離婚した相手に養育費・扶養料は請求できるのか?請求方法や注意点【まとめ】

 

[toc]

 

※現在、養育費・面会交流のご相談は神奈川司法書士会でも30分無料相談を実施しています。

神奈川司法書士会特設ページはこちら

 

養育費とは何か?

 

未成熟な子どもが経済的、社会的に自立するまでの間に要する子どもの生活費の事です。

未成熟な子ども(大学卒業する頃まで)を育てている一方の親が、もう一方の親に対して監護養育費用の分担を請求することができます。

 

これとは別に、未成熟な子ども自ら、親に対して社会生活を維持するための費用を請求することも可能です。この場合に請求する費用は「扶養料」といいます。

法律上に文言はでてきませんが、どちらも請求できることとされてる点は変わりません。

 

※婚姻中に別居している場合の「養育費」は夫婦の扶養義務から発生する「婚姻費用」に包含されますので、この記事の記載は基本的に離婚後や両親が婚姻していない場合の「養育費」についての解説となります。

 

 

 

 

なぜ、離婚後数年しても養育費、扶養料を請求できるのか?

養育費の支払義務は、結婚しているのであれば別居していても、また、離婚していたとしても消滅しないからです。

親である以上、養育費・扶養料の負担義務は発生するものとされているのですね。

ただし、子が未成熟な子でなくなると請求できなくなりますので、現時点で合意や調停などを行っていないのであれば、子が未成熟なうちに相手親に請求する必要がありますので注意が必要です。

 

なお、この養育費・扶養料の支払義務は、「生活保持義務」とされています。

生活保持義務とは?

この生活を自分の生活と同一程度の水準のものに維持させる義務。子を監護、養育していない一方の親が例え低収入で生活が苦しい状態にあったとしても、

「米粒一粒さえも分け合わなければならない」と例えられるほどに厳しい支払義務です。(生活保護受給者などは除きます。)

基本的に親には養育費の支払義務があるということであり、たとえ自己破産したとしても免責されることはありません。

 

 

根拠は次の条文です。

・婚姻中の根拠 

民法 第752条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

民法 第760条 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。

※婚姻中は760条に養育費が包含されている。

 

・離婚後又婚姻していない場合の根拠

民法 第766条 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。

民法 第877条 直系血族(親子、祖父母と孫など縦の関係)及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。

※766条が養育費分担の根拠となる。扶養料は877条が根拠となる。

 

 

 

過去の養育費も請求できるのか?

事案に応じた判断となり、裁判所でも立場が割れています。(宮崎家審平4・9・1家月45・8・53)(東京地判平17・2・25判夕1232・299)

「請求した時点」を支払いの始期(つまり、過去のものは不可)として養育費を請求できるとする立場がありますから、請求するならなるべく早く話し合いを持ちかけるのが良いでしょう。

 

 

 

どんなものが養育費に含まれるのか?

衣食住、教育費、医療費など様々なものが考えられますが、どの費用も一概に費用に含まれるかどうかの判断はできません。

話し合いの中で、納得できるところで合意していくことになるでしょう。

話し合いが難しければ、裁判所に間をとりもってもらうという事になります。

 

 

 

離婚時に養育費・扶養料を請求しないという合意をした場合でも請求できるのか?

養育費について

離婚時に、夫婦間で養育費は支払いを行わないという合意を行った場合でも、後日、請求できることがあります。

離婚協議は契約の一種ですから、夫婦間においてこの合意は原則として有効です。ただし、子どもの利益を害すると裁判所に判断された場合にはこの合意自体が無効になることがあります。

 

扶養料について

扶養を受ける権利は、子ども本人の権利(一身専属権といいます)なので、親が勝手に放棄することはできません。

よって、離婚時に親同士で養育費を支払わない約束をしていても、子は親に対して「扶養料」を請求する事ができます。

実質は養育費の増額請求の話し合いの様相となるでしょう。

 

 

養育費を請求できない場合

1 子が未成熟な子ではない場合

2 養育費請求権が時効消滅している場合

3 原則として過去の養育費

 

 

 

誰から養育費・扶養料を請求できるのか?

養育費については、未成熟な子ども(大学卒業する頃まで)を育てている一方の親が、もう一方の親に対して監護、養育費用の分担を請求することができます。

扶養料については、子からもう一方の親に対して生活費の請求をすることができます。

 

 

どれくらいの人が養育費を貰っているのか?

