相続手続きで遺産分割協議書の提出を求められたが、そもそも遺産分割協議とはなにか知りたいという方向けの記事です。
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遺産分割とは?
「遺産を各相続人に分配する」ことです。
法律的なことを言うと、相続人は被相続人が亡くなった時から、被相続人の財産に属した一切の権利や義務が移転し(民法896条)複数相続人がいるときは遺産について共有して持ち合っている状態になります(民法898条)
その共有状態の遺産を、話し合いすることによって各相続人一人一人に分配することを遺産分割協議と呼びます。
遺産分割協議に参加できる人は誰でしょうか?
原則
相続人となる人全員です。
配偶者がいる場合には常に配偶者に加えて、次のうち上位の者。例えば子が生存していれば配偶者と子供。子や孫がいなければ配偶者と直系尊属。
第一順位 直系卑属(子、孫)
第二順位 直系尊属(親、祖父母)
第三順位 兄弟姉妹
例外
・認知症の方がいる場合成年後見人
・未成年者がいる場合特別代理人
・行方不明者がいる場合不在者財産管理人
・相続人から相続分を譲り受けた第三者がいる場合にはその第三者(滅多にない事例だと思います。)
・相続放棄した人がいる場合その人を除く相続人全員
・相続欠格者や相続人の廃除にあてはまる相続人がいる場合その人を除く相続人全員
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次に、例外についてもっと詳しく解説します
遺産分割協議の相続人について問題がある場合
遺産分割協議は相続人の全員で行わなければなりませんが、相続人が協議に参加することが難しい場合もあります。
そのような場合の対応方法を記載しておきます。
相続人に成年被後見人がいる場合
成年後見人がかわりに遺産分割協議に参加することになります。ただし、成年後見人が相続人のうちの一人の場合には、
利益が相反することになりますので、成年被後見人のために別の特別代理人を選任する申立を家庭裁判所にたいして行ったり、
成年後見監督人がいる場合には監督人が成年被後見人の代理人として遺産分割協議に参加することになります。
リーガルサポート:成年後見制度とは
行方不明者がいる場合
家庭裁判所に対して失踪宣告の申立を行うか、不在者財産管理人選任の申立及び遺産分割協議を行うための許可を得るための手続きを行います。
失踪宣告というのは長期間不在で生死がわからない行方不明者を、亡くなったものとみなして手続きをすすめることができる制度です。
不在者財産管理人とは、不在者の代わりに財産の保存や管理を代わりに行うことができる専門家を選任するための制度です。
遺産分割協議の前に相続人のうち亡くなった方がいる場合
最初に父Aさん、次に母Bさんが立て続けに亡くなってしまったような場合、母Bさんの相続人全員と父Aさんの相続人全員で遺産分割協議を行います。
遺産分割の途中で相続人のうち亡くなった方がいて、その相続が一人に集約した場合
例えば父A母B子Cの家庭で父Aが亡くなった直後に遺産分割協議で子Cへの分割を行っていたが、協議してすぐに母Bが亡くなってしまったような場合です。
この場合遺産分割協議はすでに行われていたわけですから子Cが単独で遺産分割協議書”証明書”を作成することによって、父Aから直接相続するという建付けにすることが可能です。
注意点としては、遺産分割協議を母Bの生前に行っていなかった場合には母と子で法定相続分で相続した後、母の持分を相続するという相続登記を申請することになる事です。
遺産分割の途中で相続人のうち亡くなった方がいて、その相続人が複数名いる場合
例えば父A母B子CDの家庭で父Aが亡くなった直後に遺産分割協議で子Cへの分割を行っていたが、協議してすぐに母Bが亡くなってしまったような場合です。
この場合も先ほどのように、遺産分割協議はすでに行われていたわけですから母Bの相続人の全員から遺産分割協議書”証明書”を作成することによって、父Aから直接相続するという建付けにすることが可能です。
遺産分割の対象になるものは?
原則として遺産はすべて遺産分割対象になります。(積極財産)
遺産から発生した賃料収入等については遺産に含まれませんが、相続人全員が同意していれば遺産分割の対象とすることができます。
遺産分割の対象にならないものは?
