遺言に定めることの多い遺言執行者とはどのような地位なのかを、この記事では解説しています。
[toc]
遺言執行者とは
遺言書で指定された、遺言内容を実現する人のことです。
例えば「不動産Aを売却し、残金を相続人に3分の1ずつ相続させる」という遺言書が残されていたとします。
この場合、法律上相続人全員で相続登記を行い、さらに相続人全員で不動産売却手続を進めなければなりませんが、現実問題として相続人全員で手続をするのは大変です。
そのため遺言執行者を定めておくことによって、相続人の代表者や第三者がスムーズに手続を進める事ができます。
その他、遺言執行者が選任されていなければ行えない手続があります。
遺言執行者になれる人?必ず選任が必要?
未成年者や破産者を除き、誰でもなることができます。
次の場合には必ず選任しなければなりませんが、それ以外のケースでは選任は不要です。ただし、通常は相続手続きを簡単にするため、相続人や司法書士、弁護士等を選任しておきます。
遺言執行者の選任が必要な場合
1.遺言者が男性で、子の認知を行う場合
2.相続人の廃除を行う場合 (相続人のうち、遺言者に侮辱や暴行などを行った事があり、どうしても財産を渡したくない人がいるといったケース)
遺言執行者を選任する方法
一般的にとられる方法は次の2つです。
1.遺言書で指定する
2.家庭裁判所に選任してもらう
家庭裁判所に選任してもらうケースとしては、例えば遺言執行者の記載がない遺言で、他の相続人の協力が得られないケースや、就任を拒否した場合などが考えられます。
遺言執行者の報酬
遺言書に定められている報酬基準か、記載がなければ家庭裁判所に報酬の決定をしてもらいます。
遺言執行者がいる場合のメリット
遺言執行者は、遺言内容を実現することが困難なケースで役立ちます。
遺言内容を実現することが困難な場合の典型例は、相続人ではない第三者に対して、財産を遺贈する場合等です。
相続人ではない第三者に対して遺贈する場合、手続きとしては相続人全員の協力がなければ財産をその第三者に遺贈することはできません。
そのため、相続人のうち1人でも手続きに協力てくれない方がいれば手続きをすすめることができないわけです。※改正後の民法に該当する相続人に対する遺贈は単独申請が可能です。
こういった場合に備えて遺言執行者を定めておけば、相続人全員の協力がなくとも相続人全員の代わりに遺言執行者が遺贈にかかわる手続きを進めることができますので、遺言内容がより実現しやすくなります。
その他、相続手続きの際に必要書類が少なくて済むというメリットもあるでしょう。
遺言執行者に選任されたが就任をためらっている…
就任は拒否することができます。
日々の仕事が忙しいため、遺言執行者として財産目録を作成したり、他の相続人に通知をしたり動き回る暇なんてないという方もいらっしゃるかと思います。
また、上に述べたように遺言執行者には一定のケースでメリットがありますが、遺言執行者を定める必要がない場合もあります。
遺言執行者への就任は手間が増えるだけでデメリットのほうが多いという事もあり得るわけです。こういった場合、遺言執行者への就任を拒否することができます。
遺言執行者というのは遺言者に一方的に指定されるものですから、これは当然といえば当然でしょう。
就任するのか、拒否するのかを決める期限などは特に設けられていませんが、就任したらすぐに遺言執行者に就任したことを他の相続人全員に通知する必要があります。
遺言執行者を拒否した場合には、全員に通知する義務はとくにありませんが、後々のトラブルを避けたい場合には、書面で他の相続人全員に通知しておくのがベターでしょう。
遺言執行者が就任を拒否した場合で、相続手続きをすすめることが困難な場合などには、相続人は必要な時に家庭裁判所に遺言執行者選任の申立をすることができます。
注意点
1.いったん就任してしまうと正当な事由(裁判所が判断する)がない限り辞任することはできなくなります。
2.他の相続人から遺言執行者に就任するのか否かの催告があった場合に無視すると、遺言執行者に就任したものとみなされてしまいます。(民法1008条)
そのため、遺言執行者に就任したくない場合には、積極的に就任しないことを通知するなどして相続人に証拠として示しておく必要があります。
(遺言執行者の解任及び辞任)
第千十九条 遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。
2 遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。
遺言執行者に就任した後で他の人に任せることはできるか
民法が改正されたたため、遺言作成された日付により扱いが異なります。
2019年7月1日以前に作成された遺言の場合
旧民法はやむを得ない事由(怪我や病気など)がなければ第三者に任せられないというルールでした。
とはいえ、遺言の執行は相続財産が多岐にわたり、相続人の数も多く大変なものとなれば相続人が一人で進めるのは難しいので、この場合、司法書士などに遺言執行の一部を個別に委任する方法がありました。
(遺言執行者の復任権)第千十六条 遺言執行者は、やむを得ない事由がなければ、第三者にその任務を行わせることができない。
個別委任についての参考資料:金融法務研究会報告書 銀行取引と相続・資産承継を巡る諸問題
2019年7月1日以降に作成された遺言書の場合
新民法は旧民法に比べ、全面的に遺言執行を専門家に依頼できるようになりました。
ただし、遺言執行者を頼んだ人が横領をするなどした場合、遺言執行を任せた本人にも責任がありますので、委任は慎重になるべきです。
(遺言執行者の復任権)第千十六条 遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
もちろん、当事務所で遺言執行業務をサポートする事も可能です。
(遺言執行者の復任権)
第千十六条 遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
2 前項本文の場合において、第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは、遺言執行者は、相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。
金融機関と遺言作成、遺言信託?
