古い仮処分、仮差押の抹消

司法書士 廣澤真太郎
こんにちは。司法書士の廣澤です。

この記事は、古い保全命令の登記をいかにして抹消するかについて備忘録としてまとめたものです。

 

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古い仮処分、仮差押の抹消

登記記録に古い仮処分や仮差押が残ったままというケースに遭遇した場合、物件を所有している方はどうすればよいのでしょうか?

この問題について、記事にまとめてみました。まずは知識のおさらいから。

 

仮処分、仮差押とは

民事保全法で定められた保全命令のことです。受験生にとっては基本知識ですね。

 

仮差押

金銭の支払いを目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発令してもらうことで、その財産を仮に差押(処分をできなくする)することができるという制度です。

 

(仮)差押とありますが、差押との大きな違いは、その目的ですね。

 

仮差押は訴訟の提起前や訴訟中に強制執行に備えて相手の財産を保全するものであり、差押は勝訴判決などの債務名義をもとに、相手の財産から債権回収を行うためのものです。

 

仮差押は金銭の支払いを保全するためのものなので、仮差押解放金を供託することで免れることが可能で、この解放金の額は必ず定めることになっています。

第二款 仮差押命令

(仮差押命令の必要性)

第二十条 仮差押命令は、金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。

2 仮差押命令は、前項の債権が条件付又は期限付である場合においても、これを発することができる。

(仮差押命令の対象)

第二十一条 仮差押命令は、特定の物について発しなければならない。ただし、動産の仮差押命令は、目的物を特定しないで発することができる。

(仮差押解放金)第二十二条 仮差押命令においては、仮差押えの執行の停止を得るため、又は既にした仮差押えの執行の取消しを得るために債務者が供託すべき金銭の額を定めなければならない。2 前項の金銭の供託は、仮差押命令を発した裁判所又は保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所にしなければならない。

 

 

係争物に関する仮処分

係争物に関する仮処分命令は、その現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができます。

例えば、「その不動産は私のものだ」と主張して争っている場合などに利用します。

 

処分を禁止する処分禁止の仮処分や、占有の移転を禁止する占有移転禁止仮処分がありますが、占有移転禁止の仮処分は、占有屋などへの対策ですね。

 

不動産そのものが争いの対象物ですが、裁判所が金銭で解決できると判断した場合に限り、仮処分解放金を定めることができるとされています。

 

仮の地位を定める仮処分

タイトルの手続に関係ないので記載省略します。

 

第三款 仮処分命令
(仮処分命令の必要性等)
第二十三条 係争物に関する仮処分命令は、その現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。
2 仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。
3 第二十条第二項の規定は、仮処分命令について準用する。
4 第二項の仮処分命令は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、これを発することができない。ただし、その期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。
(仮処分の方法)
第二十四条 裁判所は、仮処分命令の申立ての目的を達するため、債務者に対し一定の行為を命じ、若しくは禁止し、若しくは給付を命じ、又は保管人に目的物を保管させる処分その他の必要な処分をすることができる。

 

 

 

 

仮差押と仮処分の執行

不動産の仮差押

不動産に対する仮差押については、次の2つの方法があり、2つともを併用することができます。

仮差押は金銭でも、不動産でも対象にすることができます。

 

① 仮差押登記をする

② 強制管理をする

 

 

不動産の処分禁止の仮処分

所有権に関する登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分については、

①「処分禁止の仮処分の登記」をします。

 

所有権以外の権利の保存、設定又は変更についての登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の執行ついての処分禁止の仮処分については、

②「処分禁止の仮処分の登記及び保全仮登記」を行います。

 

なお、上記の命令がなされると、財産を凍結されたほうは非常に困るわけですから、それなりの担保金(仮差押する財産の何割か)の供託をする必要があります。

 

メモ

旧民事訴訟法に基づく仮処分の場合は、明文の規定がなく、運用が解釈にゆだねられており、必要性を超えて過大な効果が与えられていたようです。

 

 

判決後の流れ

金銭債権に関する訴訟で仮差押しているときは、勝訴判決後に強制執行を申立てして民事執行手続きを行うことができるようになります。

例えば、強制競売する場合は差押に遅れる登記は嘱託抹消され、買受人に移転登記がなされます。

 

不動産に関する訴訟で処分禁止の仮処分をしているときは、「判決による登記」で仮処分に遅れる登記の抹消と、その移転登記を同時申請して完了です。

遅れる登記がない場合は、処分禁止の仮処分登記抹消の嘱託を書記官にお願いする必要があります。

 

さらに、仮処分登記後に不動産を譲り受けた人に対しては、建物収去土地明渡しの強制執行を行うことが可能になります。

 

第四章 仮処分の効力
(不動産の登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の効力)
第五十八条 第五十三条第一項の処分禁止の登記の後にされた登記に係る権利の取得又は処分の制限は、同項の仮処分の債権者が保全すべき登記請求権に係る登記をする場合には、その登記に係る権利の取得又は消滅と抵触する限度において、その債権者に対抗することができない。
2 前項の場合においては、第五十三条第一項の仮処分の債権者(同条第二項の仮処分の債権者を除く。)は、同条第一項の処分禁止の登記に後れる登記を抹消することができる。
3 第五十三条第二項の仮処分の債権者が保全すべき登記請求権に係る登記をするには、保全仮登記に基づく本登記をする方法による。
4 第五十三条第二項の仮処分の債権者は、前項の規定により登記をする場合において、その仮処分により保全すべき登記請求権に係る権利が不動産の使用又は収益をするものであるときは、不動産の使用若しくは収益をする権利(所有権を除く。)又はその権利を目的とする権利の取得に関する登記で、同条第一項の処分禁止の登記に後れるものを抹消することができる。

 

 

どうやって古い仮差押・仮処分の登記を消すのか?

ようやく、本題です。古い保全命令の登記はどのように消せばよいのでしょうか?

保全処分の登記を消すにあたっては、次の方法があります。

 

1.取り下げてもらう方法

保全命令申立をした相手方に、裁判所に対して取下書を提出してもらいます。

不動産決済の際はほとんどのケースで、この方法がとられているのではないでしょうか。

裁判所に書類提出すれば勝手に消してくれるので、簡単ですが、古い登記だと困難でしょう。

 

2.本案の訴え不提起等での取消による方法

いわゆる起訴命令です。

一定の期間を定めて、裁判所に訴訟提起することを命じてもらいます。その間に訴訟提起されなければ、債務者からあらためて申立を行うことで、取り消してもらうことができます。

旧法時代の登記の場合も、旧民事訴訟法を根拠として行うことができますが、判決で取消しを行うという扱いになるようです。時間がかかりそうですね。

 

3.事情の変更による取消による方法

どのような場合に事情の変更といえるか?については条文に記載されています。

口頭弁論にて事情変更の事由を認めてもらわなければなりませんが、何十年も経過していれば、認めてもらいやすいでしょう。

 

①保全の必要性の消滅 (資産状況の変化など)

②被保全権利の消滅  (弁済や免除等で債権が消滅した場合など)

③その他の事情変更  (裁判上の和解等)

(事情の変更による保全取消し)
第三十八条 保全すべき命権利若しくは権利関係又は保全の必要性の消滅その他の事情の変更があるときは、保全令を発した裁判所又は本案の裁判所は、債務者の申立てにより、保全命令を取り消すことができる。
2 前項の事情の変更は、疎明しなければならない。
3 第十六条本文、第十七条並びに第三十二条第二項及び第三項の規定は、第一項の申立てについての決定について準用する。

旧法は747条

 

4.特別の事情による保全取り消し

この方法は、古い仮差押、仮処分の抹消においては使えそうにないので省略します。

 

5.仮差押・仮処分解放金の供託

仮差押の場合は解放金が定められているはずなので、その金額を供託することで、取り消しすることが可能です。

 

 

古い仮差押や仮処分についての問題点

登記簿上の名義人が既に亡くなっている場合にどうすればよいかですが、原則的には、こちらの記事に記載したとおりの調査を可能な限り行い、その債権者を特定します。

相続人を調査した後、相続人全員にたいして取下の協力を仰いだり、申立てを行うことなるということですね。

 

事件の特定については、古い事件記録は廃棄されているのが通常で、申立ての必要物を準備できないということもありえますが、

まれに保存されている場合もありますので、裁判所や法務局に照会していくことも考えられます。

 

公文書である戸籍類の調査については、廃棄されていて相続人の調査もしようがない場合は、報告書にまとめて申立てを行うということもあるでしょう。

なお、戸籍類の収集は司法書士にご依頼いただくとスムーズです。

 

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参考:民事保全の実務〔第4版〕(下) 江原 健志 (著, 編集), 品川 英基 (著, 編集)

 

 

 

 

 

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