遺言書はどんなときに無効になるのか?

司法書士 廣澤真太郎
こんにちは。司法書士・行政書士の廣澤です。

 

この記事では、なぜ、弁護士・司法書士等の専門家が遺言書の作成を推奨しつつも、必ずその内容については一度誰かに見てもらうようにとアドバイスしているのかについて、

その理由を詳しく記載してみたいと思います。

 

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なぜ、遺言書起案については司法書士に任せるべきなのか?

無効になるのを防ぐため

 

遺言書ってネットで見れば簡単につくれそうだけど?

 

おっしゃるとおり、内容がシンプルなものであれば、簡単に作ることができます。

しかし、法律上、遺言書は要式行為とされていますので、その作成には慎重になる必要がありますので、ご注意ください。

 

要式行為とは、法令に定める一定の形式に従って行為を行う必要があるものをいい、要式違反の行為は、その法的効果について不成立または無効となります。

 

 

 

具体的には、一定の事項を記載した書面によるとか、所定の手続きによって届出をするなどで、遺言書・婚姻届・会社の定款作成などが該当します。

 

要式性が要求される理由は、主に、一定の重大な法的効果が発生する場合や、行為者の意思確認を慎重にすべき場合などです。

 

つまり、簡単に作れはするものの、要式をまちがえれば無効になり、作成した意味がなくなるという事ですね。

 

 

後々予想されるトラブルを防ぐため

 

ネット検索してみると、一般的に、遺言書を作成することで相続トラブルを防止することができる(?)というのが共通理解になっているようです。

 

しかし、実際はご自身で遺言書を作成する場合、むしろ遺言書がもとになってトラブルになるということが多くあります。(気になる方は遺言無効確認訴訟の判例などを裁判所HPでご覧になってみてください。)

 

 

 

遺言書というのは亡くなった方が一方的に重要な法律効果を発生させるという、いわば相続人にとって不公平な行為ですから、トラブルを防止するという事だけを考えるなら、生前に推定相続人全員で条件付き(亡くなった時に効力発生する旨)の遺産分割協議書を作成しておき印鑑証明書も保管しておく方が良いのではないでしょうか。

 

遺言書で相続争いを防ぐには、あくまで相続トラブルを防止する観点から、連絡の取りづらい相続人などがいる場合に、遺言書をその予防手段として利用して、状況に応じて後々のトラブルを予測しながら内容精査を行ったうえ作成したという場合に限られます。

 

つまり、遺言書が相続トラブルを防ぐために効力を発揮するのは、専門家に相談しながら作った場合限定です。自筆で遺言書作成をしたから安心という事にはならないので、ここは注意が必要ですね。

 

 

相続人に負担をかけないため

 

自筆証書で遺言を作成した場合、家庭裁判所での遺言検認の手続きが必要となります。

 

また、遺言が有効か無効な判断を専門家に頼んで行ってもらうことに加え、相続人が疎遠で協力してもらいづらいような場合には、遺言書を使用して手続きを行っていく際に、さらに家庭裁判所に遺言執行者選任申立を行わなければならないという事も考えられます。

 

 

 

相続人の立場で考えてみると、突然、戸籍収集や相続手続の義務が発生し、普段行くことのない家庭裁判所に呼び出されることになり、さらにその遺言書が手続きに使えない事があるというのは、費用面でも手間暇を考えた場合でも多くのデメリットがあります。

 

 

公正証書で作成する場合でも、一度、司法書士へご相談ください

 

公正役場に直接行けば、わざわざ弁護士や司法書士に起案を頼まなくてもいいんじゃない?

 

このようにお考えの方もいると思いますし、シンプルなもの(例えば、全財産を相続人のOOに相続させる。という内容)であればそれでもかまわないと思います。

 

しかし、公証人はあくまでご希望の内容の遺言書を公証するだけであり、内容の整序はしてくれても、具体的な提案まではしてくれないという事に注意が必要です。

実際、不動産に漏れがあったり、遺言書執行者の定めがなかったり、予備的記載がないなどで、実際の手続きで使えなかったというケースもあります。公証人にそこまでの提案をしてあげる義務はないからです。

 

 

 

それでも費用を抑えて自分で遺言書を作成したい

 

このようなデメリットを知ったうえでも、ご自身で作成したいとお考えの方もいると思いますから、遺言書が無効になりやすい典型例を記載しておきたいと思います。

作成する前に次の条文を確認しましょう。

 

(普通の方式による遺言の種類)
第九百六十七条 遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。
(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない

 

 

非常にシンプルなのですが、逆に言えば、この方法をしっかり守っていないと無効と判断され、手続き利用できないという事が起こりえます。

1.全文自署 (968条2項の方法による場合は一部緩和あり)

2.日付の記入

3.氏名の記入

4.印を押さなければならない

5.訂正は968条3項の方法によらないといけない

 

 

 

 

 

遺言書はどんなときに無効になるのか?典型例まとめ

 

1.全文自署のミス

 

筆跡によって本人が書いたかどうかを確認するためというのが要式の主な理由です。

もちろん、録音・映像による遺言は現状無効とされています。

【無効とした判例】

✅ 受遺者が書面を自筆で作成し、遺言者が署名押印した遺言 (名古屋高裁金沢支部昭和30年2月28日)

