買戻特約とは?わかりやすく解説

司法書士 廣澤真太郎
こんにちは。司法書士の廣澤です。

謄本を見ていると、買戻特約がみつかる事があります。ご自宅に買戻特約がついたままになっていませんか?もし特約が残っているのなら、ページ下部をご覧ください。

この記事では買戻特約についてわかりやすく解説します。

 

買戻特約が登記簿に残っている方は、

目次から「買戻特約の登記が残っている方へ」に飛んでください。

 

[toc]

 

買戻特約についてわかりやすく解説します

 

買戻特約とは

簡単にいうと抵当権とは違う形式の担保みたいなものです。

要するに買戻特約の登記が残っているということは、担保がついたままになっているのとほとんど同じと考えて良いという事です。

次の条文をご覧ください。

民法597条

不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金(別段の合意をした場合にあっては、その合意により定めた金額。…)及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる。

 

 

つまり…どういう事?

 

買い戻すことができるというのはわかったけど、つまりどういうこと?

 

【売買代金+契約費用】=【貸付金】と考えてみるとよりわかりやすいです。

 

 

売主が個人で、買主が金融機関だとしましょう。金融機関は不動産を購入し、売主にお金を支払いました。この支払ったお金を”貸しつけた”と考えます。

 

後日、売主がそのお金を活用して事業を軌道にのせ、不動産を買い戻せばあら不思議、不動産は手元にかえってきましたし、お金の貸し借りもチャラになり、事業を軌道にのせることができました。

 

売買代金と契約費用全額を用意できなければ不動産を買い戻せませんから、その際は金融機関がその不動産の取得を確定すれば貸したお金の元はとれるだろう、という事になります。

 

 

実際、どういう時に利用するの?

先にお話ししたとおりで、まず担保目的とする場合に利用されることが考えられますが、行政や不動産業者によっては、不動産を売却する際に投資や投機目的での購入防止をし、定住してもらうために買戻特約した経緯もあるようです。

 

どういう事かというと、買戻特約は一定期間でその効力を失いますが「買戻期間内に転居したらその不動産を没収しますからね。絶対住んでくださいね。」という使い方をして、転売を禁止したという事です。

将来買い戻すことを前提として売買をするときにも利用できるわけですが、個人間売買で利用されることはほとんどないと思います。

 

 

買戻期間について

定めなければ5年、任意で期間を決めるなら最長10年で買戻特約は効力を失います。そしてこの期間は後で変えられません。

 

つまり、登記事項証明書に書いてある「買戻の期間」を過ぎているのなら、もうその買戻特約は”消せる”という事です

登記事項証明書を確認してみてください。

 

(買戻しの期間)

第五百八十条 買戻しの期間は、十年を超えることができない。特約でこれより長い期間を定めたときは、その期間は、十年とする。

2 買戻しについて期間を定めたときは、その後にこれを伸長することができない。

3 買戻しについて期間を定めなかったときは、五年以内に買戻しをしなければならない。

 

 

 

買戻特約の登記が残っている方へ

買戻特約が残っていると、不動産を後日売却しようとしたときに、売却前の忙しいときにバタバタと抹消手続きをすすめなければならなくなります。買戻特約がついていると売りにくいからです。

 

お気づきになった時点で抹消してスッキリさせておきましょう。

 

 

1.買戻特約が残っているかどうかのチェック

ここからは登記事項証明書に買戻特約の登記が残っている方向けの記述です。

 

下記の画像の赤枠部分を「権利部(甲区)」といいますが、その最後の行あたりに「買戻特約」という記載があり下線が引かれていなければ、

買戻特約の登記が残っているという事になります。

 

 

 

具体的にはこんな感じです。この場合は買戻特約が残っています。

登記の目的 受付年月日・受付番号 権利者その他の事項
所有権移転 〇年〇月〇日
第〇〇〇〇号
〇年〇月〇日売買
付記1号 買戻特約 〇年〇月〇日
第〇〇〇〇号
〇年〇月〇日特約
総代金  〇万円
契約費用 〇万円
期間   〇年〇月〇日から10年間
買戻権者 〇〇

