抵当権とは?わかりやすく解説

司法書士 廣澤真太郎
こんにちは。司法書士の廣澤です。

不動産を担保として銀行から融資を受けるような場合に、その不動産に「抵当権」を設定します。

この抵当権とはそもそもなにかという事について少し踏み込んだ記事です。抵当権について最低限知っておきたいことをまとめました。

 

 

 

抵当権とは

住宅ローンを借りた時に、その担保として不動産に設定する権利の事です。

 

下記グレー枠内は、より具体的な記載なのでとばしてしまって構いません。

 

抵当権とは、物権のうち制限物権(後述)の一つで、債務者等が占有したまま担保の目的とした不動産について、その不動産を競売にかけたりした場合に他の債権者に優先して弁済を受けることのできる権利の事です。

例えば、お金を人に貸すときに、支払いが将来滞った時に備えて借主の所有する不動産に抵当権を設定し登記をしておけば、借主をその不動産に住まわせつつ、弁済が滞った時にその不動産を売ったり賃貸したりしてその借金回収を行うことができ、かつ抵当権を設定している不動産については他の債権者に優先してその不動産から弁済を受けることができます。

 

・物権とは

”一定の物を直接に支配し、かつその利用を排他的、独占的に享受することのできる権利”の事です。身近なものだと所有権がそうで、誰かが所有しているものを他人が勝手に使っちゃいけませんよね。直接に支配し利用を排他的、独占的に享受とはそういう意味です。

・制限物権とは

物権のうち、”一定の限定的な目的のために利用する物権の事”をいいます。抵当権や質権がそうで、不動産は債務者に利用させるわけですから、排他的ではなく物権そのものというわけではないですよね。また、抵当権は一つの不動産に複数設定することができますので、そういった面でも所有権とは大きく違います。一つの不動産に複数設定された抵当権の優先順位は「登記」の前後によります。同順位の場合には債権額の割合に応じて弁済を受ける事になります。

他の債権者に優先するとはいっても、元本は他の債権者に優先しますが、利息については遅延損害金を含めて抵当権の実行から遡って2年分迄しか優先しません。

 

 

抵当権が不動産についたまま放っておいていいの?抹消は必要?

ケースごとに確認していきましょう。

 

1.住宅ローンを完済したのに抵当権が残っている場合は、すみやかに抹消しましょう

住宅ローンが残っている場合はそのままでも構いません。逆に、住宅ローンを完済したのに抵当権が残っているのであればすみやかに抹消しましょう。 

 

抵当権を抹消する手続きを進めないと、金融機関から「早く消してくださいねー」と連絡がくるかと思いますが、金融機関としては、日が経って抵当権抹消書類一式をお客さんが失くしてしまうという事態や、あとで何度も問い合わせされるというコストを抑えたいからです。

 

後日、不動産を売却する際や、担保権を再度設定する際に抹消手続きが結局必要になるので、気づいた時点で消しておくことをおすすめします。

 

 

2.抵当権がついた不動産を相続した場合は、住宅ローンの契約内容を確認しましょう

抵当権がついた不動産を相続する場合は、住宅ローンが残っているのかどうかを確認します。

 

住宅ローンが残っていないのであれば、抵当権抹消関係書類を亡くなった方がお持ちのはずなので、それらの書類を探して見つかったら、すみやかに抵当権抹消登記をおこないます。

 

亡くなった後の日付でローン完済となっている場合には、抵当権抹消登記の前提として相続による所有権移転登記(いわゆる相続登記、俗に名義変更とも言う)も行います。

このケースはご自分で登記するのは難しいので、司法書士にお尋ね下さい。

 

 

住宅ローンが残っている場合は、金融機関に連絡すれば今後の手続きについて案内をしてもらえるはずなのでそれに従います。

団体信用生命保険(略して団信)に加入されている事が多いので、保険会社にローンを全額弁済してもらった後で、同じように前提として相続による所有権移転登記も行った後、抵当権抹消登記を申請する事になると思います。

 

※抵当権の債務者と物件所有者が違うといった特殊なケースについての記載ではありませんのでご注意ください。

 

 

3.抵当権の内容に変更があった場合は、金融機関に判断を仰ぎましょう

 

例えば債務者をAからBに変更するというように債権の内容を変更した場合には、「抵当権変更登記」を行う事があります。

 

これらの手続きには抵当権者である金融機関が必ず関与しますので、金融機関担当者から指示してもらいましょう。

 

 

抵当権がついているかを確認する方法

 

不動産の情報は法務局で取得できる「登記事項証明書(全部事項証明書・一部事項証明書)」で確認することができます。 

登記事項証明書は誰でも、手数料を支払うだけで取得することが可能です。

 

 

抵当権を抹消する方法?

