
遺言に定めることの多い遺言執行者とはどのような地位なのかを、この記事では解説しています。
目次
遺言執行者とは
遺言書で指定された、遺言内容を実現する人のことです。
例えば「不動産Aを売却し、残金を相続人に3分の1ずつ相続させる」という遺言書が残されていたとします。
この場合、法律上相続人全員で相続登記を行い、さらに相続人全員で不動産売却手続を進めなければなりませんが、現実問題として相続人全員で手続をするのは大変です。
そのため遺言執行者を定めておくことによって、相続人の代表者や第三者がスムーズに手続を進める事ができます。※その他にも、遺言執行者が選任されていなければ行えない手続があります。
遺言執行者がいる場合のメリット
主に、遺言執行者は遺言内容を実現することが困難な場合に役に立ちます
遺言内容を実現することが困難な場合の典型例は、相続人ではない第三者に対して、財産を遺贈する場合等です。
相続人ではない第三者に対して遺贈する場合、手続きとしては相続人全員の協力がなければ財産をその第三者に遺贈することはできません。
そのため、相続人のうち1人でも手続きに協力てくれない方がいれば手続きをすすめることができないわけです。※改正後の民法に該当する相続人に対する遺贈は単独申請が可能です。
こういった場合に備えて遺言執行者を定めておけば、相続人全員の協力がなくとも相続人全員の代わりに遺言執行者が遺贈にかかわる手続きを進めることができますので、遺言内容がより実現しやすくなります。
その他、金融機関によっては、遺言執行者の定めがないと、遺言による払い出しは原則行わないという取り扱いをしている場合があります。
また、相続手続きの際に必要になる書類も少なくて済むというメリットもあるでしょう。
遺言執行者に選任されたが就任をためらっている…
遺言執行者への就任は拒否することができます
日々の仕事が忙しいため、遺言執行者として財産目録を作成したり、他の相続人に通知をしたり動き回る暇なんてないという方もいらっしゃるかと思います。上に述べたように遺言執行者には一定のケースでメリットがありますが、遺言執行者を定める必要がない場合もあります。
遺言執行者への就任は手間が増えるだけでデメリットのほうが多いという事もあり得るわけです。こういった場合どうするかですが、遺言執行者への就任を拒否することができます。
遺言執行者というのは遺言者に一方的に指定されるものですから、これは当然といえば当然でしょう。就任するのか、拒否するのかを決める期限などは特に設けられていませんが、就任したらすぐに遺言執行者に就任したことを他の相続人全員に通知する必要があります。
遺言執行者を拒否した場合には、全員に通知する義務はとくにありませんが後々のトラブルを避けたい場合には、書面で他の相続人全員に通知しておくのがベターでしょう。後で「遺言に執行者って書いてあるんだから、あなたが遺言内容の実現に向けて動いてくれていると思っていた!」と言われないためです。
遺言執行者が就任を拒否した場合で、相続手続きをすすめることが困難な場合などには、相続人は必要な時に家庭裁判所に遺言執行者選任の申立をすることができます。
注意ポイント
1.いったん就任してしまうと正当な事由(裁判所が判断する)がない限り辞任することはできなくなります。
2.他の相続人から遺言執行者に就任するのか否かの催告があった場合に無視していたりすると、遺言執行者に就任したものとみなされてしまいます。(民法1008条)そのため、遺言執行者に就任したくない場合には、積極的に就任しないことを通知するなどして相続人に証拠として示しておく必要があります。
3.金融機関によっては遺言執行者の記載がなければ、相続人全員の委任がなければ払い出しの手続きに応じないという運用がなされていることもあるので、遺言執行者に就任しない場合で、例えば連絡のとりづらい相続人がいるような場合には、金融機関の運用についても確認しておくのがよいでしょう。
遺言執行者に就任した後で他の人に任せることはできるか
民法が改正されたたため、遺言作成された日付により扱いが異なります。
2019年7月1日以前に作成された遺言の場合
旧民法はやむを得ない事由(怪我や病気など)がなければ第三者に任せられないというルールでした。
とはいえ、遺言の執行は相続財産が多岐にわたり、相続人の数も多く大変なものとなれば相続人が一人で進めるのは難しいので、この場合、司法書士などに遺言執行の一部を個別に委任するという方法があります。
(遺言執行者の復任権)第千十六条 遺言執行者は、やむを得ない事由がなければ、第三者にその任務を行わせることができない。
2019年7月1日以降に作成された遺言書の場合
新民法は旧民法に比べ、全面的に遺言執行を専門家に依頼できるようになりました。
ただし、遺言執行者を頼んだ人が横領をしたりした場合、遺言執行者を任せた本人にも責任がありますので、委任には慎重になるべきです。
(遺言執行者の復任権)第千十六条 遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
もちろん、当事務所で遺言執行業務をサポートする事も可能です。
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その他、民法改正後の遺言執行者の権限の明確化等について
遺言執行者は全面的に権限が明確化されましたが、旧法と改正後民法の特徴をまとめておきました。
旧民法 | 改正後の民法 | 適用時期 | |
第三者への権限の委任 | やむを得ない事由が必要 | 自己責任で可。ただし、別段の意思表示があるときは不可。 | 2019年7月1日以降に作成された遺言 |
任務の開始 | 就任承諾をしてから直ちに開始 | 同左 | ー |
任務の開始時の通知義務 | なし | あり | 2019年7月1日以降に就任した遺言執行者 |
権利義務 | 相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する | 同左 | ー |
遺贈の履行について | ー | 遺言執行者がいるときは、遺贈の履行は遺言執行者のみが行う事ができる | 2019年7月1日以降に就任した遺言執行者 |
特定財産の対抗要件具備 (相続させる遺言) |
不可 | 可 ※ | 2019年7月1日以降に作成された遺言 |
※ 対抗要件とは? … 不動産登記、債権の確定日付付の譲渡通知、動産の占有移転などです。
民法改正後、一部事業者が遺言執行者として就任し、他士業の独占業務(訴訟、登記、社会保険や年金手続)を潜脱行為として行っている事例が散見されます。
