債権の差押えによる債権回収について

司法書士 廣澤真太郎
こんにちは。司法書士の廣澤です。

例えば、お金を貸していて、相手が支払いを怠っている場合に、相手の預貯金を差押えたいというケース等の、債権執行について記事にしてみました。

債権執行について

債権執行の根拠法は、民事執行法です。

(債権執行の開始)
第百四十三条 金銭の支払又は船舶若しくは動産の引渡しを目的とする債権(動産執行の目的となる有価証券が発行されている債権を除く。以下この節において「債権」という。)に対する強制執行(第百六十七条の二第二項に規定する少額訴訟債権執行を除く。以下この節において「債権執行」という。)は、執行裁判所の差押命令により開始する。

 

債権執行とは、支払いを怠っている債務者の預金、給料、未収金といった第三者に対する債権を差押えて換価することで、債権回収するための手続きです。

執行方法などもすべて、法律で定められています。

 

準備物

債権執行をするには、先立って以下の書類を準備する必要があります。

 

債務名義の正本

債務名義については民事執行法第22条に記載があります。債務名義の謄本は執行に使用できませんので、注意が必要です。

(債務名義)
第二十二条 強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
一 確定判決
二 仮執行の宣言を付した判決
三 抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る。)
三の二 仮執行の宣言を付した損害賠償命令
三の三 仮執行の宣言を付した届出債権支払命令
四 仮執行の宣言を付した支払督促
四の二 訴訟費用、和解の費用若しくは非訟事件(他の法令の規定により非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号)の規定を準用することとされる事件を含む。)、家事事件若しくは国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(平成二十五年法律第四十八号)第二十九条に規定する子の返還に関する事件の手続の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第四十二条第四項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあつては、確定したものに限る。)
五 金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)
六 確定した執行判決のある外国裁判所の判決(家事事件における裁判を含む。第二十四条において同じ。)
六の二 確定した執行決定のある仲裁判断
七 確定判決と同一の効力を有するもの(第三号に掲げる裁判を除く。)

 

「継続的な給付契約や、その他重要な契約書は、公正証書で作ったほうがいい」というアドバイスをどこかで聞いたことがあるかと思いますが、5項に記載があるとおり、金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする、執行認諾付の公正証書は、債務名義になることがその理由です。

つまり、公正証書がなければ先に訴訟をしたり、支払督促を行ったりしなければならず、執行までにかなりの手間があるということですね。

 

執行文 ※必要な場合

執行文の種類 

① 単純執行文

② 事実到来(条件成就)執行文

③ 承継執行文

 

例えば、離婚前に作成した公正証書で、離婚後の養育費の継続的給付を目的とした公正証書であれば、離婚の事実到来執行文と単純執行文が必要になります。

 

執行文が必要なもの 

判決正本、手形判決正本、和解調書正本、民事調停調書正本、公正証書正本、訴訟費用額確定処分正本、家事調停調書正本(慰謝料や解決金)等

執行文が不要なもの

家事調停調書正本(養育費や財産分与等)、仮執行宣言付支払督促正本、仮執行宣言付少額訴訟判決正本

 

執行文の送達証明書 ※必要な場合

執行文が事実到来執行文の付与又は承継執行文の付与の場合には、これらの到来や承継があったことの証明文書についても送達し、送達証明書の交付を受ける必要があります。

 

債務名義の送達証明書

債務名義が相手に送達されていなければ、執行はできないことになっていますので、執行に先立って送達してもらう必要があります。

 

債務名義を作成したところで、発行してもらえますが、送達したタイミングで、財産隠しされる恐れがありますので、できれば債務名義を取得したタイミングで交付送達&執行文付与をしておきたいところですね。

 

(債務名義等の送達)
第二十九条 強制執行は、債務名義又は確定により債務名義となるべき裁判の正本又は謄本が、あらかじめ、又は同時に、債務者に送達されたときに限り、開始することができる。第二十七条の規定により執行文が付与された場合においては、執行文及び同条の規定により債権者が提出した文書の謄本も、あらかじめ、又は同時に、送達されなければならない。

 

資格証明書

当事者が会社の場合は、申立て日から起算して1か月以内(債権者は2か月以内)の履歴事項全部証明書等を準備します。

 

住所、氏名変更を証する書類

債務名義の記載から住所氏名に変更がある場合は、住民票など証明書類が必要です。

 

 

手続きの流れ

手続きの流れについては、裁判所の以下のチャートが一番わかり易いです。

裁判所:債権差押命令手続の流れ

 