通常は相続人は亡くなった方の権利義務の一切を承継します。(民法896条)
そのうち、承継しない一定の例外もあるのです。
1.一身専属権
才能や地位など個人の人格に関係あるもの。例えば被相続人がプロのピアニストの方だったとして、コンサートで演奏するは受け継ぎません。当たり前のことですね。
2.祭祀財産
祭祀は主宰すべき者(ご先祖様を供養する人)が承継することになっています(民法897条)
亡くなった方が指定するか、指定がなければ慣習に従い、慣習がなければ家庭裁判所の審判で決まります。
例えば香典は遺産ではなく喪主への贈与であり、通常は祭祀主宰者香典返しや葬儀費用にあてられます。
3.死亡により発生する権利
死亡退職金、遺族年金、受取人が亡くなった人以外の生命保険などは、遺産ではありません。
ただし、相続財産との割合を比較して金額が大きすぎる場合には特別受益として遺産扱いされることがあります。
4.死亡により契約が終了するもの
契約者がなくなることにより契約が終了するものがあります。委任契約や定期贈与契約などです。
5.身元の保証、根保証
個人的な信頼関係がなければ行わないような契約は引き継ぎません。
根保証については限度額や期間の定めのないものは引き継ぎません。
6.可分債務と可分債権
債権(相手に特定の行動をとるよう請求する権利)や債務(相手に特定の行動をとる義務)については、遺産分割をするまでもなく相続人に法定相続分割合で分配されます。
可分とは請求をばらばらに分けることができる金銭請求権等で、不可分は請求をばらばらに分けることができない、車の引渡請求権等です。
例外として、預貯金債権は可分債権にあたるように思えますが、現金は利害調整に便利なので特別扱いされて遺産分割対象となるものとされています。
具体的には普通預金債権、定期預金債権、通常貯金債権、定期貯金債権及び定期積金債権などです。
ここでのポイントは、遺産分割協議をするまでもなく借金は相続人全員で負担するということでしょう。
相続人同士で借金の支払い割合の取り決めをしてもそれは債権者からしたら関係ありませんから、その全員が借金の返済を請求される立場にあります。
遺産分割の協議・調停・審判について
1.被相続人が指定する方法
生前に被相続人はあらかじめ遺産分割の方法を指定することができます。
例えば遺言などで「長男に預貯金含む金融資産のすべてを相続させる」などと記載した場合、遺産分割方法の指定をしたこととなり、遺産分割の協議をすることなく長男は遺言内容に従い遺産を受け取ることになるわけです。
2.相続人全員で協議する方法(最も一般的)
とくに遺言などで遺産分割の禁止や指定がなければ、相続人全員で話し合いを行います。(民法907条)
遺言が残されている場合というのは現在においても滅多にないケースなので、通常は遺産分割協議をすることになるでしょう。
3.話合いが進まない場合の調停
話し合いに決着がつかなかったり、話し合いに参加してくれない相続人がいる場合には、家庭裁判所に調停の請求をすることができます。
中立的な第三者を交えて話し合いをするわけです。
4.審判による分割
調停などでもらちが明かない場合などには、家事審判官が事実や証拠資料に基づいて民法906条の基準に従い、審判を行い分配の決定をします。
民法906条
遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
遺産分割の効果
遺産分割協議を行った結果、どのような法律の効果があるのかを記載しておきましょう。
1.相続開始の時まで遡って効力が発生
被相続人が亡くなった当時に遺産を取得した相続人が取得したとみなされます。ただし、これにはいくつか例外があるので事案ごとに考えましょう。
被相続人が亡くなってから遺産分割が成立するまでの間に投資用不動産から賃料収入が発生したとしても、それは不動産を取得した相続人のものではなく、相続人に法定相続分どおりに分配する必要があります。
その他にも第三者にたいして相続人の一人が勝手に遺産を売却していたとしても、その遺産の取得を第三者に返せと請求したりすることはできません(民法909条)
2.相続人同士の担保責任の発生
相続人が取得した債権が回収できなかったときなどには、不公平になってしまいますから相続人間で責任をとりあうルールがあります。
民法911条 各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責任を負う。
民法912条 各共同相続人は、その相続分に応じ、他の共同相続人が遺産の分割によって受けた債権について、その分割の時における債務者の資力を担保する。
2 弁済期に至らない債権及び停止条件付きの債権については、各共同相続人は、弁済をすべき時における債務者の資力を担保する。
具体的な遺産の分け方やその方法を解説します
1.全部分割と一部分割
遺産によっては相続人の感情などによって遺産のすべてを分割協議できない場合があります。
そのような場合に遺産のうち一部を分割協議をするということが行われることがあります。
2.現物分割(最も一般的)
もっとも原則的な分け方で、現物をそれぞれに分ける方法です。腕時計は長男に、車は二男にというイメージです。
3.代償分割
相続人の誰かが現物を貰い、他の相続人に代価を支払う分け方です。腕時計は長男がもらう代わりに、他の相続人に10万円支払うというイメージです。
4.換価分割
物を売却して、お金を分配する方法です。不動産を売ってそのお金を皆で分けるというイメージです。
基本的に裁判所で審判などをすると全部分割で現物分割になります。(家事195)他の分割方法は手続きが煩雑ですし、金額について不満が発生しやすいでしょうから、トラブルを最も防止できるからだと思います。
協議の時期
いつでも可能ですが、相続税申告がある場合には死後10か月以内に行う必要があるでしょう。
また、それ以外の場合でもできるだけ早めにしておいて協議書を残しておいたほうが後々のトラブルの予防になります。
遺言と異なる内容の遺産分割協議
遺言執行者がいない場合は相続人全員の同意があれば可能です。
遺言執行者がいたり、受贈者など利害関係人がいる場合には、遺言執行者と受贈者など利害関係人及び相続人全員の同意があれば可能です。
その他の諸問題
遺産分割協議書に添付する印鑑証明書の有効期限
特にありません。被相続人が亡くなる前の日付に取得した印鑑証明書でも問題ありません。
遺産分割協議書に添付する印鑑証明書が取得できない場合
父Aが亡くなり母Bと子CDがいる場合で遺産分割協議書に全員が押印していたが、母Bが途中で亡くなってしまい、印鑑証明書が取得できなくなってしまったような場合です。
こういった場合には母Bの相続人全員で遺産分割協議書が真正に成立したものであることの証明書を作成します。
法定相続分ですでに相続登記をおこなってしまったが、遺産分割協議によって別の持ち分割合で相続することとした場合の登記
この場合、登記原因を遺産分割とする不動産持分の移転登記を行います。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
遺産分割協議書の作成となると専門知識が必要になりますので、相続手続きを進めるうえでは壁になるかもしれません。
当事務所に相続登記や相続手続きをご依頼いただいた場合は遺産分割協議書の作成や相続関係説明図、その他戸籍収集もまとめてお任せいただけますから、お困りの際にはいつでもお問合せください。
相続手続きを進めるにあたり少しでも参考になれば幸いです。
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