この記事は、生活保護制度ついて、備忘録としてまとめたものです。ご自由にご覧ください。
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生活保護法
生活保護の目的
「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」という憲法の規定をもとに、具体的に国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする制度です。
憲法
第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
② 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
生保法
(この法律の目的)第一条 この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。
(最低生活)第三条 この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない。
保護の原則
自動的に生活保護が開始するのではなく、あくまで申請者の保護が原則とされています。
また、保護の必要性は原則として世帯を単位として程度判断がなされます。年金などと同じですね。
(申請保護の原則)
第七条 保護は、要保護者、その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基づいて開始するものとする。但し、要保護者が急迫した状況にあるときは、保護の申請がなくても、必要な保護を行うことができる。
(世帯単位の原則)
第十条 保護は、世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとする。但し、これによりがたいときは、個人を単位として定めることができる。
保護の種類
条文に掲げる次の事項の範囲内で保護がそれぞれ行われるとされています。(生保法12条~18条)
1.生活扶助
衣食その他日常生活の需要を満たすために必要なもの、移送
2.教育扶助
義務教育に伴って必要な教科書その他の学用品、必要な通学用品、学校給食その他義務教育に伴って必要なもの
3.住宅扶助
住居、補修その他住宅の維持のために必要なもの
4.医療扶助
診察、薬剤又は治療材料、医学的処置、手術及びその他の治療並びに施術、居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護、病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護、移送
5.介護扶助
居宅介護、福祉用具、住宅改修、施設介護、介護予防(以下略)
6.出産扶助
分べんの介助、分べん前及び分べん後の処置、脱脂綿、ガーゼその他の衛生材料
7.生業扶助
生業に必要な資金、器具又は資料、生業に必要な技能の修得、就労のために必要なもの
8.葬祭扶助
検案、死体の運搬、火葬又は埋葬、納骨その他葬祭のために必要なもの
(種類)
第十一条 保護の種類は、次のとおりとする。
一 生活扶助 二 教育扶助 三 住宅扶助 四 医療扶助 五 介護扶助 六 出産扶助 七 生業扶助 八 葬祭扶助
2 前項各号の扶助は、要保護者の必要に応じ、単給又は併給として行われる。
それぞれの保護の方法
具体的に条文に定められています。金銭給付が原則ですが、場合により現物給付よるものや、保護施設入所を促すものなど様々です。
保護施設については、生保法38条~
実施機関
都道府県知事、市長及び福祉事務所を管理する町村長が、次の者に対し、保護を決定し、実施しなければならないとされています。(生保法19条)
① その管理に属する福祉事務所の所管区域内に居住地を有する要保護者(管轄に例外あり)
② 居住地がないか、又は明らかでない要保護者であって、その管理に属する福祉事務所の所管区域内に現在地を有するもの
保護の申請は居住地又は現在地の福祉事務所などで受付けしています。
生活保護法施行規則