 

逆に、こうなっていたらすでに消えています。

登記の目的 受付年月日・受付番号 権利者その他の事項
所有権移転 〇年〇月〇日
第〇〇〇〇号
〇年〇月〇日売買
付記1号 買戻特約 〇年〇月〇日
第〇〇〇〇号
〇年〇月〇日特約
総代金  〇万円
契約費用 〇万円
期間   〇年〇月〇日から10年間
買戻権者 〇〇
2番 1番付記1号買戻権抹消 〇年〇月〇日
第〇〇〇〇号
〇年〇月〇日買戻期間満了

 

 

2.やっぱり買戻特約が残っている!という方

まずは買戻期間を確認しましょう。

 

期間の記載がある場合

登記の目的 受付年月日・受付番号 権利者その他の事項
所有権移転 〇年〇月〇日
第〇〇〇〇号
〇年〇月〇日売買
付記1号 買戻特約 〇年〇月〇日
第〇〇〇〇号
〇年〇月〇日特約
総代金  〇万円
契約費用 〇万円
期間   〇年〇月〇日から5年間
買戻権者 〇〇

赤文字部分がそうです。こちらの表のような記載であれば、期間通り記載の日付から5年経過していれば、買戻特約は効力を失っています。

 

期間の記載がない場合

登記の目的 受付年月日・受付番号 権利者その他の事項
所有権移転 〇年〇月〇日 
第〇〇〇〇号
〇年〇月〇日売買
付記1号 買戻特約 〇年〇月〇日
第〇〇〇〇号
〇年〇月〇日特約
総代金  〇万円
契約費用 〇万円
買戻権者 〇〇

期間の記載がない場合は特約日から5年経過しているか確認します。経過していれば、同じように買戻特約は効力を失っています。

 

 

3.買戻期間を経過している方

次に、買戻期間が経過している方は、買戻権者が誰かを確認しましょう。

登記の目的 受付年月日・受付番号 権利者その他の事項
所有権移転 〇年〇月〇日
第〇〇〇〇号
〇年〇月〇日売買
付記1号 買戻特約 〇年〇月〇日
第〇〇〇〇号
〇年〇月〇日特約
総代金  〇万円
契約費用 〇万円
期間   〇年〇月〇日から5年間
買戻権者 〇〇

 

 

行政の場合

行政が保留床などを売却した際に買戻特約を設定している事があり、行政の担当に必要物を提出すれば買戻権を抹消してくれる場合と、受け取った書類を利用してご自身で登記を行う場合とに分かれます。

イメージ図

②に該当する場合で、ご自身での申請が難しければ司法書士に登記をご依頼になることをおすすめします。(抵当権抹消費用と同じくらいの相場なので、報酬1万円~+実費+税金で合計2万~3万円で依頼できます。)

なお、登記自体は単独申請が今後可能になります。(新不動産登記法619条の2)

 

行政リンク

まずは行政の担当にあなたから連絡をする必要がありますので、リンクをはっておきます。ここにリンクがない買戻権者でも、グーグル検索などで【買戻権者の名前 買戻特約 抹消】と検索すれば窓口がたいていでてきます。

東京都都市整備局(買戻権者 東京都)

横浜市

神奈川県住宅供給公社

川崎市住宅供給公社

UR都市機構

 

事業者の場合

抹消するには事業者の協力が必要なので、まずは事業者に連絡しましょう。対応について教えてくれるはずです。

 

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。

買戻特約とは担保のようなものであり、個人間で設定されることは稀で、その抹消するには買戻権者の協力が必要です。

 

後日、売却する際などにバタバタすることになってしまいますから、気づいた時点で抹消してスッキリさせておきましょう。

具体的には買戻特約が残っていることがわかった時点で買戻権者に連絡をし、対応について確認しましょう。

自分で登記しなければならない場合は必要に応じて司法書士を利用しましょう。

 

