個人・法人が持っている財産のうち大部分をしめる不動産の取引にはさまざまなリスクが存在しますが、どんなリスクがあるのかは漠然としていてはっきりとしません。
そこで、どんなリスクがあるのか、その対処方法はどのようなものがあるのか事前に知っておきたいという方向けのマニアックな記事です。
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不動産を取引する際のリスク
1.人が原因のリスク
当事者の死亡・意思能力喪失(認知症等)・破産・怪我・急病などによる身の上の変化
不動産取引してから実際に引き渡し(決済)するまでにはタイムラグがあります。そのため、その間に当事者の身に何かあるということは当然にあり得ます。
多額の融資を受けるといった場合には、引き渡し日(決済日)を延期するということは難しいことが多く、事前にある程度そういった事態を想定しておく必要があります。
死亡の場合には相続人が、意思能力喪失の場合には後見人、破産の場合には破産管財人、怪我の場合には売買の代理人がそれぞれ手続きをすることとなるでしょうが、それぞれそれなりの期間も要するので注意が必要になります。
当事者の気が変わる
買おうという気持ちがなくなったり、契約内容についての理解の一部に誤解があって契約をやっぱり辞めたいと心変わりする場合もあります。
事前に手付金、頭金を支払ってもらうなどして対策を講じているのが通常です。
一方当事者の悪意
登記名義人である売主本人になりすましをしたりして売買代金を持ち逃げするという犯罪に巻き込まれるリスクです。
資金調達の失敗
買主が融資の審査に落ちてしまった場合に売買契約を進めることができないリスクがあります。ローン特約などで対策を講じているのが通常です。
契約においてのリスク
売主が代金を確実に受け取れなかったり、買主が完全な所有権の登記ができなかった場合などです。その他登記自体が偽物の登記であり、売主に物件を処分する権利がそもそもないということもあり得ます。
2.外部要因によるリスク
災害
売買手続きから引き渡しまでの間にどんな天変地異があるのかは予測できません。例えば、売買契約をした後で不動産が火事でなくなってしまったらどちらが負担するのかという問題があります。
契約に危険負担の条項を盛り込んでおくというのが通常です。
差押・仮処分リスク
不動産の売買契約をし、いざ決済日を迎えて買主は売主に代金を送金、売主は登記書類を司法書士にひきわたしますが、登記申請の直前に差押さえが入り完全な不動産の所有権を買主に移転できないという事態が発生するリスクがあります。
売買代金を登記完了まで信頼できる第三者が預かっておけばそのような事態は防げるはずですが、現段階ではそのような方法はとられていません。
「任意売却」の場合などで、決済日当日登記直前に差押登記が入って取引のやり直しというケースも実際に起こったことがあるようです。
取引後の状況変化
不動産を購入後すぐに相場が大きく下落し、数日後であればもっと安く買えたということであればトラブルに発展するリスクがあります。
収益用不動産を購入後収益性が極端に減ってしまった場合なども同様でしょう。法律の改正や、不動産をとりまく計画の延期等、様々な要因が考えられます。
3.物件をとりまくリスク
物件自体の瑕疵
土地の土壌汚染や地盤沈下、建物の外注や雨漏り、建築基準法違反により建物が建築できない場合など様々なリスクがあります。
調査内容と実際の物件状況の相違
司法書士は登記簿から権利関係を把握しますが、例えば賃借権は基本的に登記簿に反映されません。
そのため、誰かが持ち主と賃貸借契約を結んで住んでいたりする可能性があります。公的書類を見ても表面化しないリスクというのもあるわけです。
また、古い登記簿や公図(地図)は現実の不動産状況を正確には反映できていないところもあり、現地との違いが発生する可能性があります。
隣地所有者・賃借人との関係
境界の確定について隣地所有者の同意が得られず紛争が発生するというケースもあり得ます。
また、賃借人の賃料不払いや、賃借人が反社会勢力であった場合などに問題となる可能性があります。
発生しやすいリスク
物件調査内容と実際の物件状況の相違
現地調査の内容と、登記簿や公図から得られる情報が全く違うという場合もあります。
不動産を誰かが占有しているという場合もあり得ますし、形が全く違うということもあり得ます。
対策として物件の現地調査が特に重要になります。不動産売買であれば宅地建物取引士から説明をうける重要事項説明書の内容を見ながら実際に現地を確認することも大切です。
当事者の理解不足によるトラブル
不動産を取り巻く取引には専門用語が飛び交います。当事者の一方があまり契約の内容を理解しないまま売買が進んでしまった場合トラブルが発生する可能性が考えられます。
本人確認、登記意思の確認不備
写真付きの証明書を持っていない人もいて本人確認が不十分なケースもありますし、
不動産取引において当事者に意思能力があるのかないのかというのを判断するのは難しい問題でもあります。
しかし、当事者が売買契約当時に認知症であったと認められた場合等には、後々の訴訟により売買契約が取り消され無効になってしまう恐れがあります。
法令改正