(申請) 第一条 生活保護法(昭和二十五年法律第百四十四号。以下「法」という。)第二十四条第一項(同条第九項において準用する場合を含む。次項において同じ。)の規定による保護の開始の申請は、保護の開始を申請する者(以下「申請者」という。)の居住地又は現在地の保護の実施機関に対して行うものとする。
申請による保護開始
住所地又は現在地の実施機関に対して次のような内容の申請を行うことで保護が開始されます。
また、実施機関である福祉事務所等には、申請者が申請する意思を表明しているときは、当該申請が速やかに行われるよう必要な援助を行う義務があります。
・要保護者の氏名及び住所又は居所
・申請者が要保護者と異なるときは、申請者の氏名及び住所又は居所並びに要保護者との関係
・保護を受けようとする理由
・要保護者の資産及び収入の状況(生業若しくは就労又は求職活動の状況、扶養義務者の扶養の状況及び他の法律に定める扶助の状況を含む。以下同じ。)
・その他要保護者の保護の要否、種類、程度及び方法を決定するために必要な事項として厚生労働省令で定める事項
・要保護者の性別及び生年月日
・その他必要な事項
※葬祭扶助を請求する者は、次の事項
・申請者の氏名及び住所又は居所
・申請者の氏名及び住所又は居所
・死者の氏名、生年月日、死亡の年月日、死亡時の住所又は居所及び葬祭を行う者との関係
・葬祭を行うために必要とする金額
・法第十八条第二項第二号の場合においては、遺留の金品の状況
生保法24条①・生保法施規1条
実施機関の義務
実施機関には次のような義務があります。
① 申請者が申請する意思を表明した場合は、速やかに申請が行われるよう援助しなければならない
② 保護の開始の申請があったときは、保護の要否、種類、程度及び方法を決定し、申請者に対して書面をもって、これを通知しなければならない。
③ 2.の通知には、決定の理由(通知しなかったときは、その理由)を付さなければならない。
④ 2.の通知は申請のあった日から14日以内にしなければならない。ただし、扶養義務者の資産及び収入の状況の調査に日時を要する場合その他特別な理由がある場合には、これを30日まで延ばすことができる。
⑤ 知れたる扶養義務者が民法の規定による扶養義務を履行していないと認められる場合において、保護の開始の決定をしようとするときは、厚生労働省令で定めるところにより、あらかじめ、当該扶養義務者に対して書面をもつて厚生労働省令で定める事項を通知しなければならない。
⑥ 保護の開始又は変更の申請は、町村長を経由してすることもできる。町村長は、申請を受け取ったときは、5日以内に、その申請に、要保護者に対する扶養義務者の有無、資産及び収入の状況その他保護に関する決定をするについて参考となるべき事項を記載した書面を添えて、これを保護の実施機関に送付しなければならない。
生保法24条②~・生保法施規1条②、2条
また、保護施設には次のような義務があります。
(保護施設の義務)
第四十七条 保護施設は、保護の実施機関から保護のための委託を受けたときは、正当の理由なくして、これを拒んではならない。
2 保護施設は、要保護者の入所又は処遇に当たり、人種、信条、社会的身分又は門地により、差別的又は優先的な取扱いをしてはならない。
3 保護施設は、これを利用する者に対して、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制してはならない。
4 保護施設は、当該職員が第四十四条の規定によって行う立入検査を拒んではならない。
不服申し立て
不服がある場合の審査請求先は、都道府県知事です。
生活保護制度の実際
条文を読めばだいたいは掴めますね。それでは、生活保護制度の実際に踏み込んでみます。
利用者の統計
全国
こちらをご覧ください。厚生労働省:被保護者調査(令和2年10月分概数)
生活保護を受けている人は、1,636,723世帯、2,049,746人。人口1,000人あたりでは16.3人となっています。
高齢者世帯、障害者世帯、傷病者世帯の被保護世帯、医療費単給が約9割で、セーフティネットとして機能していることがわかりますね。
神奈川県