厚生労働省のこちらのページに詳しい統計(平成28年度)がのっています。

一部抜粋してみましょう。

 

 

離婚時に養育費の取り決めをしている人の割合

母子世帯の母 42.9 %(前回調査 37.7 %)

父子世帯の父 20.8 %(前回調査 17.5 %)

養育費を取り決めしなかった最大の理由 「相手と関わりたくない」・「相手に支払う能力がないと思った」

 

 

離婚後に養育費をもらっている人の状況

離婚した父親からの養育費の受給状況は、「現在も受けている」が 24.3 %(前回調査 19.7 %)「もらったことがある」が15.5 %(前回調査 15.8 %)

離婚した母親からの養育費の受給状況は、「現在も受けている」が 3.2 %(前回調査 4.2%)「もらったことがある」が 4.9 %(前回調査 2.9 %)

養育費を現在も受けている又は受けたことがある世帯のうち額が決まっている世帯の平均月額は、母子世帯では 43,707 円、父子世帯では 32,550 円。

 

引用:平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果:厚生労働省PDF

 

 

 

養育費受給についてまとめ

・離婚時に養育費の取り決めを行う人は増加傾向

・相手と関わりたくなかったり、相手にお金がないという理由で離婚時の取り決めを行わない場合が過半数を占める

・養育費の継続的な支払いは期待できない

 

司法書士という立場からは、離婚前後で養育費を取り決めを行い、公正証書で合意書を作成しておくことを強く推奨します。

そうすることで相手親と再度の接点を持つことは少なくなりますし、なにより、養育費の支払いが行われなくなることが統計上明らかだからです。

 

 

 

養育費はいくら請求できるのか?

一般的には裁判所が作成した「算定表」をもとに算出します。

 

裁判所のページをご覧ください。平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について

養育費の計算方法についてはこちらの説明書をご覧ください。養育費・婚姻費用算定表についてPDF

なお、日本弁護士連合会が平成28年度末に養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方式・算定表に関する提言を公表していますので、そちらも合わせてご覧ください。

 

算定表により算出した金額はあくまで話し合いをするうえでの目安となりますので、この金額よりも低くても高くてもそれは問題ありません。

 

 

 

具体的な養育費請求の手順と流れ

 

1.協議

文字どおり話し合いをし、合意がとれればその内容で合意書を作成し、支払いを開始してもらいます。

上記の統計のとおり、支払いが継続的におこなわれることはほとんど期待できませんので、必ず話し合いが整ったタイミングで、公証役場で公正証書を作成しましょう。

最低でも次の3つは離婚前後で取り決めしておきましょう。

① 支払金額 例)毎月 〇〇万円 ※一括払いにすると贈与税の対象になります。

② 支払方法 例)~の口座に振り込みにより行う

③ 支払期限 例)子が大学を卒業するまで

 

 

2.調停・審判

話し合いが難しい場合に、裁判所に当事者の間に入ってもらって話し合いを進める制度です。

調停を行う場合は相手方と裁判所で鉢合わせることを防止する意味でも、弁護士に代理を依頼するケースが多いでしょう。

 

監護親からもう一方の親へ調停申立を行う場合→ 養育費請求調停

子から非監護親へ調停申立を行う場合→ 扶養請求調停

 

調停が成立しない場合は、自動的に審判に移行します。

 

 

まとめ

養育費についてまとめてきましたが、いかがでしたでしょうか。

養育費の取り決めをする夫婦は増加傾向にあるものの、養育費の継続的な支払いほとんど行われていないという実体が見えてきましたね。

 

離婚後に、精神的にも負荷が大きい調停手続きを選択するよりは、やはり、離婚前後で話し合いができるときにしておき、あらかじめ公正証書で合意書を作成しておくことを強く推奨します。

公正証書を作成しておけば、調停手続きを経ることなく、支払いが滞ったときに強制執行を行うことができるからです。

 

 

知識ページ一覧

知識ページをご覧になりたい方はこちらから

不動産の共有状態の解消について

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 こちらの記事は、様々な理由で、共有状態となっている不動産を、どのように解消するのかについて記載した記事です。 不動産の「共有」とは? 不動産を複数名で、所有している状態のことです。 ご夫婦で持分2分の1ずつ所有している場合は、「不動産を2名で共有している」と言いかえることができます。     不動産の共有の問題点 節税目的の場合や融資の受けやすさなどから、共有で不動産の取得を行う方も多くいらっしゃいますが、一般的に、共有状態はデメ ...

ReadMore

相続や遺言書の相談 税理士と弁護士と司法書士、どこに相談すればいい?

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士・行政書士の廣澤です。 この記事は、相続・遺言書の相談をどこにすればよいのか?騙されたりしないだろうかと、ご不安な方向けの記事です。   相続や遺言書の相談先 結論として、”最初”に、司法書士にご相談いただくことをおすすめします!     司法書士に相談すべき理由 まずは、各相談先の特徴からご確認ください。 相談先 税理士 相続税、不動産を売る場合は譲渡所得税の相談ができる 弁護士 揉めている場合に、味方になって交渉してくれる 司法書 ...

