親の一方が死亡し、相続人が配偶者と子供である場合の相続手続の流れと注意点

司法書士 廣澤真太郎
こんにちは。司法書士の廣澤です。

この記事では、突然親の一方が亡くなってしまうケースの相続手続きの流れと、相続における注意点を解説しています。

相続手続きを進めるうえでの注意点を知りたい方は、目次から「相続手続きで注意を要する点」に飛んでください。

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相続手続きの流れ

 

まず、相続人は誰なのか?を確認する

日本の平均寿命の関係上、よくある例として父親が亡くなったケースで考えてみます。

 

 

法で定められた相続人と、その法定相続分は次のようになります。

配偶者である母親がご存命であれば、配偶者とその子供全員が相続人です。

法定相続分:原則、お母様と子供で遺産を2分の1ずつ相続します。子供が複数いれば2分の1をさらに子供の数で按分します。

 

同様のケースで子供のうち誰か1名が既に亡くなっていれば、配偶者と子供、亡くなった子供の子供である孫がそれぞれ相続人になります。 

法定相続分:上記同様です。

 

母親も亡くなっていれば、子供が相続人です。子供が複数いれば子供の数で割り算します。 

法定相続分:遺産を子供の数で按分します。

 

 

 

必ず法定相続分どおりに相続しなければならないのですか

 

そんなことはありません。財産については遺産分割協議という話し合いで誰が受け継ぐのかを決めることができます。

 

 

 

財産を法定相続分どおりに相続するのは、相続人が多いときなど、話し合いがまとまらないケースやもめごとを極力回避しようとするときなどです。

 

財産には不動産など現金のように割合でわけられず、持ち合いするのも好ましくないという財産が含まれますので、

 

通常の実務では、相続人の皆さんで財産をどう分けるかという話し合い(遺産分割協議)を行っていただいたうえで手続きを進めます。

 

 

つまり、財産すべてをお母様に相続してもらうという事もできますし、子供がすべて相続するという方法をとることもできます。 

 

 

遺産の分け方を話合いすることを遺産分割協議と言いますが、この協議はあくまでも遺産についての話合いですから、

原則として債権債務(とくに借金、保証人などの債務に注意)については法定相続分で相続しなければなりません。

相続人間で話し合いをしたからといって、債権者からするとそんなの知ったことではないからですね。

 

 

 

 

 

相続手続は何から手を付ければよく、その流れはどうなるのか?

相続税以外のほとんどの手続きは当事務所にお任せいただくことも可能です

 

【相続手続き概略】

① 相続するか、しないのかの検討
② 相続人調査(戸籍を収集し、相続人を確定)

③ 相続財産や債務額の調査
④ 遺言書の調査
⑤ 相続財産の評価
⑥ 遺産分割協議
⑦ 相続手続き(名義変更や各サービスの解約など)
⑧ 相続税の申告・納税(必要な場合)

 

 

 

① 相続するか、しないのかの検討

ご両親が事業をされていたりするなど、その相続財産に多額の借金が含まれることが明らかな場合に、相続財産をプラスもマイナスも含めて一切相続しないとする手続きの事を、相続放棄と言います。

この手続きは亡くなったことを知ってから3ヶ月以内に行う必要がありますので、まずはその選択を検討する必要があります。

 

 

② 相続人調査(戸籍を収集し、相続人を確定)

戸籍を収集して、相続人が誰なのかを確定します。通常必要になる戸籍等の書類は次のとおりです。

・亡くなった方の出生から死亡までのすべての戸籍(5~6通)

・亡くなった方の住民票の除票

・相続人全員の現在の戸籍謄本 各1通ずつ

 

 

③ 相続財産や債務額の調査

相続人が確定したら、財産額や債務額などを確認していきます。

 

 

④ 遺言書の調査

遺言の有無を確認します。持ち物を整理している間に見つかることがあるので、自筆証書遺言の場合は家庭裁判所で検認手続きを行います。

 

公正証書遺言については、お近くの公証役場に印鑑証明と実印、亡くなった方との関係性がわかる戸籍を持参すれば無料で検索可能です。

自筆証書遺言については、法務局に保管されていれば通知が相続人の一人に届くはずですが、届かない場合は書類一式そろえて法務局で検索します。

ただし、法務局の検索までは「遺言を残してある」と故人が言い残していたような場合を除いては行わないことが多いです。

 

 

⑤ 相続財産の評価

遺産分割を行う前提として、財産をどのように評価するのかという問題があります。

例えば不動産の評価方法は1物4価といって、4つも5つも財産の評価方法がありますから、相続財産をどのような基準で評価して分け合うのかは、

相続人全員で事前に確認しあっておかなければならないでしょう。あとで相続人の誰かに不満がたまらないようにするためです。

 

遠方の相続人や疎遠な相続人がいるような場合には、専門家を介して財産目録を作成しておくことで、相続トラブルに発展する確率を減らすという方法をとることも考えられます。

 

 

⑥ 遺産分割協議

遺産の額がや債務の額が具体的に確定したら、それを相続人の皆さんでどのように分けるのかという話合いをします。

 

⑦ 相続手続き(名義変更)

遺産の分け方が具体的に確定したら、あとは手続きを進めていきます。

不動産なら相続登記、預貯金なら解約、株式なら名義変更や売却、車の名義変更などです。

 

 

⑧ 相続税の申告・納税(必要な場合)

相続税が発生する場合には、相続開始後10か月以内に相続税の申告をする必要があります。

この申告は難しいので税理士に依頼するのが良いでしょう。

 

相続税についてはこちら 相続税:国税庁

 

 

 

 

 

相続手続きで注意を要する点

まずは、親の一方が死亡し、相続人が配偶者と子供である場合の手続きの注意点をお話しておきます。

 

