不動産の譲渡と贈与税

司法書士 廣澤真太郎
こんにちは。司法書士・行政書士の廣澤です。 

 

この記事は、不動産を贈与した場合にも課税される贈与税について備忘録として記載したものです。

贈与税はとくに高額になることが多く、実務においては見逃してはならない気をつかう税金のひとつです。

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贈与税とは

個人から財産を貰ったときに、貰った人にかかる税金です。

ただし、受け取った人が贈与税の支払いを怠った場合など一定の場合には贈与した人に課税されることもあります。

 

課税方式には2つ存在し、暦年課税と呼ばれ毎年1年間のうちにもらった額の合計額それぞれ課税する方式と、相続精算課税という相続開始時にまとめて課税する方式があります。

 

 

1.暦年課税

1月1日~12月31日までの1年間に贈与により、受贈者が取得した財産の合計額に下記計算式により税率を乗じて計算する方法です。

 

暦年課税の計算

(課税価格 - 基礎控除110万円) × 速算表の税率 - 速算表の控除額

課税価格の計算 

1月1日~12月末日までの1年間に貰った財産の価額 + みなし贈与財産 - 非課税財産の額

※基礎控除110万円については廃止が検討されています。

 

 

不動産の贈与の場合 

課税価格は、土地については路線価、建物については固定資産税評価額がもとになります。

土地の路線価を知りたい方はこちら 財産評価基準書路線価図・評価倍率表

建物は固定資産税納税通知書に書いてある価格です。 

 

(例)

土地建物2,000万円を贈与する場合で、一般税率かつ特例などを全く考慮しないと次のようになります。 

(2,000万円 - 110万円) × 50% - 250万円 =695万円

仮に、500万円の土地のみを贈与した場合で、一般税率かつ特例などを全く考慮しないと次のようになります。

(500万円 - 110万円) × 10% - 0円 = 39万円

 

 

 

速算表



基礎控除後の課税価格
平成27年1月1日以後の贈与
一般税率 特例税率※
税率 控除額 税率 控除額
200万円以下 10% 0万円 10% 0万円
300万円以下 15% 10万円
15%

10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円 20% 30万円
1000万円以下 40% 125万円 30% 90万円
1500万円以下 45% 175万円 40% 190万円
3000万円以下 50% 250万円 45% 265万円
4500万円以下 55% 400万円 50% 415万円
4500万円超 55% 640万円

※「直系尊属(父母、祖父母等)」からの贈与により財産を取得した人については、特例税率が適用されます。財産をもらった人は、その贈与をうけた年の1月1日時点において、20歳以上である場合に限ります。

 

 

みなし贈与財産の例 

・生命保険

保険料を負担していない人が受け取った保険金

・債務免除益

債務をだれかに引き受けてもらったり、免除してもらった場合 

・著しく低い金額での譲渡

実際の時価よりも著しく低い金額で財産を譲渡してもらった場合

 

非課税財産の例

扶養義務者からの生活費として社会通念上認められるもの

つまり、子供への最低限の仕送りは課税対象ですらありません。

公益事業を行うものに対する寄付等

一定の公益社団法人などですね。

見舞金、香典、年末年始の贈答等、社会通念上認められるもの

お年玉は課税対象ではないという事でしょう。

・法人からの個人への贈与

所得税になります。

 

 

2.相続時精算課税 

生前に贈与した金額のうち、2,500万円迄を贈与としてでなく、相続財産として加算し、相続開始時に相続税の対象財産として計算されるものです。 

 

贈与税で計算すると課税されるが、相続税で計算すると基礎控除内に収まり課税されないというケースで利用される事が多いようです。

 

この制度を適用するよりも毎年の基礎控除110万円をうまく使ったほうが結果的に節税になる場合もあるので、この課税方式の利用をお考えの場合には税理士への相談が必須と言って良いでしょう。

 

 

 

