根抵当権とは?わかりやすく解説

 

司法書士 廣澤真太郎
こんにちは。司法書士の廣澤です。

不動産を担保として銀行から融資を受けるような場合に、法人の場合にはその不動産に「根抵当権」を設定することがあります。

この根抵当権とはそもそもなにかという事について記載した少し踏み込んだ記事です。

 

[toc]

 

根抵当権とは

 

根抵当権とは「極度額」の限度において担保する抵当権の事を言います。つまり抵当権の一態様です。

 

 

根抵当権を理解するには、抵当権をまず知る必要がありますので載せておきます。

抵当権とは?わかりやすく解説

 

 

根抵当権を図にすると…

画像を作成してみました。

上が抵当権、下が根抵当権です。

抵当権は債権ごとに設定しますが、債権が消滅するたびに、付従性により抵当権も消滅します。

 

そのため、また債権が発生したときに同じ不動産を担保に供する際、新たに担保設定契約をしなおさなければなりませんので、継続的な取引で何度も債権が発生したり消滅したりする時には不便です。

 

そこで、あらかじめ「極度額(中に放り込んだ債権額の担保上限額のようなものです)」という箱を仮に作り、箱自体に担保設定しておくことで箱の中の債権をまとめて担保することができるという仕組みになっています。

 

元本確定前の根抵当権には付従性がありませんから、箱の中の債権が消えても根抵当権が消滅することはありません。

 

 

専門用語の意味

 

根抵当権者とは

銀行融資の場面では、お金を貸して、根抵当権を設定してもらった銀行の事です。

 

担保する極度額内の対象になる債権者と根抵当権者は同一人物でなければなりません。

 

債務者とは 

抵当権の債務者とは意味が異なります。

 

抵当権の債務者は単に担保している債権が貸付金なのであればお金を借りた人だと理解すればよかったのですが、

 

根抵当権の債務者は、極度額の箱の中にどんな債権を放り込めるかという「条件」を指しており、別物です。

 

例えば、『債務者 A・債権の範囲 銀行取引』とある場合、債務者Aと根抵当権者間での、銀行取引に関わる融資などの債権以外は「条件」に当てはまらないので、根抵当権で担保されないこととなります。

 

条件に当てはまらなければ極度額の箱の中に放り込めないという事ですから、箱の入り口には制限があるわけですね。

 

根抵当権設定者とは 

不動産を担保提供した人の事です。

 

銀行融資の場面では借主が根抵当権設定者になることが通常ですが、担保を提供するのはお金を借りた者に限られません。

 

例えば借主の知人の会社が持っている不動産を担保提供してもらうというのでも良いわけです。このように不動産を他人のために担保提供した者を物上保証人といいます。

 

根抵当権の元本確定

誤解を恐れず言えば、根抵当権が抵当権になることです。正確には違うので少しもやっとしますが、ほぼ同じものになります。

 

先程の極度額の箱の中にある債権の元本や利息、損害金の合計金額が1つの債権という扱いになり、その債権を担保する抵当権とほぼ同じ性質を持つものに変化します。

 

元本確定後でなければできない登記がありますので、その事実を公示するために元本確定登記をする事があります。例えば一部代位弁済による根抵当権の一部移転登記は元本確定登記を経てからでないと登記できません。

確定前の根抵当権には随伴性がないですから、弁済したとしても随伴しないのです。

 

元本確定事由は次のとおりです。

 

確定期日の定めがある時は、その期日の到来

 

根抵当権者or債務者に相続が発生。その相続開始後6ヶ月以内に「合意の登記」をしなかった場合。

 

根抵当権者or債務者につき合併があり、根抵当権者設定者より元本確定請求権を行使されたとき。ただし、債務者に合併があった場合で、根抵当権設定者=債務者である場合は確定請求はできません。

 

根抵当権設定者(or物上保証人)からの確定請求。根抵当権設定時から3年経過すれば元本確定の請求をすることができます。この権利は一方的な意思表示をすれば足り、確定請求の意思表示が根抵当権者に到達して2週間の経過で効力発生します。

 

⑤根抵当権者からの確定請求。根抵当権者はいつでも確定請求をする事ができます。

 

⑥根抵権者が第三者による担保不動産の競売開始or滞納処分による差押があったことを知って、2週間が経過した時。ただし差押が取下されるなどすると、元本確定の効力はなくなります。

 

⑦債務者・根抵当権設定者が破産の宣告を受けた時。ただし破産が取下されるなどすると、元本確定の効力はなくなります。

 