一部の金融機関が提供するサービスに、遺言信託というものがあります。
公正証書遺言を作成し、その遺言の正本を金融機関で保管、そして遺言執行者に金融機関が就任はするが、そのすべてを提携の弁護士・司法書士に有料で代わりに依頼するというものです。
これは上記条文を根拠につくられたスキームだと思われますが、お気づきのとおり、金融機関を相続手続きの窓口として関与させるメリットはほとんどありませんのでご注意ください。また、たいていの場合、途中解約する際には、高額な解約手数料が請求されることになります。
その他、民法改正後の遺言執行者の権限の明確化等について
遺言執行者は全面的に権限が明確化されましたが、旧法と改正後民法の特徴をまとめておきました。
旧民法 | 改正後の民法 | 適用時期 | |
第三者への権限の委任 | やむを得ない事由が必要 | 自己責任で可。ただし、別段の意思表示があるときは不可。 | 2019年7月1日以降に作成された遺言 |
任務の開始 | 就任承諾をしてから直ちに開始 | 同左 | ー |
任務の開始時の通知義務 | なし | あり | 2019年7月1日以降に就任した遺言執行者 |
権利義務 | 相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する | 同左 | ー |
遺贈の履行について | ー | 遺言執行者がいるときは、遺贈の履行は遺言執行者のみが行う事ができる | 2019年7月1日以降に就任した遺言執行者 |
特定財産の対抗要件具備 (相続させる遺言) |
不可 | 可 ※ | 2019年7月1日以降に作成された遺言 |
※新民法が適用される場合には、遺言執行者が相続人のかわりに相続登記を行うことができるということになります。
民法改正後、一部事業者が遺言執行者として就任し、他士業の独占業務(訴訟、登記、社会保険や年金手続)を潜脱行為として行っている事例が散見されます。
こういった事業者は専門家としての倫理観を欠くことが明らかですので、遺言作成時の専門家選択にはご注意ください。
遺言執行者がしなければならないこと
① 就職したら、相続人全員に就職したことの通知。その後は行動の都度相続人全員へ報告しなければならない
➁ 相続財産目録を作成
③ 直ちに遺言に書いてある内容の実現に動かなければならない
④ 財産を大切に扱わなければならず、重い責任がある(善管注意義務)
遺言作成時に専門家を遺言執行者に選任するという内容にしておくことも可能です。
(遺言執行者の指定)
第千六条 遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
2 遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、これを相続人に通知しなければならない。
3 遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。
(遺言執行者の任務の開始)
第千七条 遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
2 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。
(相続財産の目録の作成)
第千十一条 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
2 遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。
行方の知れない相続人もいるのですが…
そのための遺言執行者の指定です。行方の知れない相続人がいる場合でも、遺言執行者が相続人の代表として遺言内容実現にむけて行動することが可能です。
依頼はこちらから
-
遺言書作成サポートのご依頼
訪問見積りを受付中! 気軽にお問合せください ※対応エリア内 ☏050-5806-6934 電話でお問合せ ✅電話相談初回無料 ✅ご自宅で見積りも可能 & ...
続きを見る