成年後見制度とは?後見・保佐・補助の違いについて解説

司法書士 廣澤真太郎
こんにちは。司法書士・行政書士の廣澤です。

この記事では、成年後見制度について、民法の条文とともに解説していきます。ご自由にご覧ください。(令和4年4月時点)

 

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成年後見制度とは?

定義については法務省の記事が簡潔でわかりやすいので引用しておきます。

 

認知症,知的障害,精神障害などの理由で判断能力の不十分な方々は,不動産や預貯金などの財産を管理したり,身のまわりの世話のために介護などのサービスや施設への入所に関する契約を結んだり,遺産分割の協議をしたりする必要があっても,自分でこれらのことをするのが難しい場合があります。

また,自分に不利益な契約であってもよく判断ができずに契約を結んでしまい,悪質商法の被害にあうおそれもあります。このような判断能力の不十分な方々を保護し,支援するのが成年後見制度です。

 

成年後見制度には,大きく分けると,法定後見制度と任意後見制度の2つの制度があります。

法定後見制度 任意後見制度
制度の概要 本人の判断能力が不十分になった後に,家庭裁判所によって選任された成年後見人等が本人を法律的に支援する制度 本人が十分な判断能力を有する時に,あらかじめ,任意後見人となる方や将来その方に委任する事務(本人の生活,療養看護及び財産管理に関する事務)の内容を定めておき,本人の判断能力が不十分になった後に,任意後見人がこれらの事務を本人に代わって行う制度
申立手続 家庭裁判所に後見等の開始の申立てを行う必要 1.本人と任意後見人となる方との間で,本人の生活,療養看護及び財産管理に関する事務について任意後見人に代理権を与える内容の契約(任意後見契約)を締結→この契約は,公証人が作成する公正証書により締結することが必要
2.本人の判断能力が不十分になった後に,家庭裁判所に対し,任意後見監督人の選任の申立て
申立てをすることができる人 本人,配偶者,四親等内の親族,検察官,市町村長など 本人,配偶者,四親等内の親族,任意後見人となる方
成年後見人等,任意後見人の権限 制度に応じて,一定の範囲内で代理したり本人が締結した契約を取り消すことができる。 任意後見契約で定めた範囲内で代理することができるが,本人が締結した契約を取り消すことはできない。
後見監督人等(注2)の選任 必要に応じて家庭裁判所の判断で選任 全件で選任

引用:法務省

 

裁判所がビデオを作成して公開していますから、こちらもわかりやすいと思います。

成年後見制度に関する動画:家庭裁判所

 

成年後見制度には,大きく分けると,法定後見制度と任意後見制度の2つの制度があり、大きな違いは、法定後見制度には包括的な代理権・同意権・取消権があることです。

任意後見制度は本人自らが健康なうちに事前にどのような事務を誰に任せるかを決めておき、その人に後見事務を任せる(監督人は選任されます。)制度ですから、可能な限り本人のもともとの意思を尊重するというのが趣旨ですね。生前対策として、遺言書や死後事務委任契約書と一緒に「任意後見契約書」作成しておくという方が多いでしょう。

 

同意権とは?

本人が行った行為については、同意権を持つ者が同意していない場合には、取り消すことができるとされています。

つまり、「同意権がある」とは、本人の行為に同意していないときは、その行為をなかった事にできるということですね。

(成年被後見人の法律行為)

第九条 成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。

 

代理権とは?