 

色々ありますが、設定者の協力の不要な⑤により元本確定する選択がされることが実務では多いようです。

 

具体的には配達記録付内容証明郵便を利用して確定請求の通知をし、その配達記録をもって元本確定登記をするといった具合です。

 

根抵当権の実行

 

裁判所を通して、根抵当権を設定した不動産から実際に弁済を受けることです。次の2つの方法があります。

 

1.不動産競売…裁判所において不動産を売却し、売買代金を弁済にあてます。

 

2.担保不動産収益執行…不動産から生じる収益(賃料等)を弁済にあてます。

 

根抵当権の性質

性質
付従性 ※元本確定した場合のみ 債権がなくなると、抵当権も一緒に消えるという性質。(貸したお金を全額返してもらった瞬間、抵当権も一緒に消える。)
随伴性 ※元本確定した場合のみ 担保した債権を誰かに譲ると抵当権も一緒に移転するという性質。(貸金債権を誰かに売ったりすると、その債権を買った人に抵当権も移転する)
不可分性 貸付金が残りわずか10円まで減っていたとしても、全額の弁済を受けるまでは抵当権を設定した不動産の全部について権利が残り、抵当権を実行できるという性質。
物上代位性 抵当権を設定していた不動産が火事で焼失してしまったような場合でも、不動産から形を変えた設定者に支払われる火災保険金に対して、抵当権の効力を及ぼすことができるというような性質。
優先弁済的効力 抵当権を得た債権者は、弁済を受けられなかった場合には、目的物を売ったり賃貸して他の債権者に優先して弁済をうけることができるという性質。

元本確定前の根抵当権に付従性がないというのは、箱の中身が空になったとしても、根抵当権は消えないという事です。

だから当然、支払いを全て終えたのに、根抵当権が残ったまま消してもらえないという状態にもなります。

 

根抵当権の実行

弁済期になっても弁済が受けられないような場合には、抵当権を設定している不動産を競売にかけるか、賃貸等をしてその収益から弁済を受けるかを選択して抵当権を実行することができます。

 

ただし、不動産競売手続きは高度に専門的で複雑な手続きであり、費用も印紙代と差押登記の登録免許税が不動産の評価額×4/1000、ここにさらに予納金約50~100万円等、多くの費用が発生します。(予納金の一部は戻ってきますが…)

 

そのため、実際には不動産競売をするよりも、抵当権を実行せず債務者に不動産を売却してもらう「任意売却」という手段が取られることが多いようです。

 

売買代金から債権回収をしたほうが不動産を高い価格(競売で売却すると市場価格の50~70%)で売れることや、税金等の手続き費用を節約できるからでしょう。

 

知識ページ一覧

知識ページをご覧になりたい方はこちらから

新・中間省略登記とは? ~不動産取引の新たなスキームをわかりやすく解説~

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 「中間省略登記」という名称は、不動産投資や転売に興味がある方なら、一度は耳にしたことがあるかもしれません。 私も最近、見聞きすることが増えましたので、この通称三ため契約について、知識を備忘録としてまとめました。 新・中間省略登記とは?~不動産取引の新たなスキームをわかりやすく解説~   1.旧・中間省略登記とは? かつて行われていた「中間省略登記」は、不動産取引において、売主から買主に物件を渡す際、本来間に入る中間者(転売業者など)を登記上 ...

ReadMore

疎遠な相続人がいる場合、相続手続きはどう進めるべきか?

  連絡が取れない相続人への対応方法と司法書士に相談するポイント 疎遠な相続人がいる場合の問題点 相続は、民法の決まりで、自動的に決定します。そのため、疎遠な相続人がいる場合、次のような問題が発生します。 遺産分割協議が進まない:疎遠な相続人が連絡を拒否したり、無視したりすることで、遺産分割協議が停滞してしまう。 相続放棄や遺産分割協議書に署名をしない:相続人が協議に参加しないと、手続きが進まなくなる可能性がある。 相続トラブルのリスク:相続人が不在のまま進めることで後々トラブルに発展することも ...

ReadMore

お金を貸したけど帰ってこない!?お金を貸すなら最低限ここまでやろう

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 こちらの記事は、お金の貸し借りについて、基本知識をまとめたものです。   お金を貸したけど帰ってこない!?お金を貸すなら最低限ここまでやろう 友人や家族から「少しお金を貸してほしい」と頼まれたとき、断りきれずに貸してしまった経験はありませんか?   「〇〇円くらいなら、まあいいか…」と気軽に貸したはいいものの、なかなか返してもらえず、相手に催促しにくいまま、うやむやになってしまうケースは少なくありません。   お金を貸す ...

