戸籍を追う過程のどこかで判明するはずです。

 

請求できるのは誰か?

1.同一の戸籍に記載のある方(本人や息子など)

2.戸籍に記載のある方の配偶者、直系尊属(父母や祖父母等)および直系卑属 (子や孫等)

3.第三者請求

自己の権利を行使し、又は義務を履行するために必要な場合 → 「疎遠な相続人の住所を調べる」という目的はここに該当します

②国または地方公共団体に提出するために必要な場合

③その他戸籍の記載事項を利用する正当な理由がある場合

 

3の①にあるように、他の相続人は利害関係者ということになりますから、必要な戸籍をそろえて役所に行けば戸籍の附票を取得することができます。

 

 

手紙の出し方

ここは事務所ごとに取り扱いが変わると思うのですが、当事務所では基本的に相続人のどなたかから、手紙をまずはだしていただきます。

そこから連絡があれば連絡先をお教えいただいて、法律的なことなどの詳しい事情は私からお伝えします。

 

なぜこのようなことをするかというと、

突然、専門家から連絡がくると身構えてしまう方がいらっしゃるからです。 

 

 

ご自分の立場として考えてみてください。

上にあげたように、知らない兄弟がいたという事情で考えてみましょう。

 

ある日、突然

「あなたには亡〇〇様の相続について話し合いをする権利と義務がありますから、ご連絡ください」

 

 

このように弁護士、司法書士から手紙がきたらどう思いますか?

このご時世ですから、

 

詐欺かな?

 

と手紙が即ゴミ箱行きという事が考えられます。

また、こう思う方もいらっしゃるかもしれません。

 

相手が弁護士、司法書士をたててきたのなら、こちらもプロに依頼すべきなのかな?

 

そう思って弁護士に相続相談すると、弁護士は相続人の1人の味方になれますから、「あなたにはこのような権利があります。こう主張すべきです。」とそそのかされて泥沼になる可能性まであります。

 

逆に、司法書士は相続手続きには中立的な立場で関与するので、相続人のうち誰かの味方にはなれないのですが、残念ながら司法書士という職業自体知らない方が多いですから身構えてしまうのも無理はありません。

 

そのため、相続人のどなたかから次のような要点を記載した手紙をだしていただくのがベターだと思っています。

 

 

手紙の内容

基本事項

・あなたは相続人であること

・相続に関与する場合には話し合いが必要なので、電話番号やメールアドレスなどを教えてほしい事

・連絡先を教えてくれたら、手続きを頼んでる司法書士から連絡がくる事

・連絡をとりあわなければ、相続手続きが進まず、あなたにも様々な責任が発生し、また権利が放っておかれる状態になってしまう事

・財産目録を事前作成したので確認してほしい事 (すでに作っていれば)

 

その他、あまりないケースだと思いますが、連絡を無視される可能性が高い時はデメリットも伝えても良いでしょうね。

・相続に関与したくない場合には、家庭裁判所で相続放棄の手続きをしなければならない事

・義務を具体的に伝える(相続税の納税義務、その他賃料支払義務、借金、保証人の地位を引き継ぐため、金融機関などの債権者から請求される立場にあること)

・放置したままにしておくと、あなたの子供含めご家族に迷惑が掛かってしまう事

・無視をしても最終的には裁判所を交えて遺産分割調停によって強制的に手続きを行うこととなり、強制参加してもらうことになること

 

 

手紙をだしても連絡が取れない時はどうするのか

 

相続人が意思無能力者である場合

認知症などが進行しており、意思表示することが難しくて連絡が取れないような場合には、

親族から成年後見申し立てを行い、成年後見人がかわりに遺産分割協議に参加することになります。

手紙を何度出しても返事がこなければ自宅に行ってみたり、周囲の方から連絡がきて判明するという事もあり得ます。

リーガルサポート:成年後見制度とは

 

相続人が行方不明の場合

家庭裁判所に対して失踪宣告の申立を行うか、不在者財産管理人選任の申立及び遺産分割協議を行うための許可を得るための手続きを行います

失踪宣告というのは長期間不在で生死がわからない行方不明者を、亡くなったものとみなして手続きをすすめることができる制度です。

不在者財産管理人とは、不在者の代わりに財産の保存や管理を代わりに行うことができる専門家を選任するための制度です。

裁判所:失踪宣告の申立

 

無視される

自宅に行ってみるというのも方法だと思いますが、最終的には遺産分割調停を申し立てすることになるでしょう。

遺産分割調停には時間がかかりますし、希望通りの結果になるとは言えず、相続人の仲も悪くなったりするなどあまり良い結果にはなりづらいのであくまで最終手段ともいえるでしょうね。

裁判所:遺産分割調停

 

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回の記事では、疎遠な相続人がいる場合の対応方法についてお話ししました。

 

ポイントはこちらです。

✅疎遠な相続人の住所は戸籍の附票を取得して調べる 

✅相続人の一人から手紙を何度か出す又は自宅に行ってみる

✅それでも連絡がとれなければ、最終的には裁判所を利用する

 

疎遠な相続人がいて手続きを進められないというのは、今となってはもう遅いですが、

「遺言があったらこんなことにはならなかった」という典型例だと思います。

 

相続に関する手続きは生前に対策をしておくことで、ほとんどのトラブルや困難な手続きを予防する事ができますから、

相続開始後の相続人間のやりとりが難しそうな場合にはこの機会に一度考えてみることをおすすめします。

 

少しでも相続手続きの参考になれば幸いです。

 

 

相続・遺言のご相談

相続に関連する業務内容一覧

  相続(不動産・預金・株式等) ↑↑ 戸籍謄本等の書類収集、遺産分割協議書などの書類作成、登記申請・預金解約などの相続手続き、財産調査や借金調査などをまとめてご相談になりたい方はこちら & ...

