遺言を作成した後で、内容を変更したくなったり、撤回したくなったりすることは当然ありえます。
そんなときにどうやって遺言の内容を撤回すればいいのかについて記載しておきたいと思います。
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遺言を撤回することはできるか
「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。(民法1022条)」とされていますから、撤回は生前いつでも行うことが可能です。
「遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない。(民法1026条)」とされている通りで、むしろ撤回できなくする事自体が出来ないという扱いとされています。
遺言の撤回はどうやるのか
遺言の撤回は遺言の方式に従わなければならないとされていますので、別の遺言を新たに作ってその遺言の中で「いついつ作った遺言書の内容は全文撤回します。」など記載して行えばよいということになりますね。
撤回について記載した遺言に新しい法定遺言事項を記載することは一向に構いません。
遺言の方式については、民法に定められています。自筆証書遺言は民法968条に記載がありますが、ここでは公正証書遺言の方式である民法969条を引用しておきしょう。
公正証書遺言の内容を変更する際には、再度公証役場で同じような手続きを行うことになります。
(公正証書遺言)第九百六十九条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
撤回されたものとみなされる法定撤回
遺言の方式によらず、一定の事実が発生した場合にも遺言を撤回したこととする旨のルールがあります。
一定の事実とは次のようなものです。
・前の遺言が後の遺言と抵触する場合
・遺言者が遺言の内容と抵触する、目的物の処分、破棄を行った場合
・遺言者が故意に遺言書を破棄した場合
抵触した場合の遺言の効果
前の遺言に「A銀行の預貯金と、B不動産を長男にあげる」と書いており、後の遺言には「B不動産は二男にあげる」と書いてある場合、A銀行預貯金は長男に、B不動産は二男にあげるという効力になります。
抵触しない限りで前の遺言も有効という事です。基本ルールとして、先に書いた遺言よりも後に書いた遺言のほうが優先されます。遺言者の最後の意思を尊重するというのが遺言のそもそもの目的だからです。
遺言の内容に「A不動産を長男に相続させる」と記載しているにも関わらず生前にA不動産を売却したり譲渡してしまったような場合、その遺言は撤回されたものとみなされます。
公正証書遺言は公証役場に遺言の原本が保存されているので、遺言書の破棄はその他の遺言書についてのものです。
注意点
前に書いておいた遺言の内容を遺言者自身がうっかり忘れていた場合にも、上の事実があれば遺言は撤回されたものとみなされてしまいますので注意が必要です。
遺言者以外の者が遺言書を故意に破棄しても遺言は撤回されたものとはみなされません。これは考えるまでもないですね。
遺言の撤回の撤回
1回目の遺言書の内容を2回目の遺言書で撤回することとした場合に、3回目の遺言書で2回目の遺言書を撤回したとしても、1回目の遺言の効力は原則として復活しません。
ただし、1回目の遺言書の内容を復活される旨の記載があるようなときには復活します。
復活するとはいえ、こういった遺言はトラブルのもとになりますから、1,2回目の遺言書を撤回し、あらたに正式な遺言書を作成したほうが無難でしょう。
根拠条文
最後に、興味はないかと思いますが、条文を載せておきます。
第五節 遺言の撤回及び取消し
(遺言の撤回)
第千二十二条 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
(前の遺言と後の遺言との抵触等)
第千二十三条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
(遺言書又は遺贈の目的物の破棄)
第千二十四条 遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。
(撤回された遺言の効力)
第千二十五条 前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が錯誤、詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。
(遺言の撤回権の放棄の禁止)
第千二十六条 遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない。
(負担付遺贈に係る遺言の取消し)第千二十七条 負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。この場合において、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる。