この記事では、連絡先のわからない相続人がいる場合や、疎遠な相続人とどのような方法で連絡を取り合い、
相続についての話し合いをすすめるのかという点について、わかりやすく解説します。
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疎遠な相続人の対応について
放っておくことはできるのか?
原則としてできません。
民法では法定相続分が定められているので、とくに相続人間で協議をしなくてもそれぞれの相続分で財産や債務を承継できるはずですが、手続きとなると話は別です。
不動産や車の名義変更だけなら代表者として手続きを進めることはできるにはできますが、動産、不動産の持ち合い状態というのは将来性を考えた時に好ましくないので、採用することはほとんどありません。
また、金融機関は預貯金、定期預金、有価証券の相続手続きにおいては、法定相続人の数名からの請求で預貯金の一部払い戻しというのは断られるのが普通なので、
原則として、遺産分割協議を相続人全員で行わなければならないという事になります。
なぜ疎遠な相続人が家族の問題に突然現れるのか?
そもそもの問題として、なぜ疎遠な相続人が家族の問題に突然関与することになるのでしょうか。
例えば、再婚を何度もした父のもとで育ち、家族は父の事をあまり詳しく知らないという事情があったとすれば、
その子供たちは父が亡くなったときに突然あらわれた知らない兄弟と話し合いをしなければならない立場になるのです。
そのような場合に備えて公正証書遺言を残しておくというのが、最も子供たちに負担のない対策になりますが、残念ながらその重要性があまり知られていないため、
実際には遺言をキチンと残されている方は少数派です。
その他、たんに兄弟間の仲が良くなかったので疎遠になったというケースなどの様々なパターンはあるにせよ、疎遠で連絡先すらも知らない相続人と話し合いをしなければならない状況は、誰にでも発生する可能性があります。
疎遠な相続人と連絡をとる方法
連絡先を全く知らないのであれば、「戸籍の附票」を取得することで現在の住所が判明しますので、そこに手紙を送付します。
住所変更さえもしてなかったら話はべつですが…
「戸籍の附票」はその相続人の本籍地の市区町村役場に戸籍と一緒に保管されています。相続人の本籍地は亡くなった方の戸籍を追う過程のどこかで判明するはずです。
請求できるのは誰か?
1.同一の戸籍に記載のある方(本人や息子など)
2.戸籍に記載のある方の配偶者、直系尊属(父母や祖父母等)および直系卑属 (子や孫等)
3.第三者請求
①自己の権利を行使し、又は義務を履行するために必要な場合 → 「疎遠な相続人の住所を調べる」という目的はここに該当します
②国または地方公共団体に提出するために必要な場合
③その他戸籍の記載事項を利用する正当な理由がある場合
3の①にあるように、他の相続人は利害関係者ということになりますから、必要な戸籍をそろえて役所に行けば戸籍の附票を取得することができます。
手紙の出し方
ここは事務所ごとに取り扱いが変わると思うのですが、当事務所では基本的に相続人のどなたかから、手紙をまずはだしていただきます。
そこから連絡があれば連絡先をお教えいただいて、法律的なことなどの詳しい事情は私からお伝えします。
なぜこのようなことをするかというと、
突然、専門家から連絡がくると身構えてしまう方がいらっしゃるからです。
ご自分の立場として考えてみてください。
上にあげたように、知らない兄弟がいたという事情で考えてみましょう。
ある日、突然
「あなたには亡〇〇様の相続について話し合いをする権利と義務がありますから、ご連絡ください」
このように弁護士、司法書士から手紙がきたらどう思いますか?
このご時世ですから、
と手紙が即ゴミ箱行きという事が考えられます。
また、こう思う方もいらっしゃるかもしれません。
そう思って弁護士に相続相談すると、弁護士は相続人の1人の味方になれますから、「あなたにはこのような権利があります。こう主張すべきです。」とそそのかされて泥沼になる可能性まであります。
逆に、司法書士は相続手続きには中立的な立場で関与するので、相続人のうち誰かの味方にはなれないのですが、残念ながら司法書士という職業自体知らない方が多いですから身構えてしまうのも無理はありません。
そのため、相続人のどなたかから次のような要点を記載した手紙をだしていただくのがベターだと思っています。
手紙の内容
基本事項
・あなたは相続人であること
・相続に関与する場合には話し合いが必要なので、電話番号やメールアドレスなどを教えてほしい事
・連絡先を教えてくれたら、手続きを頼んでる司法書士から連絡がくる事
・連絡をとりあわなければ、相続手続きが進まず、あなたにも様々な責任が発生し、また権利が放っておかれる状態になってしまう事
・財産目録を事前作成したので確認してほしい事 (すでに作っていれば)
その他、あまりないケースだと思いますが、連絡を無視される可能性が高い時はデメリットも伝えても良いでしょうね。
・相続に関与したくない場合には、家庭裁判所で相続放棄の手続きをしなければならない事
・義務を具体的に伝える(相続税の納税義務、その他賃料支払義務、借金、保証人の地位を引き継ぐため、金融機関などの債権者から請求される立場にあること)
・放置したままにしておくと、あなたの子供含めご家族に迷惑が掛かってしまう事
・無視をしても最終的には裁判所を交えて遺産分割調停によって強制的に手続きを行うこととなり、強制参加してもらうことになること
手紙をだしても連絡が取れない時はどうするのか
相続人が意思無能力者である場合
認知症などが進行しており、意思表示することが難しくて連絡が取れないような場合には、
親族から成年後見申し立てを行い、成年後見人がかわりに遺産分割協議に参加することになります。
手紙を何度出しても返事がこなければ自宅に行ってみたり、周囲の方から連絡がきて判明するという事もあり得ます。
リーガルサポート:成年後見制度とは
相続人が行方不明の場合
家庭裁判所に対して失踪宣告の申立を行うか、不在者財産管理人選任の申立及び遺産分割協議を行うための許可を得るための手続きを行います。
失踪宣告というのは長期間不在で生死がわからない行方不明者を、亡くなったものとみなして手続きをすすめることができる制度です。
不在者財産管理人とは、不在者の代わりに財産の保存や管理を代わりに行うことができる専門家を選任するための制度です。
裁判所:失踪宣告の申立
無視される
自宅に行ってみるというのも方法だと思いますが、最終的には遺産分割調停を申し立てすることになるでしょう。
遺産分割調停には時間がかかりますし、希望通りの結果になるとは言えず、相続人の仲も悪くなったりするなどあまり良い結果にはなりづらいのであくまで最終手段ともいえるでしょうね。
裁判所:遺産分割調停
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回の記事では、疎遠な相続人がいる場合の対応方法についてお話ししました。
ポイントはこちらです。
✅疎遠な相続人の住所は戸籍の附票を取得して調べる
✅相続人の一人から手紙を何度か出す又は自宅に行ってみる
✅それでも連絡がとれなければ、最終的には裁判所を利用する
疎遠な相続人がいて手続きを進められないというのは、今となってはもう遅いですが、
「遺言があったらこんなことにはならなかった」という典型例だと思います。
相続に関する手続きは生前に対策をしておくことで、ほとんどのトラブルや困難な手続きを予防する事ができますから、
相続開始後の相続人間のやりとりが難しそうな場合にはこの機会に一度考えてみることをおすすめします。
少しでも相続手続きの参考になれば幸いです。
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