 

住宅ローンを完済したら、勝手に抵当権が抹消されるわけではありません。 

 

住宅ローンを完済をした場合、抵当権を消すためには「抵当権抹消登記」を法務局に対して申請する必要があります。

 

ネットを調べたり、法務局の雛形を利用するなどして頑張ればご自分でも行う事ができる手続きですが、法務局は平日しかあいていませんし、司法書士報酬も専門知識を要する割に1~2万円と割安なので、

 

住宅ローンを完済した際には司法書士に手続きをご依頼になるのをおすすめします。

 

 

抵当権を抹消する流れ?

 

1.住宅ローンを完済すると金融機関から抹消関係書類一式が届きます。

具体的には次のような書類一式を用意します。

・解除(弁済)証書

・登記委任状

・原契約書

・登記識別情報通知

・その他印鑑証明書のコピー、閉鎖事項証明書など

 

2.申請書を作成します

申請書を作成します。

※物件の権利関係などを事前にキチンと確認しましょう。

 

3.管轄を確認します。

ネットで物件所在地の【地名 法務局】で検索し管轄を確認しましょう。

 

4.法務局に登記申請します。

書類一式と申請書をもって法務局に登記申請します。

 

書類に不備があれば法務局から後日、電話がありますので、何度か法務局に「補正」に行けば登記完了です。

なお、法務局窓口で登記相談は原則不可(周りの人の迷惑になる)なので気をつけましょう。法務局の窓口は申請窓口であって相談窓口ではないので、嫌な顔をされてあなたの気分を害する事になるだけです。

 

法務局は申請書の内容を事前審査してくれないので、何度か通うことになるのが普通だと知っておくと心理的なストレスが減ります。

※登記名義人の住所が異なる場合などは違う流れになるので、あくまで参考程度にしてくださいね。

 

 

費用はどれくらいかかるのか?

ご自分で登記する場合

✅登録免許税という税金 

・抵当権の数 × (不動産の数 × 1000円)

・住所氏名変更登記1件 × (不動産の数 × 1000円)

※マンションの不動産の数の数え方は、建物1筆 + 敷地権の数

 

✅物件事前調査費

不動産の数 × 謄本取得手数料(334~600円)

抵当権の数や所有者情報などを確認するための費用です。

 

✅事後の謄本確認費用

不動産の数 × 謄本取得手数料(480円~600円)

抵当権がきちんと消されたか確認するための費用です。

 

法務局への交通費   

何度か通う事になると思いますので、数千円

 

司法書士にご依頼になる場合

✅上記の実費

 

✅報酬 

抵当権の数 × 税込1万5000円~

 

✅書類郵送代

数千円

 

抵当権抹消登記はもちろん当事務所にご依頼いただく事もできます。

全て郵送で対応しますので、お気軽にご連絡ください。

 

 

その他の豆知識

専門用語の意味

抵当権者とは

先の例ではお金を貸して、抵当権を設定してもらった人です。お金を貸した人(債権者)と抵当権者は同一人物でなければなりません。

 

債務者とは 

先の例ではお金を借りた人です。

 

連帯債務者とは

お金を例えば夫婦で100万円借りた場合、通常は50万円ずつ負担します。

しかし、「連帯」債務者の場合には両名がその借金100万円について全責任を負う事となり、債権者に100万円請求された一方が全額返済する義務があります。

 

もちろん負担割合よりも多く支払った部分については、連帯債務者の一方に後で請求することはできます。

債権者としては両名のどちらか一方に100万円返してもらえれば良いわけですから、抵当権を設定する場合で債務者複数の場合、連帯債務者として契約されていることでしょう。

 

抵当権設定者とは 

不動産を担保提供した人の事です。先の例ではお金を借りた人が抵当権設定者になることが通常ですが、担保を提供するのはお金を借りた本人に限られません。

例えば借主の父親が持っている不動産を担保提供してもらうというのでも良いわけです。このように不動産を他人のために担保提供した人を物上保証人といいます。

 