法律、命令は頻繁に変更され、経過措置が取られるなど複雑であるので、事前に調査して対応策を考えておく必要があります。
リスクへの対策
上記のように、不動産取引のリスクは完全に取り払うことはできませんから、関わる人全員が最新の注意を払って調査、確認を行うことでリスクを最小限に抑えるということが必要になります。
1.契約書の内容確認
不動産取引のリスク回避でもっとも重要なのは契約書の内容です。
多くの宅建業者は不動産流通経営協会(FRK)の標準ひな形を利用するなどし契約内容に不備がないようにし、特約を追加するなどしてリスク回避を行っているようです。
また、宅建業者が取引に介在する場合には、担当者が現地調査を行うなどし、宅地建物取引士が重要事項説明を行うことで、当事者の理解不足や物件の相違を防いでいます。
後日の紛争防止という意味合いで作成するのが通常の契約書ですが、実際には後日の課税への備えとして作成するといった場合もあり条項が練られていないこともあるようなので、
ひな形とはいえ取引内容は契約時に入念に確認しておく必要があります。
2.当事者の確認
宅建業者や司法書士が不動産取引の際、本人と必ず面談を行い本人確認を行います。その際に意思疎通ができるかどうかや本当に物件を譲渡する意思があるのか等も確認します。
本人確認
物件を譲渡しようとする人物が偽物でないかの確認をします。
具体的には本人確認資料の原本を拝見しますが、毎回一人一人を疑って面談するわけにもいきませんから、取引全体で怪しい場合などにとくに入念に確認します。
意思疎通の確認
意思疎通ができないことを民法では意思能力を欠くといいます。また、被保佐人など一定の条件に当てはまる人を制限行為能力者といいます。
そういった意思能力を欠く方や制限行為能力者の方との取引は、後々契約が取消無効になる恐れがあるので、このような確認を一緒に行います。
ただし、「この人は意思疎通ができない」と司法書士が思ったから取引を中止するというのは通常難しいかと思いますし、「あなたは意思疎通できない」と相手に伝えることができるわけではありませんから、
不動産取引に関わる方々全員の意見を聞きつつ、場合によっては成年被後見人でない事の証明書を取得したり、診断書をとっていただいたり、利害関係を有する可能性のある人全員の同意書をもらうなどして手続きを進めます。
物件を譲渡する意思があるかの確認
物件を売る意思があるかの確認とは、例えば複数不動産を持っているような方で売ろうと思っていた不動産とは違うものを売ろうとしてしまっていたという取り違えを防いだり、
売買金額や契約に思い違いがあったりしないかを確認するということです。後で思い違いがあった場合、錯誤といってこちらも後々契約が取消無効になる恐れがあるのです。
3.目的の不動産の確認
目的不動産についての理解に誤りがあるとトラブルに発展しやすいので、事前に確認しておく必要があります。
土地の確認
原則は境界確定測量をした土地を購入するのが最も後々のトラブルを避けることができます。境界確定測量とは、隣地所有者全員の立ち会いのもと土地の境界を決める測量方法で、土地家屋調査士によって測量後登記されます。
土地は購入後に隣地所有者との境界が決まらず紛争に発展するケースもあるので、そういったリスクを回避できるわけです。
登記簿の土地面積で土地購入する取引を「公募売買」、測量後の面積で土地購入する取引を「実測売買」といいますが、登記簿や公図の地積というのは記載が古ければ古いほど現況の土地とは記載が違う可能性があり、信用性に欠けます。
それでも公募売買を利用するのは、広大な土地などで測量費が高額な場合にコストを抑えることができるという利点があるからですが、その場合「後日測量して大きな違いがあっても文句を言いません」といった内容の契約をすることになりリスクは残ります。
取引までにどうしても境界の確定が難しい場合には、最低限境界標を当事者が確認しておいたり、境界標自体がなく設置もできないという場合には、境界標が存在しないことや、隣地所有者の確認が得られていないといった説明を契約書や重要事項説明書に記載しておくという方法によりリスク回避を行っているようです。
司法書士や宅建業者は取引の際、地図や登記簿を確認し、事前に契約内容と物件情報が一致しているかどうかや、道路に接している(2項道路等)か、私道に漏れはないかなどを確認し、リスクのない取引かどうかについても調査しています。
建物の確認
建物は現況を確認するのが最も安全な確認方法です。通常は宅建業者が介入していれば確認してくれます。
建物が登記されてから増改築や解体を行ったような場合、登記簿は自動更新されるわけではありませんから、現況の建物と登記簿の記載が違う場合があり、登記簿の記載は100%は信用できません。
現地に行ってみると登記されていない建物が建っていたり、逆に建っているはずの建物が建っていなかったりするのです。また、誰かが現在住み着いているという可能性もありますから、建物は現況を見に行くというのが最も確実な確認方法です。
権利関係の確認
担保権や差押がされている場合には、不動産を譲渡する人はまっさらな状態にして引き渡すのが通常です。
抵当権や差押であれば登記されているので事前に確認することができますが、賃借権や地役権は登記されていない場合があり、現況を見ないとわからない場合があります。