代理権がある者(代理人)が本人の代わりに法律行為(契約など)を行った場合、その法律効果が本人に帰属します。委任状を書いたことはありませんか?あれは民法の代理行為を根拠にしています。

(代理行為の要件及び効果)

第九十九条 代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。

2 前項の規定は、第三者が代理人に対してした意思表示について準用する。

 

 

成年後見制度の類型

成年後見制度には、利用者本人の判断能力の程度に応じて、3つの類型があり、具体的には、家庭裁判所に提出した診断書又は鑑定により判断されます。

※未成年後見人についての説明は割愛します。

 

1.後見 

精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある人を保護する

2.保佐

精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である人を保護する

3.補助

精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である人を保護する

 

(後見開始の審判)

第七条 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。

(保佐開始の審判)

第十一条 精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、保佐開始の審判をすることができる。ただし、第七条に規定する原因がある者については、この限りでない。

(補助開始の審判)

第十五条 精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官の請求により、補助開始の審判をすることができる。ただし、第七条又は第十一条本文に規定する原因がある者については、この限りでない。

2 本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、本人の同意がなければならない。

3 補助開始の審判は、第十七条第一項の審判又は第八百七十六条の九第一項の審判とともにしなければならない。

 

 

 

後見人

本人が後見相当と判断された場合に就任します。こちらは一般的に理解されているとおり、包括的代理権・同意見・取消権などの権限を持ち、また、本人の身上監護及び財産管理などの後見事務を行います。

 

後見事務とは?

後見人に就任したものは、本人を保護するため、次のような事務を行います。
・財産管理に関する事務
財産目録・収支予定表を作成して定期的に報告するなど
・身上監護に関する事務
本人の生活向上のための各種サービスの契約等を検討、実施する
・必要に応じて財産の処分
家庭裁判所の許可取得後に、不動産を売却するなど
・収入の確保、支出の削減
施設の転居、本人の相続手続、生活保護申請、債権回収など
・その他
本人が騙された場合等の取消権行使、訴訟、税務申告、定期的な小遣いの送金、債権回収など

(財産の調査及び目録の作成)

第八百五十三条 後見人は、遅滞なく被後見人の財産の調査に着手し、一箇月以内に、その調査を終わり、かつ、その目録を作成しなければならない。ただし、この期間は、家庭裁判所において伸長することができる。

2 財産の調査及びその目録の作成は、後見監督人があるときは、その立会いをもってしなければ、その効力を生じない。

(財産の管理及び代表)

第八百五十九条 後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。

2 第八百二十四条ただし書の規定は、前項の場合について準用する。

(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)

第八百五十九条の三 成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。

(成年後見人による郵便物等の管理)

第八百六十条の二 家庭裁判所は、成年後見人がその事務を行うに当たって必要があると認めるときは、成年後見人の請求により、信書の送達の事業を行う者に対し、期間を定めて、成年被後見人に宛てた郵便物又は民間事業者による信書の送達に関する法律(平成十四年法律第九十九号)第二条第三項に規定する信書便物(次条において「郵便物等」という。)を成年後見人に配達すべき旨を嘱託することができる。

2 前項に規定する嘱託の期間は、六箇月を超えることができない。

3 家庭裁判所は、第一項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、成年被後見人、成年後見人若しくは成年後見監督人の請求により又は職権で、同項に規定する嘱託を取り消し、又は変更することができる。ただし、その変更の審判においては、同項の規定による審判において定められた期間を伸長することができない。

4 成年後見人の任務が終了したときは、家庭裁判所は、第一項に規定する嘱託を取り消さなければならない。

第八百六十条の三 成年後見人は、成年被後見人に宛てた郵便物等を受け取ったときは、これを開いて見ることができる。

2 成年後見人は、その受け取った前項の郵便物等で成年後見人の事務に関しないものは、速やかに成年被後見人に交付しなければならない。

3 成年被後見人は、成年後見人に対し、成年後見人が受け取った第一項の郵便物等(前項の規定により成年被後見人に交付されたものを除く。)の閲覧を求めることができる。

(支出金額の予定及び後見の事務の費用)

第八百六十一条 後見人は、その就職の初めにおいて、被後見人の生活、教育又は療養看護及び財産の管理のために毎年支出すべき金額を予定しなければならない。

2 後見人が後見の事務を行うために必要な費用は、被後見人の財産の中から支弁する。

 