こういった事業者は専門家としての倫理観を欠くことが明らかですので、遺言作成時の専門家選択には十分にご注意ください。
遺言執行者がしなければならないこと
① 就職したら、相続人全員に就職したことの通知。その後は行動の都度相続人全員へ報告しなければならない
➁ 相続財産目録を作成
③ 直ちに遺言に書いてある内容の実現に動かなければならない
④ 財産を大切に扱う事(善管注意義務)
親族の一人を遺言執行者として指定する場合もありますが、➁の相続財産目録の作成が大変であることや、遺言の執行を巡って相続トラブルに発展することもあるので、遺言を残す際には専門家に遺言執行者を依頼しておくことが賢明です。なお、遺言の執行は業務として法令で規定されているのは弁護士と司法書士だけです。
行方の知れない相続人もいるのですが…
そのための遺言執行者の指定です。行方の知れない相続人がいる場合でも、遺言執行者が相続人の代表として遺言内容実現にむけて行動することが可能です。
第四節 遺言の執行
(遺言執行者の指定)
第千六条 遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
2 遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、これを相続人に通知しなければならない。
3 遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。
(遺言執行者の任務の開始)
第千七条 遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
2 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。
(遺言執行者に対する就職の催告)
第千八条 相続人その他の利害関係人は、遺言執行者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に就職を承諾するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、遺言執行者が、その期間内に相続人に対して確答をしないときは、就職を承諾したものとみなす。
(遺言執行者の欠格事由)
第千九条 未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。
(遺言執行者の選任)
第千十条 遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。
(相続財産の目録の作成)
第千十一条 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
2 遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。
(遺言執行者の権利義務)
第千十二条 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
3 第六百四十四条、第六百四十五条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。
(遺言の執行の妨害行為の禁止)
第千十三条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
2 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
3 前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。
(特定財産に関する遺言の執行)
第千十四条 前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。
2 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。
3 前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。
4 前二項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
(遺言執行者の行為の効果)
第千十五条 遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。
(遺言執行者の復任権)
第千十六条 遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
2 前項本文の場合において、第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは、遺言執行者は、相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。
(遺言執行者が数人ある場合の任務の執行)
第千十七条 遺言執行者が数人ある場合には、その任務の執行は、過半数で決する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
2 各遺言執行者は、前項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。
(遺言執行者の報酬)
第千十八条 家庭裁判所は、相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。ただし、遺言者がその遺言に報酬を定めたときは、この限りでない。
2 第六百四十八条第二項及び第三項並びに第六百四十八条の二の規定は、遺言執行者が報酬を受けるべき場合について準用する。
(遺言執行者の解任及び辞任)
第千十九条 遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。
2 遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。
(委任の規定の準用)
第千二十条 第六百五十四条及び第六百五十五条の規定は、遺言執行者の任務が終了した場合について準用する。
(遺言の執行に関する費用の負担)第千二十一条 遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする。ただし、これによって遺留分を減ずることができない。
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