不動産登記は原則として共同申請によりますが、登記手続訴訟等における判決がある場合は単独で行うことができるものとされています。
この記事は、この判決による登記を深堀し、備忘録としてまとめたものです。
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判決による登記
判決による登記と単独申請
判決による登記が単独で申請できることの根拠は、次の条文です。
(判決による登記等)
第六十三条 第六十条、第六十五条又は第八十九条第一項(同条第二項(第九十五条第二項において準用する場合を含む。)及び第九十五条第二項において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず、これらの規定により申請を共同してしなければならない者の一方に登記手続をすべきことを命ずる確定判決による登記は、当該申請を共同してしなければならない者の他方が単独で申請することができる。
2 相続又は法人の合併による権利の移転の登記は、登記権利者が単独で申請することができる。
所有権などの権利変動は「意思主義(民176)」によるものとされているので、通常はその当事者からの申請があればその意思表示があったことの真実性が担保されると考えているわけですが、
裁判所で「意思表示すべきことを債務者に命じる判決等」が確定した場合には、一方の意思表示を擬制する(民執177)ものとされているので、共同申請でなくてもよいという扱いになっています。
登記の際には、判決主文の記載が、意思表示すべきことを債務者に命じる判決と言えるかや、不動産の記載漏れがないかが問題となり、その判決書が登記に使えるかどうかについては、事前に確認しておく必要があります。
民法
(物権の設定及び移転)
第百七十六条 物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。
民事執行法
(履行の強制)
第四百十四条 債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い、直接強制、代替執行、間接強制その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 前項の規定は、損害賠償の請求を妨げない。
(意思表示の擬制)
第百七十七条 意思表示をすべきことを債務者に命ずる判決その他の裁判が確定し、又は和解、認諾、調停若しくは労働審判に係る債務名義が成立したときは、債務者は、その確定又は成立の時に意思表示をしたものとみなす。ただし、債務者の意思表示が、債権者の証明すべき事実の到来に係るときは第二十七条第一項の規定により執行文が付与された時に、反対給付との引換え又は債務の履行その他の債務者の証明すべき事実のないことに係るときは次項又は第三項の規定により執行文が付与された時に意思表示をしたものとみなす。
2 債務者の意思表示が反対給付との引換えに係る場合においては、執行文は、債権者が反対給付又はその提供のあったことを証する文書を提出したときに限り、付与することができる。
3 債務者の意思表示が債務者の証明すべき事実のないことに係る場合において、執行文の付与の申立てがあったときは、裁判所書記官は、債務者に対し一定の期間を定めてその事実を証明する文書を提出すべき旨を催告し、債務者がその期間内にその文書を提出しないときに限り、執行文を付与することができる。
判決による登記手続の際の注意点
受験生が学ぶところですが、登記で気を付けるポイントは次のものだと思います。
判決主文
・判決主文に登記事項を記載する。
・個別具体的な登記手続を明示しなければならない。
・請求の趣旨は、具体的に「登記手続をせよ」「登記手続きをする」などと記載する。
・執行文の付与は原則不要 ※反対給付、条件成就、期限の到来にかかる場合は必要
・確定証明書付判決書正本を利用する ※謄本は登記原因証明情報とはならない
登記手続訴訟における権利
「登記請求権」に基づいて訴訟提起することになりますが、法的性質は通常の実体法上の権利と同様です。
債権的、物権的、物権変動的登記請求権がありますが、このあたりは基本知識なので割愛します。
様々な種類があるので、何に基づく登記請求権を主張するのか?が悩みどころですね。
被告と原告
登記義務者が被告、登記権利者が原告になりますが、中間者がいる場合は債権者代位を考慮しなければならなくなります。
あくまで共同申請する際の申請人とされる者達が当事者になるということですね。
また、例として抵当権抹消登記手続訴訟で、抵当権者がすでに亡くなっている場合等は、その一般承継人である相続人の全員が被告となります。
必要的共同訴訟ではないので、非協力的な相続人に対してのみ訴訟するのが原則かと思いますが、抹消登記請求権に基づく訴訟の場合、人数が多い場合や権利書紛失時の印鑑証明書の手配の手間を考えると、全員に対して訴訟提起するケースが多いのではないでしょうか。
その他、古い登記を消す場合等で、登記名義人が行方不明の場合は、登記簿上の住所地を現地調査したうえで報告書にまとめ、訴訟を進めることになります。
登記簿上の住所と被告の現住所が違う場合などは、目的の登記の前提として、登記名義人の住所氏名変更登記を債権者代位により行うことが必要な場合もあります。
訴額と司法書士が対応できる範囲
司法書士は訴額140万円以下であれば、訴訟代理人として手続きを進めることが可能(公示催告や借地非訟事件は不可)なところ、
不動産に関する訴訟の場合は、建物の評価額が280万円以下、土地の評価額が560万円以下であれば、代理人として司法書士が手続きを進めることが可能です。
※担保権の訴訟などは被担保債権の額も考慮しなければなりません。
これは、原則、不動産の評価額の2分の1で訴額を計算するところ、土地はさらに当分の間、2分の1を乗じた額とするという民事局長通知があるからです。
古い登記の抹消登記
司法書士が登記手続訴訟に関与することが考えられるのは、休眠担保権や古い登記の抹消に頭を悩ませている時ではないでしょうか。
そこで、ポイントとなりそうな部分をまとめておきます。
裁判所を利用した抹消登記手続の流れ
1.登記名義人の調査をする
登記名義人が行方不明の場合や、相続人はわかる場合など、いろいろなケースが考えられます。
詳しい登記名義人の調査についてはこちら
登記名義人の所在が不明の場合
登記名義人の住所氏名からは住民票も除籍謄本の取得も困難ということになると、公示送達の方法をとることになりますが、明らかに登記名義人が死亡していることがわかる年数が経過している場合、
その判決もでるうえに登記も受理されますが、実際のところ、その登記は死者に対する判決をもとにしたものであり、相続人に効力が及ばないため無効であるという不安定な状態になります。
ではどうすればよいかというところですが、学術的な本には除権決定か供託利用特例によるのが好ましいとあります。
しかし、古い登記の書類などは残っていないのが通常であり、債権額も高額であれば供託利用も難しく、さらに登記原因の特定が困難なため、時効消滅の主張を検討するのが一般的でしょう。
この流れで、時効消滅を原因として除権決定をもらうためにはなんと、公示催告の際に時効消滅が成立したことを証明する抹消の判決が必要という建付けになっています。
公示催告の中で時効消滅の援用はできないということです。じゃあ、誰に援用して訴訟で誰を訴えるのか?という話に戻ってきますね。
このように制度が矛盾していますので、結局のところ公示送達の方法をとることになるでしょう。
登記名義人の死亡が判明しているが、相続人の一部が所在不明の場合
特別代理人の選任申立を行うのが一般的なようです。
2.被告がわかる場合は連絡する
住民票や戸籍の調査、現地調査などで被告が判明した場合は、その相手方に連絡を試みます。
協力してもらえると、話がスムーズだからですね。
3.相手方が非協力的なときは訴訟提起する
登記名義人が亡くなっている場合は相続人全員の協力が必要なので、中には協力してくれない相続人がいるというケースも考えられますね。
このような場合は訴訟提起せざるを得ません。
また、ほとんどの相続人が協力的であっても、一部の相続人が非協力的な場合は、同様に相続人全員に対して訴訟提起することも考えられます。
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参考:
休眠担保権に関する登記手続と法律実務―不動産登記法70条3項後段特例、清算人選任、公示催告・除権決定、抵当権抹消訴訟―・正影秀明