保佐人

本人が保佐相当と判断された場合に就任します。民法第13条に規定する行為についての同意見・取消権を持ちます(別途申立てする事で、権限の範囲を拡張することもできる)。代理権については当然に付与されておらず、本人の同意を得て代理権付与の審判を申立てする必要がありあす。

 

財産管理について代理権の付与を行った際には、その事務財産目録・年間収支予定表を作成して定期報告)を行うこととなります。

 

(保佐人の同意を要する行為等)

第十三条 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。

一 元本を領収し、又は利用すること。

二 借財又は保証をすること。

三 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。

四 訴訟行為をすること。

五 贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法(平成十五年法律第百三十八号)第二条第一項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。

六 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。

七 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。

八 新築、改築、増築又は大修繕をすること。

九 第六百二条に定める期間を超える賃貸借をすること。

十 前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。

2 家庭裁判所は、第十一条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求により、被保佐人が前項各号に掲げる行為以外の行為をする場合であってもその保佐人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。

3 保佐人の同意を得なければならない行為について、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができる。

4 保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。

(保佐人に代理権を付与する旨の審判)

第八百七十六条の四 家庭裁判所は、第十一条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求によって、被保佐人のために特定の法律行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。

2 本人以外の者の請求によって前項の審判をするには、本人の同意がなければならない。

3 家庭裁判所は、第一項に規定する者の請求によって、同項の審判の全部又は一部を取り消すことができる。

 

 

補助人

後見・保佐とは少し異なる類型です。裁判所では鑑定が行われることはなく、あくまで本人の同意がある場合にのみ、補助人として就任した者に対して、民法第13条の範囲で選択的に同意見・取消権が付与されます。また、保佐人と同様に代理権を付与するためには別途審判を経なければなりません。

 

保佐人同様、財産管理について代理権の付与を行った際には、その事務(財産目録・年間収支予定表を作成して定期報告)を行うこととなります。

 

 

 

成年後見制度はいつ開始する?

成年後見(保佐・補助)は、家庭裁判所に申立権者から申立てを行い、後見(保佐・補助)開始の審判によって開始します。

 

申立権者

・本人

・配偶者

・四親等内の親族

・未成年後見人

・未成年後見監督人

・保佐人

・保佐監督人

・補助人

・補助監督人又は検察官

 

流れ

1.必要書類を集めて、管轄の家庭裁判所に申し立てします。

2.家庭裁判所で候補者と本人の面接が行われます。

3.必要に応じて本人の精神鑑定が行われます。

4.必要に応じて電話などで推定相続人である親族の意向照会が行われます。

5.審判書が送付され、不服申立てがなければ審判が確定します。

6.後見登記が職権でなされ、後見が開始します。

申立てから約2~3か月の期間を要します。申立書の作成、詳しい制度説明については司法書士が相場10万円、弁護士が相場20万円ほどで対応しています。必要書類はその説明の際、案内してもらうのが良いでしょう。

 

誰が後見人(保佐人・補助人)になるのか?

通常は、司法書士、弁護士、社会福祉士などの専門家が就任します。しかし、後見支援信託を利用できる場合や、候補者を親族とした場合に監督人とともに一般の方が就任できる場合もあります。

背景に親族トラブルなどがある場合には、弁護士が選任されることが多いでしょう。

 

候補者を親族として申立てした場合でも、専門家が就任するのですか?

過去、親族後見人による業務上横領(親族相盗例に該当せず、懲役10年以下の重犯罪です。)が多発したため、現在、統計上9割は専門家が就任する取扱いがなされています。

つまり、親族の方が就任することができるのは、信託銀行が預金を管理してくれる場合や、候補者に相応の能力があると判断され、監督人がいれば安全であると家庭裁判所が判断した場合に限られてくるという事です。

しかし、親族後見人が好ましいと裁判所としては考えているはずなので、今後の動向に注目しましょう。

 

 

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