神奈川県で生活保護を受けている人は、122,264世帯、153,480人です。人口1,000人あたりでは16.62人(保護率=16.62パーミル)となっています。
世帯の類型別に見ると、高齢者世帯が52.6%、母子世帯が4.8%、障害者世帯14.2%、傷病者世帯10.4%、その他世帯17.9%です。また、被保護世帯の82.2%が単身者世帯です。:神奈川県の生活保護の概況について
高齢者世帯の受給は年々増えてきていますが、そのほかの世帯の受給者数は減っており、全体として横ばいのようです。
基本的な考え方
自立の助長を主として、資産や能力などあらゆるものを活用したうえで、それでもなお最低限度の生活水準に満たない場合に保護がされるという制度です。
そのため、扶養ができる者がいるのならそちらを優先するし、不動産があるのならその活用を促すということですね。
保護費の考え方
算出した最低生活費のうち、収入などを足しても最低生活費に満たない場合に、その差額が保護費として支給されます。
なぜこのような制度になっているのかはわかりませんが、一定の金額までは同一世帯に住んでいる人は働くと損する仕組みとも言えますね。
最低生活費とは
こちらの9p~に計算式が載っていますが、シミュレーションみたいなものをネットで探すか役所で聞いた方が早いと思います。
具体的には、居住地の等級(1~3級)を調べ、表の計算式を使って生活扶助基準を出し、この生活扶助基準を主として、そのほかの扶助基準を加算し、最低生活費認定額を算出します。
厚生労働省:生活保護制度の概要等について
申請について
申請者
本人である要保護者又はその扶養義務者、その他同居の親族が福祉事務所に申請する必要があります。
(申請保護の原則)
第七条 保護は、要保護者、その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基づいて開始するものとする。但し、要保護者が急迫した状況にあるときは、保護の申請がなくても、必要な保護を行うことができる。
申請前の相談
実施機関側としてもいろいろ要件があり、また生活保護制度を理解してもらわなければならず、さらに調査の義務もあるので、一度先に窓口で相談をするのが良いでしょう。
水際作戦というものが過去、問題となったようですが、変なことをいう担当者であれば条文どおりの運用を求め、それでもダメなら司法書士や弁護士など専門家に同行してもらうのがよいでしょう。
要件についてはあいまいですが、次のようなあらゆるものの活用が前提となっています。
・資産がある場合の活用
不動産の売却など
・能力の活用
健康なら就職活動など
・あらゆるものの活用
手当、給付金などの受給など
・扶養義務者の扶養
扶養義務のある者による援助など
申請
申請をすると、保護決定のために調査(財産、収支、就労可能性、生活状況等)が行われます。
生活保護申請書以外にも、金融機関の照会に関する同意書、経歴表、マイナンバーに関する書類、親族関係図、扶養義務者届など、記入押印が必要な書類がありますが、基本的には窓口で全て案内があります。
必要書類
・本人確認資料、パスポート等
・認印
以下、世帯全員分の資料
資産に関する資料
・記帳済みの通帳
・有価証券取引報告書
・車検証、自賠・任意保険契約関係書類、標識交付証明書
・不動産登記事項証明書
収支に関する資料
・3か月分の給与明細
・家賃、債務支払い等の各種領収書
その他
・年金通知書
・介護保険証、健康保険証
・マイナンバー通知書
・障害者手帳
・医師の診断書
受給開始後
ケースワーカーによる年数回の訪問調査や、毎月の収入状況の申告が必要です。
受給時期
申請から受給までは先の条文どおり、原則として申請から14日以内に保護申請に対する決定が通知されることになっていますから、その翌月からということになるでしょう。
さらに深堀り
生活保護法による保護の実施要領について(局長通知)・生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて(課長通知)・生活保護法による保護の実施要領について(次官通知)・生活保護手帳別冊問答集・生活保護問答集についてから気になるところを抜粋していきます。
自動車は必ず売らなければならないのか?