抵当権の実行

裁判所を通して、抵当権を設定した不動産から実際に弁済を受けることです。次の2つの方法があります。

1.不動産競売…裁判所において不動産を売却し、売買代金を弁済にあてます。2.担保不動産収益執行…不動産から生じる収益(賃料等)を弁済にあてます。

 

抵当権の性質

性質
付従性 債権がなくなると、抵当権も一緒に消えるという性質。(貸したお金を全額返してもらった瞬間、抵当権も一緒に消える。)
随伴性 担保している債権を誰かに譲ると抵当権も一緒に移転するという性質。(貸金債権を誰かに売ったりすると、その債権を買った人に抵当権も移転する)
不可分性 貸付金が残りわずか10円まで減っていたとしても、全額の弁済を受けるまでは抵当権を設定した不動産の全部について権利が残り、抵当権を実行できるという性質。
物上代位性 抵当権を設定していた不動産が火事で焼失してしまったような場合でも、不動産から形を変えた設定者に支払われる火災保険金に対して、抵当権の効力を及ぼすことができるというような性質。
優先弁済的効力 抵当権を得た債権者は、弁済を受けられなかった場合には、目的物を売ったり賃貸して他の債権者に優先して弁済をうけることができるという性質。

 

抵当権の実行

弁済期になっても弁済が受けられないような場合には、抵当権を設定している不動産を競売にかけるか、賃貸等をしてその収益から弁済を受けるかを選択して抵当権を実行することができます。

 

ただし、不動産競売手続きは高度に専門的で複雑な手続きであり、費用も印紙代と差押登記の登録免許税が不動産の評価額×4/1000、ここにさらに予納金約50~100万円等、多くの費用が発生します。(予納金の一部は戻ってきますが…)

 

そのため、実際には不動産競売をするよりも、抵当権を実行せず債務者に不動産を売却してもらう「任意売却」という手段が取られることが多いようです。

 

売買代金から債権回収をしたほうが不動産を高い価格(競売で売却すると市場価格の50~70%)で売れることや、税金等の手続き費用を節約できるからでしょう。

 

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。

 

住宅ローンを抹消したのであれば、すみやかに消しておくことをおすすめします。

 

抵当権抹消登記は自分で進めることができるレベルの手続きですが、時間や手間、ストレスを考えるとやはり司法書士にご依頼になったほうが良いと思います。

 

ご自分で手続きされる場合には、法務局に何度か通って担当の司法書士相談員にいろいろお聞きになるのが良いかと思います。

なお、役所の司法書士無料相談で「申請書を見てほしい」というのは、マナー違反なので気をつけましょう。

 

以上、少しでも抵当権についての参考になれば幸いです。

 

知識ページ一覧

知識ページをご覧になりたい方はこちらから

医療法人と株式会社の違い

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事は、医療法人の登記について、株式会社との違いを主に、備忘録としてまとめたものです。 ご自由にご覧ください。     目次1 医療法人とは?その類型1.1 医療法人社団と医療法人財団1.2 医療法人社団の類型1.3 株式会社との明確な違い1.4 その他、運営上の違い2 登記申請のご相談2.1 知識ページ一覧 医療法人とは?その類型 医療法を根拠として、病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所又は介護保険老人施設の運営を ...

ReadMore

会社設立後の法人口座開設について

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事は、会社設立時にご質問をいただくことの多い法人口座開設について、記載しています。     目次1 法人口座とは?開設は必須?1.1 法人口座開設のタイミング?1.2 法人口座開設の審査は厳しい?1.3 法人口座をスムーズに開設するために、対策しておくべきこと1.4 もし、開設できなかったら?2 登記申請のご相談2.1 知識ページ一覧 法人口座とは?開設は必須? 名前の通り、法人名義の預金口座のことです。   法人 ...

ReadMore

普通株式と種類株式についての基本知識

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事は、会社法における株式のうち、種類株式についての基礎知識をまとめたものです。       目次1 株式とは?2 種類株式とは?2.1 種類株式の種類3 登記申請のご相談3.1 知識ページ一覧 株式とは? 株式とは、株式会社における社員の地位を指しており、次のような権能があります。 ・株主総会に参加し議決を行使する権利、株主総会決議の取り消しの訴えを提起する権利 ・配当、残余財産の分配を受け取る権利 ・定款、株主名 ...