基礎控除110万円について

毎年1月1日~12月末日までに貰った財産の額が110万円までであれば、非課税です。この基礎控除内であれば贈与税の申告も不要です。

 

ただし、1年間に複数の人から財産をもらい受けた場合でも、もらった人1人あたり110万円迄の控除であることや、毎年110万円ずつ贈与を行った場合も全体として1回の贈与とみなされる例がありますから、注意が必要です。 

 

 

 

納税方法

財産を貰った年の翌年2月1日~3月15日までに、税務署に申告して納税します。

注意点としては、特例を利用して贈与税の支払いを免れる場合には申告が必要という点です。忘れないようにしたいですね。

受け取った財産の課税価格が110万円未満であれば申告は不要です。

 

 

豆知識

不動産の贈与を平成20年に行っていたが、不動産の名義変更を行っていなかったため、令和4年に所有権移転登記を経たという場合は申告時期が既に経過していますが、どうすればよいでしょうか?

 

結論からいうと、この場合は登記があった時に贈与があったものとされますから、翌年度に申告すれば足ります。

 

別の角度から言えば、登記をしていなかった人の贈与税については、消滅時効の主張を許さないということです。

 

1の3・1の4共-11 所有権等の移転の登記又は登録の目的となる財産について1の3・1の4共-8の(2)の取扱いにより贈与の時期を判定する場合において、その贈与の時期が明確でないときは、特に反証のない限りその登記又は登録があった時に贈与があったものとして取り扱うものとする。ただし、鉱業権の贈与については、鉱業原簿に登録した日に贈与があったものとして取り扱うものとする。(昭57直資2-177改正、平15課資2-1改正)

 

 

 

さまざまな特例

 

贈与した翌年の確定申告時期に特例を利用する旨の贈与税申告をしなければ特例を利用することはできませんので注意が必要です。

贈与の方法についての判断は、お近くの税理士にご相談いただくことをおすすめします。

 

配偶者控除

いわゆる「おしどり贈与特例」です。

婚姻して20年以上経過した夫婦に適用される特例で、条件に当てはまれば2,110万円までの贈与は非課税になります。

 

条件がいくつかありますが、税制は毎年変わるのでその年度のものを国税庁のHPで確認しましょう。また、この特例は1回しか使えないので注意しましょう。

国税庁:令和2年分 贈与税の配偶者控除の特例チェックシート。PDF

 

住宅取得資金等の特例

一定期間の間に、父母や祖父母など直系尊属からの贈与により、居住用の住宅取得資金を贈与した場合に、限度額(700~3,000万円)までの贈与税が非課税になる制度です。

 

こちらも条件がいくつかありますが、税制は毎年変わるのでその年度のものを国税庁のHPで確認しましょう。

国税庁:令和2年分 住宅取得等資金の非課税の特例適用チェック表。PDF

 

教育資金の一括贈与の特例

30歳未満の者に対し、父母や祖父母など直敬尊属から教育資金として贈与した場合、子や孫一人あたり1,500万円を限度として非課税になる制度です。

 

通常、養育費としての子供への毎月数万円の資金提供は扶養義務の範囲なのでそもそも贈与税が課税されませんが、一括して将来にわたる教育資金を提供したい場合などには贈与税が発生しますので、そういった場合に利用されます。

 

事業承継税制

事業をされている方等が亡くなった場合、経営を任せようと思っている方にその未公開の株式(実質売れない株式)を相続時に分散しないため、生前に贈与しておくことが検討されますが、

その場合株式を取得した方に多額の税金が発生し、税金のせいで事業継続が危ぶまれるという問題がありました。

 

そこで、一定の条件を満たす場合には納税を猶予するという制度です。使用例が極端に低い制度でしたが、平成30年の税制改正により使いやすくなったようですので、使用頻度が高まることが予想されています。

 