原則処分しなければなりませんが、例外もあるようです。役所で要相談といったところでしょうか。下記をご覧ください。
第3 資産の活用
最低生活の内容としてその所有又は利用を容認するに適しない資産は、次の場合を除き、原則として処分のうえ、最低限度の生活の維持のために活用させること。なお、資産の活用は売却を原則とするが、これにより難いときは当該資産の貸与によって収益をあげる等活用の方法を考慮すること。
1 その資産が現実に最低限度の生活維持のために活用されており、かつ、処分するよりも保有している方が生活維持及び自立の助長に実効があがっているもの
2 現在活用されてはいないが、近い将来において活用されることがほぼ確実であって、かつ、処分するよりも保有している方が生活維持に実効があがると認められるもの
3 処分することができないか、又は著しく困難なもの
4 売却代金よりも売却に要する経費が高いもの
5 社会通念上処分させることを適当としないもの
問9 次のいずれかに該当する場合であって、自動車による以外に通勤する方法が全くないか、又は通勤することがきわめて困難であり、かつ、その保有が社会的に適当と認められるときは、次官通知第3の5にいう「社会通念上処分させることを適当としないもの」として通勤用自動車の保有を認めてよいか。
1 障害者が自動車により通勤する場合
2 公共交通機関の利用が著しく困難な地域に居住する者等が自動車により通勤する場合
3 公共交通機関の利用が著しく困難な地域にある勤務先に自動車により通勤する場合
4 深夜勤務等の業務に従事している者が自動車により通勤する場合
答 お見込みのとおりである。
なお、2、3及び4については、次のいずれにも該当する場合に限るものとする。
(1) 世帯状況からみて、自動車による通勤がやむを得ないものであり、かつ、当該勤務が当該世帯の自立の助長に役立っていると認められること。
(2) 当該地域の自動車の普及率を勘案して、自動車を保有しない低所得世帯との均衡を失しないものであること。
(3) 自動車の処分価値が小さく、通勤に必要な範囲の自動車と認められるものであること。
(4) 当該勤務に伴う収入が自動車の維持費を大きく上回ること。
問9の2 通勤用自動車については、現に就労中の者にしか認められていないが、保護の開始申請時においては失業や傷病により就労を中断しているが、就労を再開する際には通勤に自動車を利用することが見込まれる場合であっても、保有している自動車は処分させなくてはならないのか。
答 概ね6か月以内に就労により保護から脱却することが確実に見込まれる者であって、保有する自動車の処分価値が小さいと判断されるものについては、次官通知第3の2「現在活用されてはいないが、近い将来において活用されることがほぼ確実であって、かつ、処分するよりも保有している方が生活維持に実効があがると認められるもの」に該当するものとして、処分指導を行わないものとして差し支えない。ただし、維持費の捻出が困難な場合についてはこの限りではない。
なお、処分指導はあくまで保留されているものであり、当該求職活動期間中に車の使用を認める趣旨ではないので、予め文書により「自動車の使用は認められない」旨を通知するなど、対象者には十分な説明・指導を行うこと。ただし、公共交通機関の利用が著しく困難な地域に居住している者については、求職活動に必要な場合に限り、当該自動車の使用を認めて差し支えない。
また、期限到来後自立に至らなかった場合については、通勤用の自動車の保有要件を満たす者が通勤用に使用している場合を除き、速やかに処分指導を行うこと。
不動産は必ず売らなければならないのか?
居住用不動産であれば、原則として保有すること自体が活用と判断され、売却しなくて済みます。
しかし、もろもろの事情から一部不動産を間貸しするなど活用が求められるケースや、不動産価値が著しく高額であるような場合には、売却を進められます。(著しく高額かどうかは組織的に判断するそうです。目安は下記問15。)
また、著しく高額ではないものの、一定の不動産価値を超える場合には、自治体の運営するリバースモーゲージ(要保護世帯向け不動産担保型生活資金)の利用を促されることもあるようです。