ReadMore

共同根抵当権、累積式根抵当権、共有根抵当権の違い

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 こちらの記事は、根抵当権についてまとめたマニアックな記事です。   共同根抵当権・累積式根抵当権・共有根抵当権 不動産を担保にして借入れを行う場合、抵当権という形で担保を設定することが一般的です。   ところが、単に抵当権を設定するだけでは不十分なケースもあり、特定の目的のために「根抵当権」という特殊な担保制度が用いられます。 根抵当権にはいくつかの種類があり、その中でも「共同根抵当権」と「累積式根抵当権」は重要なものです。これら ...

ReadMore

抵当権抹消登記を自分で行うのは大変?司法書士に頼むべき理由

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 不動産の購入や売却を行う際、抵当権抹消登記は欠かせない手続きです。   これは、ローン完済後に金融機関が設定した抵当権を解除するための登記です。   しかし、法務局での登記手続きは少々複雑で、特に自分で行うとなると負担が大きいと感じる人も多いのが現実です。今回は、抵当権抹消登記の手続きを自分で行う際の難しさと、司法書士に依頼するメリットについて紹介します。   【抵当権抹消登記は、全国対応】当事務所にお任せください 抵当 ...

ReadMore

孤独死とは?もしもに備えて知っておくべき対応の流れと予防のための対策【司法書士監修】

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。  こちらの記事は、孤独死とその対策についてと、司法書士が支援できることについて記載したものです。   孤独死とは?もしもに備えて知っておくべき対応の流れと予防のための対策 近年、「孤独死」という言葉を耳にする機会が増えました。高齢化社会の進行により、一人暮らしの高齢者や社会的なつながりを持たない人の数が増える中、孤独死のリスクもまた高まっています。   本記事では、万が一の際に備えて、孤独死が発生した場合の対応の流れ、法的な手続き ...

ReadMore

会社解散に伴う税務申告について・まとめ

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です! こちらの記事は、会社の解散の際の税金の申告について調査した内容を記載したものです。 ※税のことは税理士に相談しましょう!当事務所にご依頼いただいたた場合はご紹介いたします。   解散手続きの基本的な流れはこちら  解散・清算結了と、税務申告 会社が解散を決定すると、その後に行うべき税務申告は大きく分けて次の申告が必要になります。 1 解散時の申告(最終申告) 2 清算時の申告(清算結了申告)   発生しうる税金 法人税・地方税 消 ...

ReadMore

横浜市で法人設立登記のお悩み解決法|司法書士が解説

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。[st-kaiwa4]   この記事では… ・「横浜市で会社を設立したい」と考えている方 ・手続きの流れ・費用・よくある疑問を知りたい方 ・司法書士に依頼するとどこまで安心なのか不安な方   このような方向けの、5分以内に読める記事です。   法人登記の全体像をわかりやすく丁寧にお伝えします。 なぜ司法書士に法人登記を依頼すべき? 横浜エリアに精通した司法書士のサポートには、以下のメリットがあります。   ・ミス ...

ReadMore

相続の基本を司法書士がやさしく解説|相続の流れ・登記・トラブル回避まで徹底網羅

  相続の基本を司法書士がやさしく解説|相続の流れ・登記・トラブル回避まで徹底網羅 司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 こちらの記事では、相続の基本について、解説していきます。   はじめに|相続は「誰にでも起こる身近な問題」 「相続」と聞くと、どこか他人事のように感じる方も多いのではないでしょうか。   けれども実際は、人が亡くなると必ず発生する法的な問題であり、決して特別な家庭だけの話ではありません。相続手続きは時間制限があり、知らずに放置するとトラブ ...

ReadMore

離婚時の財産分与についてよくある質問まとめ

司法書士 廣澤真太郎 こんにちは。司法書士の廣澤です。 こちらの記事は、離婚時の財産分与の手続きをする際の、よくある質問について解説したページです。   財産分与とは? 基本知識はこちらに記載   離婚時の財産分与についてよくある質問 ローンが残っている場合、どう対応すべきか? Q: 離婚時に住宅ローンが残っている場合、どう分ければ良いのでしょうか? A:通常、住宅ローンを支払っている名義人がローンの支払いを続けますが、合意でどちらが負担するかは決定できます。家をどちらが取得するのかは ...

ReadMore

 

HOME

この記事をかいた人

-不動産登記・税金, 抵当権, 記事一覧