抵当権抹消の前提となる登記について 

司法書士 廣澤真太郎
こんにちは。司法書士の廣澤です。

 

抵当権抹消をする際に、事前に必要な登記を見逃してしまうと、登記が却下されてしまいます。

 

不動産登記には、原則として「不動産の権利の変動過程を正確に記録しなければならない」という考え方があるところ、抵当権抹消をする前に何らかの権利関係に影響する原因があったのであれば、その内容についても登記に反映しなければならないからです。この記事では抵当権抹消の前提となる登記について知っておきたい知識をまとめています。

 

 

抵当権抹消の前に別の登記しなければならない場合

不動産登記は原則として「不動産の権利の変動過程を正確に記録しなければならない」ため、ローン完済前に権利変動があるときは前提となる登記が必要になります。

 

例えば不動産を贈与して登記未了の間に、抵当権を完済したケースでなどは、贈与による所有権移転登記を行ってから抵当権を抹消する必要があるわけですね。

 

典型例を記載しておきましょう。

 

 

1.所有者(抵当権設定者)や抵当権者の【完済前の相続】

抵当権を設定している方や個人である抵当権者が亡くなった後で住宅ローンを完済したような場合には、その前提として「相続による所有権移転登記 又は 抵当権移転登記」を行ってから抵当権抹消登記を申請する必要があります。

 

1 亡〇〇の所有権移転登記 又は 抵当権移転登記

2 抵当権抹消登記 

 

 

2.所有者(抵当権設定者)や抵当権者の【完済前の合併】

抵当権を設定している方や個人である抵当権者が会社の場合で、合併して解散したのがローンを完済前の場合には、その前提として「合併による所有権移転登記 又は 抵当権移転登記」を行ってから抵当権抹消登記を申請する必要があります。

 

1 被合併会社〇〇の所有権移転登記 又は 抵当権移転登記

2 抵当権抹消登記 

 

 

3.所有者(抵当権設定者)の住所氏名の変更や更正

登記名義人である所有者の方に氏名、住所の変更がある場合には、その前提として「登記名義人の氏名、住所変更登記」行ってから抵当権抹消登記を申請する必要があります。

 

1 登記名義人の住所、氏名変更(更正)登記  

2 抵当権抹消登記 

 

 

 

 

 

抵当権抹消の前に別の登記をしなくて良い場合

 

所有者(抵当権設定者)や抵当権者の【完済後の相続】

 

抵当権を設定している方や個人である抵当権者が生前に住宅ローンを完済しており、その後にお亡くなりになったという場合には、前提としての登記を経なくても構いません。

また、移転登記を経てから抹消登記を申請しても、それはそれでかまいません。

 

所有者(抵当権設定者)や抵当権者の【完済後の合併】

 

抵当権を設定している方や個人である抵当権者が生前にローンを完済しており、その後に合併解散したという場合や会社を分割して債権を移転したという場合には、前提としての登記を経なくても構いません。会社版の相続と考えるとわかりやすいと思います。

 

ポイント

合併後の存続する会社の代表者から登記する

 

債務者の変更

 

債務者の住所氏名が変更している場合や、債務者が既に亡くなっている場合などには、前提として債務者の変更登記をする必要はありません。

 

しかし、住宅ローンが残っている場合には、金融機関によっては変更するよう求められる場合もありますから、そのようなケースでは金融機関の指示に従いましょう。債権者の意向次第という事ですね。

 

抵当権者の住所氏名(商号本店)の変更や更正

 

抵当権者が本店移転をしていたり、商号を変更しているだけといった場合には、その前提として商号、本店の変更(更正)登記を行うことなく、抵当権を抹消する事ができます。

 

変更後の本店などを記載しても、その後すぐに抹消するのだからその必要はないということですね。ただし、変更過程の証明は必要になります。

 

共有者ABとする場合でAのみ相続【完済前後の相続】

 

抵当権の抹消は共有者にABにとっては利益になる行為であり、もともとA又はBから単独で申請する事ができます。

 

そして、完済前にAが亡くなっていたとしても、Bから単独申請を行う場合には前提となる相続による所有権移転登記を経ることなく抵当権を消すことができます。

 

ただし、Aの相続人から申請する場合で、完済前にAが亡くなっている場合には、先にお話しした通りで相続による登記が事前に必要になります。

 

引用:Q&A210選230頁

 

ポイント

亡くなっていない共有者から単独申請できる

 

 

特殊なケース

 

次のようなケースは判断が難しいので、お近くの司法書士にご相談ください。

 

抵当権者が解散している場合

 

会社の「清算人」から抹消関係書類一式を貰います。

 

会社が解散して、さらに清算結了している場合でも清算人には債務履行の義務が残っていますので、その元清算人から書類を貰います。

 

抵当権は消滅しているのかしていないのか、していない場合には清算結了登記は間違っていることになるが、会社の登記を抹消してやり直しとなるのか…等の問題があります。

 

 

 

抵当権者が行方不明の場合

 

例えば抵当権者が個人だった場合で行方不明の場合などには、抵当権抹消登記は抵当権者と所有者である設定者が共同で申請しなければならないので実質抹消できないという事になります。

 

このような場合は次のような方法で、抵当権を単独で抹消する事ができます。

 

✅ 徐権決定もらう

 

✅ ① 次のものを準備する方法 

1.債権証書並びに被担保債権及び最後の二年分の利息その他の定期金(債務不履行により生じた損害を含む。)の完全な弁済があったことを証する情報

2.登記義務者の所在が知れないことを証する情報

 

✅ ② 次のものを準備する方法

1.被担保債権の弁済期を証する情報

2.弁済期から20年を経過した後に、被担保債権、その利息及び債務不履行により生じた損害の全額に相当する金銭が供託されたことを証する情報(供託書正本かつ、内容に抹消する抵当権の不動産、債権、抵当権者等の表示が必要)

3.登記義務者所在が知れないことを証する書面

 

不動産登記法
第七十条 登記権利者は、登記義務者の所在が知れないため登記義務者と共同して権利に関する登記の抹消を申請することができないときは、非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号)第九十九条に規定する公示催告の申立てをすることができる。
2 前項の場合において、非訟事件手続法第百六条第一項に規定する除権決定があったときは、第六十条の規定にかかわらず、当該登記権利者は、単独で前項の登記の抹消を申請することができる。
3 第一項に規定する場合において、登記権利者が先取特権、質権又は抵当権の被担保債権が消滅したことを証する情報として政令で定めるものを提供したときは、第六十条の規定にかかわらず、当該登記権利者は、単独でそれらの権利に関する登記の抹消を申請することができる。同項に規定する場合において、被担保債権の弁済期から二十年を経過し、かつ、その期間を経過した後に当該被担保債権、その利息及び債務不履行により生じた損害の全額に相当する金銭が供託されたときも、同様とする。

政令 別表26

 

 

 

まとめ

 

いかがでしたでしょうか。

 

次のような場合には抵当権抹消の前に別の登記をしなければなりません。

 

1.所有者や抵当権者がローン完済前に亡くなった場合

2.所有者や抵当権者がローン完済前に合併した場合

3.所有者に住所変更や氏名変更がある場合 

その他、ローン完済前に権利変動があるとき

 

次のような場合には抵当権抹消の前に別の登記をしなくても構いません。

 

1.所有者や抵当権者がローン完済後に亡くなった場合

2.所有者や抵当権者がローン完済後に合併した場合

3.債務者の記載に変更がある場合

4.抵当権者に住所氏名(商号本店)変更がある場合 

5.共有者の一方のみ相続が開始している場合

 

以上、抵当権抹消についてお悩みの方の参考になれば幸いです。

 

知識ページ一覧

知識ページをご覧になりたい方はこちらから

医療法人と株式会社の違い

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事は、医療法人の登記について、株式会社との違いを主に、備忘録としてまとめたものです。 ご自由にご覧ください。     目次1 医療法人とは?その類型1.1 医療法人社団と医療法人財団1.2 医療法人社団の類型1.3 株式会社との明確な違い1.4 その他、運営上の違い2 登記申請のご相談2.1 知識ページ一覧 医療法人とは?その類型 医療法を根拠として、病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所又は介護保険老人施設の運営を ...

ReadMore

会社設立後の法人口座開設について

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事は、会社設立時にご質問をいただくことの多い法人口座開設について、記載しています。     目次1 法人口座とは?開設は必須?1.1 法人口座開設のタイミング?1.2 法人口座開設の審査は厳しい?1.3 法人口座をスムーズに開設するために、対策しておくべきこと1.4 もし、開設できなかったら?2 登記申請のご相談2.1 知識ページ一覧 法人口座とは?開設は必須? 名前の通り、法人名義の預金口座のことです。   法人 ...