1 土地
(1) 宅地
次に掲げるものは、保有を認めること。ただし、処分価値が利用価値に比して著しく大きいと認められるものは、この限りでない。
また、要保護世帯向け不動産担保型生活資金(生活福祉資金貸付制度要綱に基づく「要保護世帯向け不動産担保型生活資金」をいう。以下同じ。)の利用が可能なものについては、当該貸付資金の利用によってこれを活用させること。
(以下省略)
2 家屋
(1) 当該世帯の居住の用に供される家屋
保有を認めること。ただし、処分価値が利用価値に比して著しく大きいと認められるものは、この限りでない。なお、保有を認められるものであっても、当該世帯の人員、構成等から判断して部屋数に余裕があると認められる場合は、間貸しにより活用させること。また、要保護世帯向け不動産担保型生活資金の利用が可能なものについては、当該貸付資金の利用によってこれを活用させること。
(2) その他の家屋
ア 事業の用に供される家屋で、営業種別、地理的条件等から判断して、その家屋の保有が当該地域の低所得世帯との均衡を失することにならないと認められる規模のものは、保有を認めること。ただし、処分価値が利用価値に比して著しく大きいと認められるものは、この限りでない。
イ 貸家は、保有を認めないこと。ただし、当該世帯の要保護推定期間(おおむね3年以内とする。)における家賃の合計が売却代金よりも多いと認められる場合は、保有を認め、貸家として活用させること。
問15 局長通知第3の5にいうケース診断会議等の検討に付する目安を示されたい。
答 ケース診断会議等における検討対象ケースの選定に当たっては、当該実施機関における最上位級地の30歳代及び20歳代の夫婦と4歳の子を例とする3人世帯の生活扶助基準額に同住宅扶助特別基準額を加えた値におおよそ10年を乗じ、土地・家屋保有に係る一般低所得世帯、周辺地域住民の意識、持ち家状況等を勘案した所要の補正を行う方法、またはその他地域の事情に応じた適切な方法により算出した額をもってケース診断会議等選定の目安額とする。
なお、当該目安額は、あくまでも当該診断会議等の検討に付するか否かの判断のための基準であり、保護の要否の決定基準ではないものである。
問21 局長通知第3の1の(1)及び第3の2(1)において、要保護世帯向け不動産担保型生活資金の利用が可能なものについては、当該貸付資金の利用によってこれを活用させることとし、その活用後に保有を認めることとされているが、当該貸付資金の利用が可能にも関わらず、その利用を拒む世帯に対しては、どのように対応するのか。
答 要保護世帯向け不動産担保型生活資金の利用が可能な場合には、当該貸付資金の利用が優先されるべきである。
したがって、当該貸付資金の利用を拒む世帯に対しては、資産の活用は保護の受給要件となることを説明し、その利用を勧奨するとともに、貸付期間中も相談に応じること、貸付の利用が終了した後、他の要件を満たす場合には生活保護が適用になる旨を説明することとされたい。
保険は必ず解約しなければならないのか?
原則、解約しなければなりませんが、例外もあるようです。
「63条を適用することを条件に」というのは、返戻金を行政に返還する事を条件としてという意味ですね。
問11 保護申請時において保険に加入しており、解約すれば返戻金のある場合は、すべて解約させるべきか。
答 保険の解約返戻金は、資産として活用させるのが原則である。ただし、返戻金が少額であり、かつ、保険料額が当該地域の一般世帯との均衡を失しない場合に限り、保護適用後保険金又は解約返戻金を受領した時点で法第63条を適用することを条件に解約させないで保護を適用して差しつかえない。
債務についてはどうなるのか?
生活保護の受給を開始しても、当然に債務がなくなるわけではありません。支払い義務は続きます。
ただし、生活保護を受給するという事は、今後は最低生活費を債務に充てることとなってしまうので、債務の内容によっては破産手続を検討する事になります。
扶養義務者の援助は絶対なのか?
