様々な手続きのために法律文書をご準備いただいた際、不動産の記載が抜けていたり誤っているケースが多発しております。
そこで、この記事では不動産が絡む法律文書を作成する場合の注意点について解説します。
[toc]
法律文書への不動産の記載誤り・記載漏れが多発している!?
日常生活で法律に触れる場面はあまりないとお考えの方もいらっしゃいますが、私たちの生活は多くの法律で規律されています。
そのため、トラブルが発生したときの解決や、事前にトラブルを防止するためにも様々な法律の適用が必要になります。
トラブルが起きた時、相手との約束の証拠や、単独でした行為の証拠となる「契約書」「委任状」「領収書」「遺言書」などを、広い意味で法律文書と呼びます。
このように、後々のトラブルを防止・解決するために重要な役割をになう法律文書ですが、その記載が法律を根拠としているので、作成が専門的で難しく、
内容の矛盾や誤記が後のトラブルの解決や手続きの進行を困難にさせることがあります。その中でも、当事務所では不動産の記載の誤り・漏れによるご相談がもっとも多い印象です。
これは、ご自分で法律文書を作った場合にとどまらず、士業や事業者に法律手続きの依頼をされている場合でも異なりません。
専門家や法人でもやってしまうミスの一つなのです。
不動産の記載ミスがあるとどうなるのか?
後々のトラブルを解決・防止や、手続きをすすめるために準備した法律文書の不動産の記載にミスがある場合、法律文書によっては致命傷になります。
その中でもとくに困ってしまうケースは次のようなものです。
1.調書等への不動産記載ミス
民事・家事事件の調停、訴訟をおこなった際の物件目録に記載ミスが見つかる事があります。
明らかな誤記であれば、法務局によっては相手方の協力なく登記手続きを進められる可能性もありますが、
不動産のうち一部の記載が抜けていたという場合は、裁判手続きを経たにもかかわらず、相手に印鑑証明書の提出や再度の契約書・協議書の作成及び登記手続きへの協力をもとめなければならなくなります。
もし、相手方がいやがらせとしてあらためての契約・協議や登記手続きに関する書類提出を拒否した場合、再度調停等を申立て、さらに登記手続への協力を求める訴訟を提起せざるを得ないということになるでしょう。
2.遺言書への不動産記載ミス
故人がご自身で遺言を作成されたときや、また公証役場に直接出向かれて作成をした場合などに物件の漏れが見つかる事があります。
遺言書の不動産記載一部が抜けていた場合には、抜けている不動産については遺言を使って登記手続きをすすめることができなくなります。
相続人が全員健康で成人しており、仲が良く近くに住んでいるという事情であれば問題になることは少ないですが、遺言書を作成されているということは、少なからず作成を考える原因やなんらかの目的があったはずです。
遺言書を手続きに使用できなかったことで、手続きを進められない又は進めるとしても余計な手間と費用が発生してしまうという事態が考えられます。
3.その他 契約書や協議書への不動産記載ミス
さきにお話ししたとおり、契約書というのは約束事を書面に記載して証拠として残しておくという趣旨の法律文書です。
その約束事に記載がない不動産があるということは、そのまま解釈すれば、証拠が残されていないという事になりますよね。
つまり、後日トラブルとなったときに、抜けている不動産について契約に記載がないことを相手に主張されてしまえば、こちらはその不動産についても契約内容に盛り込んでいたという事を他の証拠で証明しなければいけなくなります。
不動産の仲介をしている宅建業者も、売買契約書作成時に絶対にミスしないように気を付けているところだと思います。後日の損害賠償リスクを背負う事になるからです。
契約書以外にも、遺産分割協議書等の記載に抜けや誤りがあるということもよくあります。
この場合は、相続人の仲が良ければ同意を貰って不動産を書き足し、または再度押印を貰えばいいという話になるかもしれません。
しかし、5~10万円の費用をいただいて遺産分割協議書や離婚協議書の作成を受任した事業者が、
不動産の記載ミスをしてしまうというのは、手続きに関与する専門家としてはいただけないと思います。
なぜ不動産の記載誤り・記載漏れが発生するのか?
なぜ記載に誤りがあったり漏れがあるのかですが、原因はシンプルで、確認不足です。
現代では「土地を所有している」という言葉を聞いて、違和感のある方はいないのではないでしょうか。
しかし、少し考えてみると、「所有している土地」とはいったい、どこからどこまでの事をさしているのでしょうか?
土地に明らかに分けられた境界線や名札があるのでしょうか?
土地に塀があったとして、それは個々人で土地の境界をわかりやすくするために設けたものでしょうから、正式な境界線という事ではありませんよね。
そもそも大地は延々と続いていますし、名札があるわけでもないのに、どうやって所有している土地を正確に把握すればよいのでしょか?