ReadMore

普通株式と種類株式についての基本知識

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事は、会社法における株式のうち、種類株式についての基礎知識をまとめたものです。       目次1 株式とは?2 種類株式とは?2.1 種類株式の種類3 登記申請のご相談3.1 知識ページ一覧 株式とは? 株式とは、株式会社における社員の地位を指しており、次のような権能があります。 ・株主総会に参加し議決を行使する権利、株主総会決議の取り消しの訴えを提起する権利 ・配当、残余財産の分配を受け取る権利 ・定款、株主名 ...

ReadMore

財産管理制度(所有者不明土地管理制度)についての民法改正

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士・行政書士の廣澤です。 この記事は、所有者不明土地の管理に関する民法の改正について記載しています。 目次1 財産管理制度の見直し1.1 1.所有者不明土地(建物)管理制度1.2 2.管理不全土地(建物)管理制度 2 まとめ2.1 相続のご質問・見積もりはこちら 財産管理制度の見直し 旧法下では、不在者財産管理制度などの財産管理制度は、不在者の財産すべてを管理する制度であるため、土地建物の管理等ピンポイントで利用するものではなく、費用負担や事務作業で過剰な負担を強い ...

ReadMore

共有制度(所有者不明土地等関係)に関する民法の改正について

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事では、令和5年4月1日以降の共有制度に関する民法の改正について、深堀りしていきます。     目次1 共有制度の改正1.1 1.共有物の変更・管理に関するルール  1.2 2.共有関係の解消に関するルール 1.3 相続のご質問・見積もりはこちら 共有制度の改正 令和5年4月1日から、共有に関する制度のうち、おおまかに次の2つが大きく変わります。 1.共有物の変更・管理に関するルール   2.共有関係の解消に関するルール  ...

ReadMore

不動産登記と印鑑証明書の関係?

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事は、登記申請の際の印鑑証明書について、整理したものです。     目次1 不動産登記における印鑑証明書の添付根拠2 省略に関する規定2.1 省略について深堀り3 ご質問・見積もりはこちら 不動産登記における印鑑証明書の添付根拠 根拠は、不動産登記令16条です。   (申請情報を記載した書面への記名押印等) 第十六条 申請人又はその代表者若しくは代理人は、法務省令で定める場合を除き、申請情報を記載した書面に記名押印 ...

ReadMore

社団法人、公益社団法人、NPO法人の違いとは?

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士・行政書士の廣澤です。 社団法人について、聞かれることがあるので、備忘録としてまとめたものを、記事にしてみました。ご自由にご覧ください。   目次1 一般社団法人とは?1.1 法人とは?1.2 非営利とは?2 株式会社と一般社団法人の違いは?2.1 細かい違い3 公益社団法人と一般社団法人の違いは?3.1 細かい違い4 社団法人とNPO法人の違いは?4.1 細かい違い5 法人格による税制上の優遇措置対象一覧表6 会社設立・法人設立登記のご相談6.1 知識 ...

ReadMore

貸金庫とその相続について

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 貸金庫の相続手続きが大変であるというのは周知のとおりですが、 この、問題となりがちな貸金庫について、記事にしておきたいと思います。     目次1 貸金庫に財産関係資料をまとめて保管するのは避けましょう!1.1 貸金庫があると、どうなる?1.2 貸金庫の開扉自体が困難な場合がある1.3 相続トラブルの可能性が高まる1.4 余計な時間がかかり、余計な実費が発生する2 まとめ2.1 相続のご質問・見積もりはこちら 貸金庫に財産関係資料 ...

ReadMore

資産課税の見直し

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 専門ではないですが、勉強はしておかなければなりませんから、令和6年1月1日以降の贈与に関する税制改正について、 備忘録としてまとめておきます。ご自由にご覧下さい。     目次1 資産課税の見直し1.1 相続時精算課税制度について1.2 暦年課税について1.3 教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置について1.4 結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置について2 現行制度との比較表3 背景4 まとめ4.1 知識ペー ...

ReadMore

債権法の改正関連まとめ その2

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 この記事では、民法改正のうち、債権法に関する部分で忘れやすいところを、備忘録としてまとめています。ご自由にご覧下さい。       目次1 意思能力制度の明文化2 錯誤についての改正3 代理人の行為能力4 解除の効力5 瑕疵担保責任6 債権者代位・詐害行為取消権6.1 債権者代位権について明文化されたもの6.2 詐害行為取消権について明文化されたもの7 連帯債務8 弁済について9 危険負担10 消費貸借11 賃貸借11. ...

ReadMore

 

HOME

 

 

 

 

 

 

 

この記事をかいた人

-不動産登記・税金, 抵当権, 記事一覧