原則として扶養義務者への援助の要求が必要です。生活保護開始の要件として扶養義務者の扶養は含まれませんが、「あらゆるものの活用」に扶養は含まれるので、扶養者がいる場合にはそちらが生活保護に優先します。
そして、扶養義務者が①扶養する能力と②扶養する意思があると判断された場合には、その金銭的援助の金額を最低生活費から差し引いた金額が保護受給額となります。
逆に言えば、援助の要求をしたうえで、扶養義務者に扶養能力や扶養する意思がない場合であれば、「実質、活用できない」として保護の補足性に反してはいないという判断にもなるでしょう。ただし、明らかに扶養義務を履行することが可能と認められる扶養義務者が、扶養義務を拒否していると認められる場合(①定期的に会っているなど交際状況が良好であること、②扶養義務者の勤務先等から当該要保護者に係る扶養手当や税法上の扶養控除を受けていること、③高額な収入を得ている)には、調停・審判を促されることもあり得るようです。
(保護の補足性)
第四条 保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
2 民法(明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。
3 前二項の規定は、急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない。
民法
(扶養義務者)
第八百七十七条 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
2 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
3 前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。
問3 生活扶助義務関係にある者の扶養能力を判断するにあたり、所得税が課されない程度の収入を得ている者は、扶養能力がないものとして取り扱ってよいか。
答 給与所得者については、資産が特に大きい等、他に特別の事由がない限り、お見込みのとおり取り扱って差しつかえない。給与所得者であってもこの取扱いによることが適当でないと認められる者及び給与所得者以外の者については、各種収入額、資産保有状況、事業規模等を勘案して、個別に判断すること。
局長通知第5の3 扶養義務者への通知について
保護の開始の申請をした要保護者について、保護の開始の決定をしようとする場合で、要保護者の扶養義務者に対する扶養能力の調査によって、法第77条第1項の規定による費用徴収を行う蓋然性が高いなど、明らかに扶養義務を履行することが可能と認められる扶養義務者が、民法に定める扶養を履行していない場合は、要保護者の氏名及び保護の開始の申請があった日を記載した書面を作成し、要保護者に保護の開始の決定をするまでの間に通知すること。
問5 局長通知第5の3及び4の(1)における「明らかに扶養義務を履行することが可能と認められる扶養義務者」とはどのような者をいうか。
答 当該判断に当たっては、局長通知第5の2による扶養能力の調査の結果、①定期的に会っているなど交際状況が良好であること、②扶養義務者の勤務先等から当該要保護者に係る扶養手当や税法上の扶養控除を受けていること、③高額な収入を得ているなど、資力があることが明らかであること等を総合的に勘案し、扶養義務の履行を家庭裁判所へ調停又は審判の申立てを行う蓋然性が高いと認められる者をいう。
生活保護者の子供を国立・私立・公立の小中学校に通わせることは可能か?
国立は、将来の自立に有効であると認められる場合は可。公立も可。
しかし、私立は原則不可と示されています。例外は下記のとおり。すでに通っている場合は原則として公立に転校させなければならないという事ですね。
(問7-91)〔国立学校等への就学の可否及び教育扶助の範囲〕 次に掲げる学校への就学は認められるか。
1 国立の小・中学校 2 私立の小・中学校 3 公立の中等教育学校の前期課程
(答)1 国立学校については、就学することが将来の自立に有効であると認められる場合は就学を認めて差しつかえない。
なお、教育扶助の範囲は、教育扶助基準額、学校給食費、教材代(学校給食費及び教材代にあっては児童の属する世帯の居住地を校区とする公立小中学校の基準を限度とする)及び通学のための交通費とする。
2 私立学校については、原則として就学は認められない。したがって、現に私立学校に就学している児童が属する世帯から保護の申請があった場合は、公立学校への転校を指導されたい。
ただし、次のいずれかに該当する場合は引き続き就学を認めて差しつかえない。
(1) 特待生制度(同様の制度であって名称の異なるものを含む)や経済的な理由による減免措置を講じている学校において、これらの制度を活用することにより授業料等が全額免除される場合であって、引き続き就学することが将来の自立に有効であると認められる場合。
(2) 年度途中等で転校が困難な場合(当該年度中に限る)。なお、この場合の教育扶助の範囲は、教育扶助基準額、学校給食費及び教材代(学校給食費及び教材代にあっては児童の属する世帯の居住地を校区とする公立小中学校の基準を限度とする)である。
3 公立の中等教育学校の前期課程については、1の国立学校の場合と同様に、就学を認めて差し支えない。
不動産を購入すれば生活困窮に陥ることを知りながら居住用不動産を購入し、手持金を費消した場合
普通に考えて売却を指導しますよね、とのこと。
とはいえ、先の対応と同じように活用について個別判断されることになるでしょう。
(答)社会通念上から考えてみると、不動産を購入すればその後の生活が維持できなくなるおそれがあるのであれば、たとえ居住用とはいえ購入を断念し、先ず現在の生活の維持・確保を図るべきである。