✅ 他者の添え手を受けて作成された自筆証書遺言 (大阪高裁昭和589年3月16日)

その他、筆跡鑑定やその内容により、他人が作成したものではないか?という疑惑を拭いきれないという理由から無効とされた事例が多くあります。

 

 

2.日付の記入ミス

 

日付は遺言書の要式の中でもとくに厳格な取り扱いとされていますので、日付の記載にミスがあることで起こる相続トラブルは非常に多いとされています。

15歳に達していたか、精神状態はどうだったか、遺言作成の前後関係を確認するなど、日付次第で大きく法律効果が変わるためですね。

【無効とした判例】

✅ 「〇年〇月吉日」と記載した遺言 (高松高裁昭和40年6月10日)

✅ 「年月日」のうち「日」の記載がない遺言 (大審院大正7年4月18日・最高裁昭和52年11月29日)
※その他の記載から日付まで特定できれば有効だとする学説の有力説あり

✅ 日付が読みにくく、日付の特定ができない遺言 (東京地裁平成26年10月29日)

✅ 「正月」と記載した遺言 (東京地裁平成30年1月17日)

 

 

3.氏名のミス

 

氏名のない遺言書は誰が書いたものかがわからないので、無効とされています。

 

 

4.押印のミス

 

実務では、「今やどこでも買える認印を押してもらう事になんの意味があるのか?」と思う機会が少なくないですが、あくまで社会通念上、日本では重要な書類には押印をおこなうという慣行・方式が定着しており、サインやその他の方法では代替する事はできないというのが裁判所の判断のようです。

【無効とした判例】

✅ 押印がない遺言 (東京地裁平成12年9月19日)

✅ 押印がなく、サインのある遺言 (東京地裁平成25年10月24日)

✅ 押印がなく、花押がある遺言 (最高裁平成28年6月3日)

※最近の判例は無効が多いようですが、日付や氏名とは違い、押印のない遺言書を有効とした判例もあります。(熊本地裁八代支部昭和34年12月8日・神戸地裁昭和47年9月4日)

 

 

5.意思能力の問題

 

作成当時、遺言を残せるだけの認知能力を有していなかったとして、無効とされた判例はたくさんあります。

つまり、自分ひとりで作成するのではなく、他人を介して遺言を作成しておくというのは、後のトラブルを防止するうえでは最も重要だと思います。

【遺言作成時の遺言能力の有無が争われ、無効と判断された判例の一部】

✅ 心神喪失の状態であったと認められたもの (高松高裁平成2年12月26日)

✅ 失語症が悪化し、医師からコミュニケーション能力を伴う言語機能の全廃と診断されていた (東京地裁平成5年2月25日)

✅ 加齢が原因の認知症が進行しており、回復しているとは判断されなかったもの (東京地裁平成10年6月12日)

✅ 脳血管性の認知症に相当する精神状態にあったと判断されたもの (東京地裁平成16年7月7日)

※無効とされた判例のほんの一部です。総合的に遺言者の当時の生活状況も考慮したうえで判示されるようです。

 

裁判例によると、次の流れで遺言能力の有無について判断していくようです。

1.精神疾患の程度の特定 (医師の診断、意見、認知症のスケール、鑑定)

2.常時、事理弁識能力を喪失させる疾患・程度か (アルツハイマー型認知症など・重度)

3.2.の場合、「遺言時に遺言能力なしと推認する」 … 覆す証明ができなければ遺言能力なしとして無効

4.2.以外の場合、「遺言時に遺言能力なしとは推認されない」 … 覆す証明ができなければ、遺言能力ありとして有効

 

 

 

6.単純な記載ミス

一番多いミスだと思います。

財産を特定してあるのにその記載が特定するに足りないケース、不動産漏れ、名前間違い、書き方間違いなど、いろいろなパターンがあります。

 

 

 

遺言に関する統計

 

遺言書を残される方は、年々増え続けていることが次の統計からわかりますね

令和初期の現在では、法務局に自筆証書遺言を預けておけば「要式不備の防止ができて遺言検認不要となり、費用も抑えられる(?)」という宣伝がいたるところでなされていますが、

法務局の遺言書保管制度は新たな制度ですから、実際のところ使いづらいうえ、相続人に通知が届かない可能性もあり、遺言検索も手間暇がかかるなど、数々の問題があるので現状推奨できません。遺言作成する場合は必ず司法書士等の専門家に一度ご相談ください。

 

(遺言関係暦年統計表 表1-2)

公正証書遺言 遺言の検認数(自筆証書遺言)
昭和41年 7,767 1,049
平成元年 40,935 5,262
平成15年 64,376 11,364
令和元年 110,471 17,487

 

 

 

 

まとめ

 

いかがでしたでしょうか。

簡単に作れそうに見えるものほど、怖いものはないというのは、ニュアンスとしてお伝えできたのではないでしょうか。

とくに、不動産が絡むものについては、遺言をご自身で作成する前に、不動産の専門家である司法書士に必ず一度ご相談ください。

以上、遺言作成についてお悩みの方の参考になれば幸いです。

 

 

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書籍の引用 : 判例分析 遺言の有効・無効の判断

 

 

 

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