(例)銀行の■支店の預金を差押えしたい場合

① ■支店に債権なし→ 取り下げ

② ■支店に債権あり→ ■支店が供託→ 裁判所で配当手続等

③ ■支店に債権あり→ ■支店が供託しない→ 直接取立て→ 取立届提出

 

取立てについて

第三債務者が供託をせず、取立てによる場合は、債務者に対する送達日から1週間を過ぎた日から、第三債務者に請求ができるようになります。

必要書類は、銀行などの第三債務者に確認が必要です。

 

差押え禁止債権

例えば、債務者の会社を第三債務者とする場合、その給料全額を差し押さえることはできません。

扶養義務等であれば2分の1が、その他は4分の1が限度となります。

 

(扶養義務等に係る定期金債権を請求する場合の特例)
第百五十一条の二 債権者が次に掲げる義務に係る確定期限の定めのある定期金債権を有する場合において、その一部に不履行があるときは、第三十条第一項の規定にかかわらず、当該定期金債権のうち確定期限が到来していないものについても、債権執行を開始することができる。
一 民法第七百五十二条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
二 民法第七百六十条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
三 民法第七百六十六条(同法第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
四 民法第八百七十七条から第八百八十条までの規定による扶養の義務
2 前項の規定により開始する債権執行においては、各定期金債権について、その確定期限の到来後に弁済期が到来する給料その他継続的給付に係る債権のみを差し押さえることができる。

(差押禁止債権)
第百五十二条 次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の四分の三に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。
一 債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権
二 給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権
2 退職手当及びその性質を有する給与に係る債権については、その給付の四分の三に相当する部分は、差し押さえてはならない。
3 債権者が前条第一項各号に掲げる義務に係る金銭債権(金銭の支払を目的とする債権をいう。以下同じ。)を請求する場合における前二項の規定の適用については、前二項中「四分の三」とあるのは、「二分の一」とする。

 

手続きの終了

取下書を提出した場合や、取立後に取立届を提出したタイミングで、終了します。

完全な弁済を得られなかった場合は、債務名義の還付を求めることができます。

 

 

財産の調査

相手の居場所がわからない場合は、司法書士や弁護士に依頼のうえ、住民票を職務上請求してもらう方法があります。

財産、勤務先がわからない場合には、次のような調査方法があります。預金については、支店まで特定して差押えしなければなりません。

 

1.インターネット上のサービスを利用して探す

例えば、しらみつぶしにはなりますが、名前と所在がある程度わかっていれば、登記簿図書館などのサービスを利用して、所有不動産を発見できる可能性があります。

 

2.あてずっぽう差し押さえ

この方法もしらみつぶしですが、どの銀行に口座を持っているかわかっているが、支店がわからないというケースで、あてずっぽうでいくつかの銀行支店を差し押さえるという方法が考えられます。発見できれば成功です。再度、債権額全額の執行申立てをすることになるでしょう。

 

3.調査会社に依頼する

弁護士、司法書士でも、住民票に反映されていない相手の居所を探すことはできませんので、探偵に依頼するという方法が考えられます。

 

4.財産開示手続き

裁判所が債務者を財産開示期日に出頭させ、債務者の財産状況を陳述させる手続きです。

出頭しない場合、相手に刑事罰が課される規定がありますから、出頭してもらえる可能性が高いです。

 

5.第三者からの情報取得手続き

債務者の財産に関する情報を、債務者以外の第三者から提供してもらう手続きです。

一定の制限がある制度で、財産開示の前置きが必要な場合もあります。

 

取得できる情報

① 不動産に関する情報

② 勤務先に関する情報 (扶養義務等の請求権や、人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権を有する,情報開示の必要性が高い債権者などに限定)

③ 預貯金に関する情報

④ 有価証券等に関する情報

それぞれ、法務局・市区町村や年金機構・銀行や証券会社等が対象になります。

第三者を巻き込んでプライバシー情報を開示する制度なので、利用には以下の要件があります。

 

制度利用の要件

・執行力のある金銭債権の債務名義正本を有しており、執行開始要件を備えていること

・過去6か月以内に強制執行の手続をしたが、完全な弁済を得られなかったこと 又は 現在判明している債務者の財産からは完全な弁済を得られないことを疎明すること

・上記①②に関する情報取得手続きについては、申立日より前3年以内に財産開示手続きを行っていること

・破産、民事再生等で強制執行ができない場合ではないこと

 

手続きのサポート

・催告書等の通知 報酬2万円~ +実費

・財産開示手続き 報酬3万円~ +実費

・第三者からの情報取得手続 報酬3万円~ +実費

・債権執行申立て 報酬3万円~ +実費

・送達証明書、執行文付与 報酬2万円~ +実費

 

 

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