以上、買戻特約について参考になれば幸いです。

 

知識ページ一覧

知識ページをご覧になりたい方はこちらから

債権の差押えによる債権回収について

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 例えば、お金を貸していて、相手が支払いを怠っている場合に、相手の預貯金を差押えたいというケース等の、債権執行について記事にしてみました。 債権執行について 債権執行の根拠法は、民事執行法です。 (債権執行の開始) 第百四十三条 金銭の支払又は船舶若しくは動産の引渡しを目的とする債権(動産執行の目的となる有価証券が発行されている債権を除く。以下この節において「債権」という。)に対する強制執行(第百六十七条の二第二項に規定する少額訴訟債権執行を除く。以下 ...

ReadMore

解体工事業の登録

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 業務で調べる機会がありましたので、解体工事業の登録について、記事にしてみました。 解体工事業の登録 一定金額に満たない家屋等の建築物その他の工作物の全部又は一部の解体工事又は解体工事を含む建設工事を請け負おうとする方で土木工事業、建築工事業又は解体工事業に係る建設業許可をもたない方は、 あらかじめ、工事を施工する区域を管轄する都道府県知事の登録を受ける必要があります。   神奈川県:建設業課横浜駐在事務所建設業審査担当   登録を ...

ReadMore

不動産購入時の調査について②

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事は、不動産売買の仲介を不動産会社に依頼しない場合に、買主が最低限、確認すべき事項をまとめたものです。   不動産について調査すべき事項 前回の記事の続きです。     13.接道義務(再建築不可) 接道義務(土地上に建物を建てる場合には、幅員4m以上の建築基準法上の道路に、敷地が2m以上接していなければならない)を満たしていない場合は、原則として、土地上に建物を再建築することができません。   前面道路 ...

ReadMore

不動産購入時の調査について①

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事では、不動産売買の仲介を不動産会社に依頼しない場合に、買主が最低限、確認すべき事項をまとめたものです。 仲介業者なしで売買は可能か? 不動産会社に仲介を依頼しなくても、取引自体は可能です。 すでに取引相手が決まっていて、融資も受けないといった場合、仲介手数料である売買価格の3%+6万円がもったいないため、不動産会社に依頼をしたくないといったケースもあるかと思います。   しかし、取引に不動産会社を挟まない場合、重要事項の説明を受ける ...

ReadMore

寄付について

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 「遺言で寄付を」という趣旨のチラシをよく見かけますので、寄付について調べてみました。     寄付(寄附)とは? 公のことや事業のため、金銭や品物を贈ること。 辞書から引用   寄付という言葉は、物品等を含みますが、区別する意味で、物品等を寄付する場合は、寄贈と表現することもあるようです。   寄付市場は拡大中 2010年の個人寄付総額は約4800億円ですが、2020年の個人寄付総額は、1兆2,162億円です。 ...

ReadMore

介護保険制度について

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 介護保険について調べる機会があったので、記事で情報をまとめてみました。   介護保険とは 介護保険制度は、高齢者の介護を、社会全体で支え合う仕組みです。 介護保険法 第一条 この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保 ...

ReadMore

会社設立後の許認可ごとの必要な事業目的

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 会社設立の際に、許認可を控えている場合は、事業目的に許認可に耐えうる文言を入れておく必要がありますが、 毎回確認するのは大変ですから、ある程度まとめて記事にしてみました。 (R5.7.15編集)   許認可が必要な事業例 業務内容 目的の記載例 運送業 一般貨物自動車運送事業 ※(許可)トラックなどの運送 特定貨物自動車運送事業 ※(許可)荷主が1社に特定されているトラックなどの運送 貨物軽自動車運送事業 ※(届出)軽トラック、125CC以 ...