したがって、居住用の土地・家屋といえども、それを購入したことを直接の原因として生活困窮に陥ったのであれば、その原因となった当該不動産を売却するよう指導する必要がある。
収入認定・63条返還・78条徴収
被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があったとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があったときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならないとされています。
就労可能な方は毎月、就労不可能な方でも毎年1回は収支報告を行うよう指導がなされているのが実際のようです。
収入認定
【最低生活費ー収入充当額(収入-控除)】を保護の支給額とするところ、この収入充当額を認定する手順のことを収入認定といいます。
定期的な被保護者からの申告と、実施機関の調査のあわせ技で算定し、金銭給付額を調整しているみたいですね。
63条返還
資力があるにもかかわらず、保護を受けた場合には返還してもらうという規定です。
不正受給とは違い、例えば居住用不動産を売却する過程でいったん生活保護申請を行ったようなケースで、売却した対価から保護費を返還するというもの。
78条徴収
不正受給した場合や、他人に生活保護費支給させたという場合に、支給した保護費に40%上乗せした額を徴収するという規定です。
例えば、収入の申告をあえてしないなどすると、ペナルティがあるということですね。
(届出の義務)
第六十一条 被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があったとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があったときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。
(費用返還義務)
第六十三条 被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。
(費用等の徴収)
第七十七条の二 急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けた者があるとき(徴収することが適当でないときとして厚生労働省令で定めるときを除く。)は、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村の長は、第六十三条の保護の実施機関の定める額の全部又は一部をその者から徴収することができる。
2 前項の規定による徴収金は、この法律に別段の定めがある場合を除き、国税徴収の例により徴収することができる。
第七十八条 不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に百分の四十を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。
2 偽りその他不正の行為によって医療、介護又は助産若しくは施術の給付に要する費用の支払を受けた指定医療機関、指定介護機関又は指定助産機関若しくは指定施術機関があるときは、当該費用を支弁した都道府県又は市町村の長は、その支弁した額のうち返還させるべき額をその指定医療機関、指定介護機関又は指定助産機関若しくは指定施術機関から徴収するほか、その返還させるべき額に百分の四十を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。
3 偽りその他不正な手段により就労自立給付金若しくは進学準備給付金の支給を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、就労自立給付金費又は進学準備給付金費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に百分の四十を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。
4 前条第二項の規定は、前三項の規定による徴収金について準用する。
第七十八条の二 保護の実施機関は、被保護者が、保護金品(金銭給付によって行うものに限る。)の交付を受ける前に、厚生労働省令で定めるところにより、当該保護金品の一部を、第七十七条の二第一項又は前条第一項の規定により保護費を支弁した都道府県又は市町村の長が徴収することができる徴収金の納入に充てる旨を申し出た場合において、保護の実施機関が当該被保護者の生活の維持に支障がないと認めたときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該被保護者に対して保護金品を交付する際に当該申出に係る徴収金を徴収することができる。
2 第五十五条の四第一項の規定により就労自立給付金を支給する者は、被保護者が、就労自立給付金の支給を受ける前に、厚生労働省令で定めるところにより、当該就労自立給付金の額の全部又は一部を、第七十七条の二第一項又は前条第一項の規定により保護費を支弁した都道府県又は市町村の長が徴収することができる徴収金の納入に充てる旨を申し出たときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該被保護者に対して就労自立給付金を支給する際に当該申出に係る徴収金を徴収することができる。
3 前二項の規定により第七十七条の二第一項又は前条第一項の規定による徴収金が徴収されたときは、当該被保護者に対して当該保護金品(第一項の申出に係る部分に限る。)の交付又は当該就労自立給付金(前項の申出に係る部分に限る。)の支給があったものとみなす。