遺言書の「清算型遺贈」に潜む罠—「譲渡所得税」について

近年、遺言作成の実務において「清算型遺贈(換価遺言)」を選択するケースが増えています。

「不動産を売却して現金化し、その代金を遺贈する」というこの手法は、公平な遺産分割や遺贈寄付(NPO法人などへの寄付)を実現するための有力な手段です。

しかし、私たち司法書士が実務上、最も警戒しなければならない「リスク」が一つあります。それが「譲渡所得税」の存在です。

1.「清算型遺贈」とは何か?

清算型遺贈とは、遺言の中で「不動産を売却して、その売却代金から諸経費を差し引いた残金を指定の人(または団体)に与える」という内容を指します。 例えば、相続人がいない方が「自宅を売って、そのお金を母校や公益団体に寄付したい」と願う場合、非常に有効な承継手段です。

しかし、ここで税務上の「所有権の動き」をどう捉えるかによって、物語は一変します。

 

2. 恐怖の「所得税法第59条」

通常、所得税は「利益を得た人」に課されます。

例えば、不動産を相続した相続人が、不動産を売却処分し、売価を遺産分割協議で取得した場合などには、その相続人が、売買の翌年の確定申告時期に、所得税の納税、申告を行います。

 

しかし、所得税法には、怖い規定があります。

贈与、遺贈等による資産の移転(遺贈など)が、「法人」に対して行われた場合、その時の「時価」で譲渡があったものとみなす。

これが「みなし譲渡所得税」です。 特に、不動産を法人(NPO、一般社団法人など)に清算型遺贈する場合、税務署は「亡くなった瞬間に、含み益がある不動産を時価で売却した」とみなします。

 

そして、そのみなし譲渡所得税の支払いを行うのは、被相続人です。
納税義務者が被相続人であるということは、被相続人は死亡により申告・納付を行うことができないため、納税義務を承継した、相続人や包括受遺者が準確定申告および納付を行うことになります。

 

事例検討

1.遺言執行者に、遺言者甲が有する全財産を換価させ、換価金から債務、葬儀費用および遺言執行費用などを精算した残金を、相続人である長男Aに相続させ、また、受遺者である友人のBと、株式会社のCに、各3分の1ずつの割合で遺贈する。

AB→ 相続税
C → 法人税
AB→ 譲渡所得税
遺言者甲(被相続人)→ Cに遺贈した部分はみなし譲渡所得税 (ABCが納税義務を承継)

2.遺言執行者には、遺言者甲が有する次の土地を換価し、換価代金を受遺者Aおよび株式会社Bに、各2分の1ずつの割合で分配する。前記土地を除く、一切の財産については、相続人Cに相続させる。

A → 相続税
B → 法人税
A → 譲渡所得税
遺言者甲(被相続人)→ みなし譲渡所得税 (が納税義務を承継。ACが特定遺贈であるため、納税義務を承継しない。)

 

租税特別措置法第40条の規定によって、非課税承認を受ける道もあります。

租税特別措置法第40条第1項後段の規定による譲渡所得等の非課税の取扱いについて(法令解釈通達)

 

 

3.なぜ「怖い」のか?

司法書士の実務において、これがなぜ「怖い」と言われるのか。理由は3つあります。

① 「納税義務者」と「受取人」のねじれ

みなし譲渡所得税は、亡くなった方(被相続人)の所得として扱われます。

そのため、納税の義務を負うのは「相続人等」です。 想像してみてください。

不動産を相続していない相続人が、他所へ行く寄付金のために、数百万円、数千万円の税金の納付書だけを受け取るという状況を。

これは親族間の紛争(争続)を激化させる決定打となります。

 

② 「5%ルール」による高額課税

古い不動産の場合、当時の購入価格(取得費)が不明なことが多々あります。

その場合、売却価格の「5%」を取得費として計算します。 例えば、1億円で売れた土地の取得費が不明なら、9,500万円が「利益」とみなされ、そこに約20%または40%の譲渡所得税がかかります。遺言執行者がこの税金を予見していなければ、清算計画は根本から崩壊します。

 

③ 司法書士の「説明義務違反」

もし司法書士がこの税務リスクを説明せずに遺言書を作成し、事後に高額な税金が発覚した場合どうなるでしょうか。

「こんなに税金がかかると知っていたら、こんな遺言は書かなかった」「相続人に迷惑をかけたくなかった」という不満は、そのまま作成に関わった司法書士への損害賠償請求へと繋がるリスクを孕んでいます。

 

まとめ「オアシス」であり続けるために

私たち司法書士の役割は、単に「法的に有効な書類」を作ることではありません。

遺言者が遺した想いが、死後に「争いの火種」や「想定外の負債」に変わらないよう、全方位からリスクを塞ぐことにあります。

 

「清算型遺贈」という便利な道具を、毒にしないか、薬にするか。 それは、専門家としての私たちが、どれだけ税務という隣接領域にまで深い洞察を持てるか、その一点にかかっています。

本年も、皆さまの人生の大切な節目を「安心」で守るため、一歩踏み込んだ誠実な実務を積み重ねてまいる所存です。

 

 

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