法律施行後の適用時期やその変更点について、毎回調べるのが大変なので、記事にしてまとめてみました。
特定財産承継遺言・遺贈について
旧制度と改正法の違いを分かりやすくまとめると、万能だった遺言書が、万能ではなくなり、その分、執行を行いやすくするために、遺言執行者の権限が拡大しました。
特定財産承継遺言
特定財産承継遺言とは、相続させる遺言につけられた名称であり、遺産分割方法の指定です。ここは基本知識なので、説明を省略します。
重要なのは、令和元年7月1日以降に発生した相続 (令和元年6月30日以前に作成した遺言書でも、相続開始が令和元年7月1日以降であれば適用)については、法定相続分を超える部分については、対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができないものと変更された点ですね。
旧法では、特定財産承継遺言があれば、不動産登記をしていなくても、第三者(債権者や相続人から不動産を買った人)に対抗することができるものとされていましたが、改正法では、悪意のある相続人が勝手に不動産を処分してしまって、取り戻せないという状況もあり得るので、遺言書の内容を速やかに執行する必要があります。
遺言書を見つけたら、速やかに相続登記やその他承継の手続きを行いましょう。早急に手続きをしないと、遺言書のとおりに手続きを行えず、財産を失う可能性があるということです。
(共同相続における権利の承継の対抗要件)
第八百九十九条の二 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
2 前項の権利が債権である場合において、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。
相続させる遺言と遺贈の登記申請人
取り扱いの違いですが、具体的には、次のように変更になりました。
令和元年6月30日以前が遺言作成日
・特定財産承継遺言
相続人の単独申請
・遺贈を内容とする遺言
受遺者が相続人の場合は、受遺者の単独申請
受遺者が相続人以外の場合は、遺言執行者又は相続人全員と、受遺者の共同申請
ポイント
遺贈については、令和5年4月1日より前に開始した相続により遺贈を受けた相続人(受遺者)についても同様に、単独申請が可能になりました。
令和元年7月1日以降が遺言作成日
・特定財産承継遺言
相続人の単独申請 又は 遺言執行者の単独申請
・遺贈を内容とする遺言
受遺者が相続人の場合は、受遺者の単独申請
受遺者が相続人以外の場合は、遺言執行者がいる場合は遺言執行者が、遺言執行者がいない場合は相続人全員と、受遺者の共同申請
ポイント
遺言執行者が指定されている場合は、相続人全員を義務者とすることはできなくなりました。また、特定財産承継遺言であれば、遺言執行者がその登記手続を行うことができるようになりました。
(共同申請)
第六十条 権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない。
(判決による登記等)
第六十三条 省略
2 省略
3 遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)による所有権の移転の登記は、第六十条の規定にかかわらず、登記権利者が単独で申請することができる。
(特定財産に関する遺言の執行)
第千十四条 前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。
2 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。
3 前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。
4 前二項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
(遺言執行者の権利義務)
第千十二条 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
3 第六百四十四条、第六百四十五条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。
参考
昭和47.4.17民甲1442号民事局長通達、最判平3.4.19民集45巻4号477頁、最判平7.1.24判時1523号81頁
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