特例適用ができるかどうか判断できるチェックシートは国税庁のHPに毎年掲載されるので、その都度チェックしましょう。

国税庁:資産税関係特例適用チェック表 国税庁HP

 

 

間違えて贈与登記をしてしまった場合

贈与登記が錯誤等の法定取消又は法定解除による場合は、課税処分のタイミングまでに所有権移転登記を抹消するなど一定の条件を満たすことができれば、その財産について贈与がなかったものとして扱われます。

 

一方で合意解除により契約を取消しした場合には、原則として課税されます。これはおそらく、合意解除を原因とする登記をいれてしまうと、ダブルパンチで税金が発生するという事かと思います。これとは別に、真正な登記名義の回復による場合は、課税されないという取り扱いもあるようです。実際に行う際には、課税庁への確認が必要でしょうね。

 

税金は実体で判断されますから、その他に贈与であると判断される要因があればそのような扱いにはなりませんので、こういった登記を行う場合には、その後にしっかり課税庁に対して説明する準備を整えておく必要があるでしょう。

 

一部抜粋

8 贈与契約が法定取消権又は法定解除権に基づいて取り消され、又は解除されその旨の申出があった場合においては、その取り消され、又は解除されたことが当該贈与に係る財産の名義を贈与者の名義に変更したことその他により確認された場合に限り、その贈与はなかったものとして取り扱う。

11 「8」に該当して贈与契約が取り消され、又は解除された場合を除き、贈与契約の取消し、又は解除があった場合においても、当該贈与契約に係る財産について贈与税の課税を行うことに留意する。

4 通達「11」により、贈与契約が合意により取り消され、又は解除された場合においても、原則として、当該贈与契約に係る財産の価額は、贈与税の課税価格に算入するのであるが、当事者の合意による取消し又は解除が次に掲げる事由のいずれにも該当しているときは、税務署長において当該贈与契約に係る財産の価額を贈与税の課税価格に算入することが著しく負担の公平を害する結果となると認める場合に限り、当該贈与はなかったものとして取り扱うことができるものとする。

(1) 贈与契約の取消し又は解除が当該贈与のあった日の属する年分の贈与税の申告書の提出期限までに行われたものであり、かつ、その取消し又は解除されたことが当該贈与に係る財産の名義を変更したこと等により確認できること。

(2) 贈与契約に係る財産が、受贈者によって処分され、若しくは担保物件その他の財産権の目的とされ、又は受贈者の租税その他の債務に関して差押えその他の処分の目的とされていないこと。

(3) 当該贈与契約に係る財産について贈与者又は受贈者が譲渡所得又は非課税貯蓄等に関する所得税その他の租税の申告又は届出をしていないこと。

(4) 当該贈与契約に係る財産の受贈者が当該財産の果実を収受していないこと、又は収受している場合には、その果実を贈与者に引き渡していること。

国税庁:直資103 直資68

 

 

 

贈与する前に検討しなければならないこと

高額な財産の贈与を検討中の場合は、税金についてしっかり比較検討することをおすすめします。

 

(例)

・不動産の贈与の場合には、相続時と比較し登録免許税が5倍になる。

・贈与の場合には不動産取得税が発生する。住宅の軽減を利用する場合でも、その申告が必要になるなど相続時より税金面の手間が増える。

・ケースによっては贈与した一方に譲渡所得税が発生する可能性がある。

・相続時精算課税制度は暦年贈与の110万円控除や小規模宅地特例が使えなくなる。 

…etc

 

 

 

まとめ

高額な資産の移転などをお考えの際には、自分達で判断して進めるのはお控えになったほうが無難です。 

また、税金対策として生前贈与を行うべきか、相続まで待つべきかといった判断は、税理士の専門分野ですから、その判断についてお悩みの方はお近くの税理士をおたずねください。 

当事務所にご連絡いただいた場合には、知人の税理士をご紹介することも可能です。 

 

以上、参考になれば幸いです。

 

 

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