ReadMore

令和6年4月1日以降の不動産登記の取り扱い

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事は、令和6年4月1日以降の取り扱いについて、備忘録としてまとめたものです。 令和6年4月1日以降の手続きの取り扱い 1.外国に住所を有する外国人又は法人の住所証明情報の取扱い 法務省民二第1596号令和5年12月15日通達 日本に住所のない自然人、法人の住所証明情報が変更されます。 対象者 ・外国に住所を有する外国人 又は 外国に住所を有する法人 ・所有権の登記名義人となる者の住所証明情報   住所証明情報 1.外国人  ① 登記名 ...

ReadMore

令和6年4月1日~ 相続人申告登記の制度開始

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 相続人申告登記の通達(法務省民二第535号令和6年3月15日)がでましたので、記事にしてみました。ご自由にご覧ください。 相続人申告登記とは 民法等の一部を改正する法律による相続登記の申請義務化(令和6年4月1日施行)に伴い、創設された制度です。   基本的には、期限内に相続登記を行えば良いため、現状、次のようなケースで、相続登記が行えない場合などに、活用することが考えられます。   ・相続人に非協力的な方がいて、登記申請が行えな ...

ReadMore

一歩踏み込んだ終活!エンディングノート、死後事務、財産管理等、任意後見、遺言書

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事は、4人に1人が認知症とされる現代において、司法書士が終活に際して、お役に立てるサービスについて、ご紹介した記事です。 司法書士が終活に関してできること 司法書士は、生前対策だけでなく、その後の相続手続きについても日ごろから業務として行っている、法律事務のエキスパートです。 ・ライフプランノート(エンディングノート)の作成 ・各契約書や遺言書等の法的書類の組成、公正証書作成のサポート  ・その後の、相続手続き・遺言執行業務をまとめて依頼 &n ...

ReadMore

外国在住者が所有者となる場合の住所証明情報

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事は、外国在住者が不動産を取得する場合の、住所証明情報について、備忘録として記載したものです。 通達 令和5年12月15日 外国在住者(個人)の住所証明情報 次のいずれかを住所証明情報とする。   1.本国等政府の作成に係る書面 + 訳文 登記名義人となる者の本国又は居住国(本国又は居住国の州その他の地域を含む。以下「本国等」という。)の政府(本国等の領事を含み、公証人を除く。以下「本国等政府」という。)の作成に係る住所を証明する書面 ...

ReadMore

株券の廃止手続き

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事では、株券の廃止にあたっての手続きについて、記載していきます。 株券とは 株券とは、株券発行会社における株主としての地位を表した有価証券のことをいいます。 平成16年に株券の不発行が認められるようになり、平成21年以降は上場株券については、電子化され、発行されないことになりました。また、会社法施行以降は、株券不発行が原則とされています。   具体的には、次のような記載のある証券の事を指します。   株券記載事項 (株券の記 ...

ReadMore

増資の登記について

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です この記事では、増資の登記手続きについて解説していきます。   増資の登記 登記事項を変更した場合は、2週間以内に役員変更の登記申請を行う必要があり、これを怠ると、100万円以下の過料が代表者に課される可能性があります。 増資する日が決まっている場合は、速やかに登記手続を行いましょう。   増資の準備物 ご自身で進める場合  ・申請書 ・定款 ・就任承諾書 ・株主総会議事録、取締役会議事録、取締役の決定書 ・株主リスト ・資本金の計上 ...

ReadMore

役員変更登記(就任・退任)について

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です この記事では、役員の就任・退任の登記手続きについて解説していきます。   役員変更登記 会社の役員(取締役、監査役等)を変更した場合は、2週間以内に役員変更の登記申請を行う必要があり、これを怠ると、100万円以下の過料が代表者に課される可能性があります。 役員の任期が切れそうなとき(最長10年)や、役員を変更することが決まっている場合には、速やかに登記申請を行いましょう。   なお、会社役員と会社は委任関係にあり、従業員は雇用関係に ...

ReadMore

相続開始時の遺産の調査について

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事では、相続手続きを行う際の、相続財産の調査方法を記載しています。 相続開始時の遺産の調査について 相続人が知らない財産は、意外と多くあります   遺産の調査は、亡くなった方の全ての財産を調べる必要があります。 銀行口座はもちろん、不動産、有価証券、生命保険や損害保険、車両、また、他人と貸し借りしているお金はないかといったことまで、ひとつひとつ調べなければなりません。 また、最近はインターネット上で取引ができ、通帳を発行しないタイプの ...

ReadMore

 

HOME

 

参考文献

この記事をかいた人

-記事一覧, 離婚・贈与