 

勝手に話を進めようとする行為はやめましょう

これは相続手続き全般に言えることですが、「遺産はこういう風にわけるから!いいね?」という進め方をすると、相続人の1名に不満がたまって後でトラブルになるケースがありますのでやめましょう。

 

相続手続きは大切な財産が絡む手続きなので、重要で慎重さが求められる手続きです。

しかし、中にはその重要性についてご存じない方など、相続手続を軽く考えている方もいますから、仕事を優先していて空返事をしてしまうという事もあります。

それで後になって当時興味を示していなかった相続人から、「話が違う!おかしいじゃないか!」と主張され訴訟トラブルに発展するということがあり得るわけです。

 

遺産分割協議は必ず財産の「情報を開示」し、その情報や相続手続の重要性についてキチンと「理解したか」どうかも確認し、そのうえで「納得」をしたのかという3段階の確認をしたうえで手続きを進めましょう。

 

 

誰が相続をするのか?という問題

配偶者と子供のどちらが相続すべきか?という問題があります。

話し合い次第ですので誰に相続するのが一番良いとも言えません、相続人の皆さんのご意向次第です。

 

節税を重視すれば遺産の一部を子供にという場合もありますし、感情を重視すれば遺産全てを配偶者にという場合もあります。

 

筆者は司法書士ですから、親が居住している不動産の相続に的を絞ってメリットやデメリットについてあげておきますので、参考にしてみてくださない。

 

とくに、不動産を後日売却することを考えているのか、相続人同士仲が良いのか悪いのか、費用面を重視するのか感情面を重視するのか等については大切な視点です。

 

 

配偶者が不動産を単独相続する際のメリット・デメリット

メリット 

✅ 配偶者と同居していた場合は住んでいる家の処分権は自分にあるという点で安心。

✅ 自分の不動産を子供に生前に譲るというストレスがなく、勝手に子供に家を売却されたり担保に供される心配もない。

✅ 後日売却を予定しているのなら、譲渡所得税の居住用財産の特例が利用できるので節税ができる。

✅ 生活が苦しくなった時に不動産を自由に売却したりリバースモーゲージ(担保)などを利用し生活費の捻出ができる。

✅ 一次相続の相続税が1億6000万円まで控除(配偶者控除)されるので、ほとんどのケースで相続税がかからない。

 

デメリット 

✅ 自分が後日亡くなると子供に再度、相続登記をしなければならないので、子供の費用負担が増える。

✅ 認知症になってしまった場合に施設入居のため自宅売却による費用捻出がスムーズに行えない。

✅ 二次相続で相続税が発生するとわかっている場合には子供にとっては基礎控除額が減るので不利になるときもある。

 

配偶者に遺産を単独相続させたいという理由で、子供が「相続放棄」をおこなうという選択は絶対にやめてください。※詳細は下記

 

 

子供が不動産を単独相続する際のメリット・デメリット

メリット

✅ 相続登記を2度も行わなくて済むので子供が支払う費用を節約できる。

✅ 親が認知症になったときに成年後見制度を利用する必要がなく施設入居時に不動産を売却してあげることができる。

✅ 相続税の二次相続との兼ね合いについて考えなくてすむ。

 

デメリット 

✅ 子供が勝手に親の不動産を売却したり、担保に供することが可能になるので、仲が良くない場合は注意。

✅ 実家に住んでいない子供に固定資産税が発生する。

✅ 売却する場合は、その子供にのみ譲渡所得税が発生し、同居していなければ居住用不動産の特例も使えない。

✅ 単独では配偶者の生活が苦しくなった時に不動産を自由に売却したりリバースモーゲージ(担保)などを利用し生活費の捻出ができないので、子供の支援、協力が不可欠になる。

✅ 子供が同居していない場合で家なき子でもなければ、相続税計算における小規模宅地の特例が使えない。

 

 

配偶者と子供で共有する際のメリット・デメリット

メリット

✅ 民法で定められた持分での公平な分け方なので、トラブルになりにくい。

 

デメリット

✅ 不動産を共有した場合手続きが煩雑になりやすい。例えば後日売却を考えている場合は共有者全員で手続きが必要になるなど。

✅ 共有者が亡くなるたびに相続登記が別個に必要になるためコスト負担が大きい。

✅ 共有者の一人が勝手に持分売却できるので、疎遠な相続人同士だと後々トラブルになる可能性が残る。

✅ 税負担や管理費負担などをどうするかという問題が残る

 

 

配偶者に単独させようとして相続放棄するのはやめましょう

時々、母親に父の遺産を相続させるために子供が相続放棄をしてしまうというお話を聞く事がありますが、絶対にやめてください。

 

子供が相続放棄をすると、その相続権は次順位の相続人にうつります。

つまり、母親と父方のご両親である祖父母が相続人になりますので、簡単だった相続手続きがより複雑になります。

 

相続放棄は「多額の借金が遺産を超えて存在(債務超過)」する時に行う事がほとんどであるというのは覚えておきましょう。

 

 

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。親の一方が亡くなるというスタンダードな相続手続きでも、一つ一つが複雑で難しいとお感じになられた方もいると思います。

ただし、これらの手続きは最初から最後まで司法書士にまとめてお任せすることもできますので、ご安心ください。

 

相続トラブルを防ぎつつ、相続手続きをスムースに進めるうえでとくに大切なのは、

相続人全員への「情報開示」による財産の把握、情報や相続手続きの「理解」、分配割合や方法についての「納得」の3つです。

相続手続きはこの点を意識してひとつひとつ行っていきましょう。

 

この点がキチンとできているならトラブルになるという事はほとんどの場合避けられるのではないかと思います。

相続手続きについて少しでも参考になれば幸いです。

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