ReadMore

残高証明書・取引履歴の取得

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。  聞かれることの多い、相続手続時における残高証明書と預金口座の取引履歴の取得について、記事にしてみたいと思います。 残高証明書・預金口座の取引履歴の取得 相続時に必要な場面 これらの資料は、相続税申告が必要なケースで、準備することになります。   残高証明書 特定の日付時点における、預金、有価証券、投資信託などの残高、保有口数などを、金融機関が証明してくれる書類です。   預金口座の取引履歴とは? 預貯金口座の過去の入出金の履歴が ...

ReadMore

死亡届と死亡記載事項証明書 

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事では、死亡届の取り扱いについてまとめています。   死亡届とは? 届出義務者は、死亡事実を知ってから7日以内(国外で死亡があったときは、その事実を知った日から三箇月以内)に、役所に届出をしなければなりません。 遺体を安置している葬儀社が、代わりに提出してくれることもあります。   第八十六条 死亡の届出は、届出義務者が、死亡の事実を知つた日から七日以内(国外で死亡があつたときは、その事実を知つた日から三箇月以内)に、これを ...

ReadMore

相続人が誰もいない場合

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事は、相続人が誰もいない場合の手続きについて記載したものです。 ご自由にご覧ください。 相続人が誰もいない場合に、財産はどうなる? わかりづらいですが、まず、相続財産は法人になります。財産それ自体が法人格を持つということです。 そして、その相続財産を管理及び清算するためには、利害関係人又は検察官からの請求により、家庭裁判所で相続財産の清算人を選任してもらう必要があります。 第六章 相続人の不存在 (相続財産法人の成立) 第九百五十一条 相続人の ...

ReadMore

 

HOME

 

 

第三款 買戻し

(買戻しの特約)

第五百七十九条 不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金(別段の合意をした場合にあっては、その合意により定めた金額。第五百八十三条第一項において同じ。)及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる。この場合において、当事者が別段の意思を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。

(買戻しの期間)

第五百八十条 買戻しの期間は、十年を超えることができない。特約でこれより長い期間を定めたときは、その期間は、十年とする。

2 買戻しについて期間を定めたときは、その後にこれを伸長することができない。

3 買戻しについて期間を定めなかったときは、五年以内に買戻しをしなければならない。

(買戻しの特約の対抗力)

第五百八十一条 売買契約と同時に買戻しの特約を登記したときは、買戻しは、第三者に対抗することができる。

2 前項の登記がされた後に第六百五条の二第一項に規定する対抗要件を備えた賃借人の権利は、その残存期間中一年を超えない期間に限り、売主に対抗することができる。ただし、売主を害する目的で賃貸借をしたときは、この限りでない。

(買戻権の代位行使)

第五百八十二条 売主の債権者が第四百二十三条の規定により売主に代わって買戻しをしようとするときは、買主は、裁判所において選任した鑑定人の評価に従い、不動産の現在の価額から売主が返還すべき金額を控除した残額に達するまで売主の債務を弁済し、なお残余があるときはこれを売主に返還して、買戻権を消滅させることができる。

(買戻しの実行)

第五百八十三条 売主は、第五百八十条に規定する期間内に代金及び契約の費用を提供しなければ、買戻しをすることができない。

2 買主又は転得者が不動産について費用を支出したときは、売主は、第百九十六条の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、有益費については、裁判所は、売主の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

(共有持分の買戻特約付売買)

第五百八十四条 不動産の共有者の一人が買戻しの特約を付してその持分を売却した後に、その不動産の分割又は競売があったときは、売主は、買主が受け、若しくは受けるべき部分又は代金について、買戻しをすることができる。ただし、売主に通知をしないでした分割及び競売は、売主に対抗することができない。

第五百八十五条 前条の場合において、買主が不動産の競売における買受人となったときは、売主は、競売の代金及び第五百八十三条に規定する費用を支払って買戻しをすることができる。この場合において、売主は、その不動産の全部の所有権を取得する。

2 他の共有者が分割を請求したことにより買主が競売における買受人となったときは、売主は、その持分のみについて買戻しをすることはできない。

 

この記事をかいた人

-不動産登記・税金, 抵当権, 記事一覧