続きを見る

 

知識ページ一覧

知識ページをご覧になりたい方はこちらから

旧法借地権と新法借地権についてまとめ

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 このこの記事では、借地借家法のうち、とくに旧法と新法の借地権の違いを分かりやすく整理し、その背景や実務上の留意点についても解説します。 借地権とは 建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権の事です。 賃借権ではありますが、譲渡・賃貸することができ、所有権には劣るものの、財産的な価値があります。 (定義) 第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。 一 借地権 建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権 ...

ReadMore

【知らないと損する】相続登記義務化をあらためて、ポイント解説

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 2024年4月1日から、不動産の相続登記が義務化されることになりました。   これにより、相続人は相続が発生した日から一定の期間内に登記を行わなければならなくなります。 この義務化の背景や、相続登記を怠った場合の罰則、そして今後の不動産相続における影響について、この記事では、細かい論点は割愛して、ポイントだけを解説します。 相続登記義務化の背景 不動産の相続登記が長期間行われないケースが多く、その結果として、土地や建物の所有者が不明のままと ...

ReadMore

大切な人の「もしも」に備える。認知症対策の第一歩と専門家のサポート

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事では、認知症対策として、有益と思われる法的サービスをご紹介しております。 大切な人の「もしも」に備える。認知症対策の第一歩と専門家のサポート   「最近、母の物忘れがひどくなってきた気がする…」「父の財産管理がだんだん難しくなってきた…」   もしあなたが今、大切なご家族のことで、そんな不安を感じているなら、決して一人で悩まないでください。認知症は誰にでも起こりうる可能性があり、早期の備えが、ご本人にとっても、ご家族にとっ ...

ReadMore

不動産の名義変更は、当事務所にまずはご相談ください

どんなときに依頼するのがおすすめですか? 例えば、こんなとき! ✅ 不動産の名義を、妻・子供・孫に変更したい ✅ 不動産の名義変更にかかる費用や税金について知りたい  ✅ 不動産の売却、管理について相談したい ✅ これまで一度も司法書士に相談したことがなく、気軽に相談できる司法書士がいないとき   司法書士 廣澤真太郎 こんなときは、ぜひ、当事務所にお声がけください!   どんなことを司法書士に依頼できるのですか? 次のような業務 ...

ReadMore

社団法人・NPO法人の解散、清算結了登記の流れ

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 当事務所に法人の解散・清算結了登記をご依頼いただいた場合の手続の全体像について記載した記事です。       会社の解散・清算・清算結了   前提として会社の解散について簡単に説明します。 まずは、次の図をご覧ください。(図は株式会社のものですが、NPO法人、社団法人でも同様です) このように、法人は解散するだけでは消滅しません。 法人の解散後、清算会社となり、清算手続きを経てから法人格が消滅します。 &nbs ...

ReadMore

親が認知症になったら不動産売買はできない?

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 こちらの記事は、よくある老後の不動産に関する不安とその対策について、記載したものです。   認知症の人は、不動産を売ることができない なぜ、認知症(その他精神疾患)を抱える方は、不動産を売ることができないのか? 認知症が進行すると、判断能力が低下し、自分の意思で物事を決めることが難しくなります。   不動産の売却は、大きな財産に関わる重要な決断です。   そのため、判断能力が十分でない人が、安易に契約を結ぶと、後でトラブ ...

ReadMore

任意後見契約とは

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事では、認知症対策に活用されている任意後見契約について、解説しています。 任意後見契約とは? 任意後見制度とは? 任意後見制度は、成年後見制度の一種です。成年後見制度には、①法定後見制度と②任意後見制度の2種類があります。   ②任意後見制度は、将来、認知症などにより判断能力が不十分になった場合に備え、あらかじめ自分の信頼できる人に、自分の生活や財産の管理に関する事務を行ってもらうように依頼しておくことができる制度です。 動画 厚生労 ...

ReadMore

高齢者のひとり暮らし・生活お役立ち情報

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です この記事は、お隣の大和市のパンフレットを読んでみて、わかりやすく、かつ、知らない制度もあったので、備忘録として記事にまとめたものです。     参考資料 生活お役立ちガイド これ一冊あればひとり暮らしもひと安心!第3版 生活お役立ちガイド 大和市   別サイトの記事 大和市が行う「おひとり様などの終活支援事業」が高齢者を幸せにしている理由     お悩み別 急病が心配。準備できることは? 高齢者見守りシ ...

ReadMore

登録商標の調査について

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事では、会社の設立時等の類似商号の調査について備忘録で記載したものです。なお、商標登録は、弁理士の独占業務です。 商標とは? 商標とは、事業者が、自身・自社の取り扱う商品やサービスを、他人のものと区別するために使用するマーク(識別標識)です。 文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音など、さまざまな商標が存在し、類似している商標の、同じようなサービスを見つけたときは、差し止めを請求をすることが可能です。 基本知識はこちらをご ...

ReadMore

オンライン登記申請時のデータ入力方法

この記事は、法務局からの協力依頼事項を、PDFから書き出しして、備忘録で記事にしたものです。(主に同業者向けの記事です) オンライン登記申請時の入力方法 ※令和4年7月1日現在 ※□は空白スペース   項 目 入力方法 入力方法の説明 適正な入力 誤った入力(法務局で修正が必要)               氏名等   法務太郎   亡法務太郎 「亡」は入力しない。 ただし、相続人不存在の場合の「亡何某相続 ...

ReadMore

 

HOME

 

この記事をかいた人

-相続・相続放棄, 記事一覧