ReadMore

財産管理制度(所有者不明土地管理制度)についての民法改正

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士・行政書士の廣澤です。 この記事は、所有者不明土地の管理に関する民法の改正について記載しています。 目次1 財産管理制度の見直し1.1 1.所有者不明土地(建物)管理制度1.2 2.管理不全土地(建物)管理制度 2 まとめ2.1 相続のご質問・見積もりはこちら 財産管理制度の見直し 旧法下では、不在者財産管理制度などの財産管理制度は、不在者の財産すべてを管理する制度であるため、土地建物の管理等ピンポイントで利用するものではなく、費用負担や事務作業で過剰な負担を強い ...

ReadMore

共有制度(所有者不明土地等関係)に関する民法の改正について

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事では、令和5年4月1日以降の共有制度に関する民法の改正について、深堀りしていきます。     目次1 共有制度の改正1.1 1.共有物の変更・管理に関するルール  1.2 2.共有関係の解消に関するルール 1.3 相続のご質問・見積もりはこちら 共有制度の改正 令和5年4月1日から、共有に関する制度のうち、おおまかに次の2つが大きく変わります。 1.共有物の変更・管理に関するルール   2.共有関係の解消に関するルール  ...

ReadMore

不動産登記と印鑑証明書の関係?

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事は、登記申請の際の印鑑証明書について、整理したものです。     目次1 不動産登記における印鑑証明書の添付根拠2 省略に関する規定2.1 省略について深堀り3 ご質問・見積もりはこちら 不動産登記における印鑑証明書の添付根拠 根拠は、不動産登記令16条です。   (申請情報を記載した書面への記名押印等) 第十六条 申請人又はその代表者若しくは代理人は、法務省令で定める場合を除き、申請情報を記載した書面に記名押印 ...

ReadMore

社団法人、公益社団法人、NPO法人の違いとは?

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士・行政書士の廣澤です。 社団法人について、聞かれることがあるので、備忘録としてまとめたものを、記事にしてみました。ご自由にご覧ください。   目次1 一般社団法人とは?1.1 法人とは?1.2 非営利とは?2 株式会社と一般社団法人の違いは?2.1 細かい違い3 公益社団法人と一般社団法人の違いは?3.1 細かい違い4 社団法人とNPO法人の違いは?4.1 細かい違い5 法人格による税制上の優遇措置対象一覧表6 会社設立・法人設立登記のご相談6.1 知識 ...

ReadMore

貸金庫とその相続について

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 貸金庫の相続手続きが大変であるというのは周知のとおりですが、 この、問題となりがちな貸金庫について、記事にしておきたいと思います。     目次1 貸金庫に財産関係資料をまとめて保管するのは避けましょう!1.1 貸金庫があると、どうなる?1.2 貸金庫の開扉自体が困難な場合がある1.3 相続トラブルの可能性が高まる1.4 余計な時間がかかり、余計な実費が発生する2 まとめ2.1 相続のご質問・見積もりはこちら 貸金庫に財産関係資料 ...

ReadMore

資産課税の見直し

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 専門ではないですが、勉強はしておかなければなりませんから、令和6年1月1日以降の贈与に関する税制改正について、 備忘録としてまとめておきます。ご自由にご覧下さい。     目次1 資産課税の見直し1.1 相続時精算課税制度について1.2 暦年課税について1.3 教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置について1.4 結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置について2 現行制度との比較表3 背景4 まとめ4.1 知識ペー ...

ReadMore

債権法の改正関連まとめ その2

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事では、民法改正のうち、債権法に関する部分で忘れやすいところを、備忘録としてまとめています。ご自由にご覧下さい。       目次1 意思能力制度の明文化2 錯誤についての改正3 代理人の行為能力4 解除の効力5 瑕疵担保責任6 債権者代位・詐害行為取消権6.1 債権者代位権について明文化されたもの6.2 詐害行為取消権について明文化されたもの7 連帯債務8 弁済について9 危険負担10 消費貸借11 賃貸借11. ...

ReadMore

 

HOME

この記事をかいた人

-不動産登記・税金, 抵当権, 記事一覧