毎年5月頃に納税通知書が送付されてくるかと思いますが、「固定資産税が課税されている土地」があなたが持っている土地の全てなのでしょうか?
親族から「あなたは土地建物を1筆ずつ持っている」と言われたが、果たして本当に1筆ずつしか所有していないのでしょうか?
権利証に「持分2分の1で父が土地を持っている」という記載があったとして、果たして本当に現在も持分2分の1をお父様が所有されている根拠はあるのでしょうか?
こういった細々しい不動産の特定に関することを日常的に調査しているのが、不動産売買を取りまとめる仲介の宅建業者や不動産登記を扱う司法書士や土地家屋調査士です。
不動産の記載は一部専門的な知識が必要なため、慣れていないと、確認不足で記載を間違えてしまうことがよくあるということですね。
物件の抜けもれや、誤記を防止しましょう
法律文書を作るときは、記載の抜けもれが発生しないよう、最低限次の資料を確認しましょう。
1.登記済証(又は登記識別情報通知)
前回、どの不動産についてどのような目的で登記を行ったのか?という情報が記載してある重要書類です。
登記済証であれば、登記申請書の副本が冊子となっていますので、当時の申請内容まで確認することができます。
物件目録の中に、課税されていないが私道ではなく、また謄本取得も不可という物件がある場合は、法務局で古い簿冊を確認して現在の所有者を特定する事もあります。
このような場合、例えば過去に土地を合筆して誰かに譲ってしまったという事が考えられ、これまでの土地の経緯すべてを調べられるところまで調査するのが通常です。
2.名寄帳、納税通知書で確認する
名寄帳とは、特定の者がその市区町村の管轄で所有している不動産の一覧を記載した証明書のことです。
また、納税通知書とはご存知のとおり、固定資産税が課税された土地建物の記載がされている資料の事です。
固定資産税が課税されていない「非課税の不動産」については、名寄帳に記載されないという取り扱いの役所も多く、また固定資産税納税通知書には最初から記載されませんので別途調査する必要があります。
3.法務局でとれる資料を一式取得する
具体的には登記事項証明書(謄本)、公図、地積測量図、建物図面、土地上の建物検索なども行い網羅的に調査します。
謄本を確認することで、現在の登記名義人や不動産の具体的な表示が確認できます。ただし、謄本も更新がされていなければ昔の記載という事になってしまうので、100%信用できるわけではありませんので注意しましょう。
公図を確認し、周辺不動産の謄本も全て取得して物件漏れがないかを確認します。慣れていれば形状からある程度予測して謄本取得するのでも足りますが、一般の方が調査する場合は周囲にある土地の謄本を全てとって確認してみるのが良いでしょう。私道、セットバック、ごみ置き場、下水道、集会所持分などが抜けもれの典型例です。
土地上の建物検索も合わせて行い、存在しない建物の登記が残っていないかも確認しておきましょう。
4.新たな制度!所有者不動産記録証明
新設予定となっている制度です(令和3年現在)。
法務局で相続登記をする必要がある不動産を、網羅的に名寄せすることが可能になるとのことです。
役所でとれる名寄帳は、あくまでその市区町村に課税物件を所有しているか否かという確認にすぎませんし、課税物件は表示されないという欠点があったものの、
こちらは相続登記用に新設されるということですから、運用が待ち遠しいですね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
法律文書を作るときに不動産の記載が必要なときは、充分な調査が必要だということはご理解いただけたのではないでしょうか。
数千円の財産をあつかうご契約等であれば問題ありませんが、不動産は数百~数億円という高額な財産ですから、約束ごとを書面化する際にはとくに注意しなければなりません。
権利が目に見えないのでわかりづらいのですが、慣れている宅建業者や司法書士、土地家屋調査士が関与していない不動産のやりとりというのはリスクを伴うものです。
不動産が絡むときは基本的には司法書士に登記、書類作成をご依頼いただくのが最も安全かつスムーズです。
ご自身で法律文書作成するときや、慣れていない他士業等にその作成をご依頼になるときは、充分に調査を行ったうえ、リスクとの兼ね合いもお考えになってから手続きを進めることを推奨します。
以上、物件記載について興味のある方の参考になれば幸いです。
相続・遺言のご相談
-
相続に関連する業務内容一覧
相続(不動産・預金・株式等) ↑↑ 戸籍謄本等の書類収集、遺産分割協議書などの書類作成、登記申請・預金解約などの相続手続き、財産調査や借金調査などをまとめてご相談になりたい方はこちら & ...
続きを見る
知識ページ一覧
知識ページをご覧になりたい方はこちらから